あと少しで牢屋行きだった
「お前、びっくりするくれえ、正直だな」
「じいさんがよく考えてるやつだったからだな。老人なんてみんな、頭すっからかんで文句か我儘しか言わんやつばかりだと思っていた。特にオレの上の者がそれでなァ」
「正直すぎて腹が立ってくるわい」
「腹ん中で何考えてるかわからんよりはいいだろう」
電蔵は老爺に笑ってみせた。老爺はフ、と笑って違いないと答えた。
「そうだ。お前……さっき国籍がどうとか言われていたな」
「ああ。そうだが」
「わしのとこの養子になれ」
「おう! そいつは本当か?」
唐突な申し出だが電蔵は表情を明るませた。電蔵も王様に似て、よくも悪くも素直なのだ。そこは驚くところだろうと老爺は突っ込んでいる。
「日本人なんだろ」
「日本人ではないな」
電蔵はやはり正直に答えた。嘘をつくのはよくないと考えている顔をしている。
「……ならどこの国のモンだ」
「イギリスの近くで生まれた。そうだな、これは在日というやつだ」
「はあ~。あの飯がしゃれていることで有名なイギリスか!」
「そうか? じいさん」
「有名だろう」
「あのう……盛り上がってるところ、大変申し訳ないのですが……」
「ん?」
「後がつかえておりますので……」
電蔵たちの後ろに列ができていた。苛々している様子。電蔵と老爺は謝った。
「悪かった」
「すまんな、嬢ちゃん」
「いえ……後ろの方に謝っていただければと……」
役所の者は苦笑いをした。困らせているのは電蔵と老爺だ。後ろの者たちにも二人は謝った。大バッシングを受けたが、電蔵はあまり気に留めなかった。そんなことでいちいち落ち込んでいたら、王様からの嫌がらせには耐えられないからだ。
電蔵のメンタルも老爺のメンタルもかなり強い。
警察に突き出される予定だったが、住所不定の無国籍と疑いをかけられている電蔵を老爺が養子にすることにより、その悪しき予定は取り消されることになった。




