春川友青という人間
電蔵は日本語で話しているということも忘れて、うっかりブラックスフィアのことを言ってしまったのだ。無論、友青はそれに突っ込みを入れた。
「なんだよ、そのブラックなんたらっていうのは……」
「うーん。そうだなァ。王様に献上できるほどの器になれば、教えてやっても構わんが」
「献上!? 俺、オマエに売られるわけか? オマエ、危ない奴だったのかよ」
友青は金切り声を上げて、電蔵への不信感を募らせている。電蔵はそれでも笑っていた。
「出会ったばかりの見知らぬ男を信じてしまう少年も、随分と危ないやつだな。そんなのでは、騙されてしまうぞ。オレみたいに外面をよくしたやつは山ほどいるんだろう。人間の世界はそんなもんだと息子たちも言っていた。お前さんも悪いやつに騙されぬように、気を付けるんだな」
「……お、おう……」
電蔵はそう言ってから、友青に別れの挨拶をした。
友青の名を聞いたものの、何歳でどこに住んでいるのかという情報は得られなかった。かなり打ち解けたが、やはりそこまで訊ける間柄でないことは明白。電蔵も踏み込めないところだと呟いている。彼とまた会うために、電蔵はカードを取り出して追跡を開始する。
「黒い情報網。追跡の許可を」
カードが黒い光を放つ。許可が下りた。カードは光線を出し、友青を捉える。その光は遠くにいても捉えてくれる。いわば、完璧な追跡ができる優れものだ。これがあるから電蔵がよく使われる。電蔵の力は最早、魔種を超えているのだ。どの魔種より優れている。
「何故オスの身で男なんぞをつけねばならん。何も得しない嫌な身分だ。つけるのなら、異性がよかったぞ。これではまるで変態じゃないか。陰険なチビ王め」
電蔵はこっそりと友青の後をつけた。電柱や建物の影に隠れてやり過ごす。ストーカーだと思われるのが自然だが、そこらのことはうまくできるのが電蔵だ。カードの光が導いてくれるので、友青を見逃すことはないし、たまに違うところを見て場所を探しているように振る舞う。王様の側近だけあって、大抵のことはなんでもこなす。
ただ少し口が悪いだけで誰よりも有能なのだ。
「……それにしても」
人が多いと電蔵は呟いた。領土が狭い割に人口が多いと言いたいのだ。建物もたくさんあって、どれがどれだかもわからない。ビルや住宅というのはわかるのだが、いかんせん電蔵は文字が読めない。言葉はわかるようになっても、日本語をマスターしたわけではないのだ。電蔵には漢字が記号にしか見えない。遠く離れた異国の言葉だ。
周りを見ているうちに、友青の家が判明した。
青い屋根で二階建ての一軒家だ。車庫等は特になし。恐らくは一般的な家庭だろう。
インターホンを押して、友青は家の中に入っていった。友青は電蔵に気づいていない。




