久三(きゅうぞう)と嘉世子(かよこ)
老爺の妻は皺だらけの老婆だった。背筋も曲がったままで、自分一人の力では歩くこともできない。老爺に支えられて立ち上がった。しかし震えている。老爺とは同い年だそうだが、老爺よりも年老いているように見えた。
「わしの妻、嘉世子じゃ」
「……うう」
「なんだ?」
唸るような声を出して、嘉世子は笑った。電蔵はそれがなんだかわからず、反射的に問うたのだ。
「……嘉世子は、ちょいと重い病にかかっててな」
「……そうか。大事にしろ」
「……うう」
「…………それは、治るのか」
「……わしの力ではどうにもできねえ。医者の力でも……わからねえことよ」
老爺は唇を噛み、悔しさを露わにした。電蔵は何を思ったのか、表情を変えずに老爺に訊いた。
「爺さん。お前さんの名は」
「わしは久三」
「キュウゾウ。キュウ爺さんだな。オレは電蔵だ。紫水電蔵」
「なんじゃその呼び名は。お化けみたいだな。デンゾウじゃな」
「宜しくな。キュウ爺さんとカヨ婆さん」
「宜しくデンゾウ」
「……うう」
老爺の名は久三。老婆の名は嘉世子。電蔵の義理の祖父と祖母になるのだろうか。
年齢を考慮すれば、母である王様の方が祖母なのだが。
電蔵は苦笑した。王様のことを思い出して辛くなったのを笑い飛ばした。
久三たちとの生活が始まった。電蔵はこれから世話になるので、家事を覚えることにしたのだ。
残念ながら電蔵は食べ物を食べないので、料理を作ったことがない。電蔵の力で部屋も物も綺麗にできるので、掃除をしたこともない。服は繊維でできていないので、洗濯をしたこともない。何もかもをしたことがない。する必要がなかった。
人間が生活していく上ですることのほとんどを、電蔵はしたことがない。
なんでも簡単にこなせていた電蔵が、かなり戸惑いながら家事をすることになった。
「……電蔵。お前、もういいぞ?」




