年齢を誤魔化す電蔵
男子はいきなりのことすぎて気が動転しているようだった。慌てているのが面白かったのか、電蔵は噴き出した。思っていた人物とは違ったのだ。この男子が。
「悪かった。お前さんにぶつかったこと、謝ろう」
「オマエさんって……俺とそんな歳変わらねえだろ」
「ああ……歳の話はするな。オレはお前さんよりかなり年上だ。古いお兄さんだ」
「……古いお兄さんって……自分で言うかよ」
「オールドブラザーだ」
「いちいち英語で言わなくていいって」
鋭い眼で男子が突っ込んでいるが、電蔵はあまり話を聞いていない。仮の年齢を考えるので手一杯だ。
「そうだな……。とりあえず、十八ってことにしておくか」
陽気な感じも爽快な感じもする電蔵が、かなり上だとは信じられないのだろう。男子は電蔵の顔を睨みつけるように見ている。若々しさを保つ秘訣でも訊くつもりなのだろうか。
「……それ以上かよ。その見た目で」
「ああ。そうだが」
「……って。なんで俺が初対面のオマエと話し込んでんだよ。なあ?」
我に返ったらしい男子が、両手を広げて電蔵に問いかけた。演技くさく、芝居がかっている仕草だ。電蔵は頭を掻いて目を逸らす。
「はっはァ。お前さん、実は話したがりだな?」
「……なんで俺の顔見て話さないんだよ」
電蔵は頭を掻き毟って、文句を垂れた。
「頭が痒くてな。ああ、痒い痒い。お前さん、青いなァ。見てられん」
「……んだよ。俺よりオマエの方が青いじゃねえか」
「毛色の話をしてるんじゃない。阿呆か? お前さん、本物の阿呆なのか?」
電蔵は掻き毟っていた手を止めて、唾を飛ばす勢いで男子に言葉の牙で噛みついた。男子は臆せず電蔵に立ち向かう。それどころか噛みつき返す勢いだ。
「アホアホ言うなって。関東人に向かってアホは禁句だ! オマエ、関西人か!」
「なんだ、それは。日本人にはそんなにたくさんの種類があるのか?」
「種類って……住む場所が違えば文化も違うとかいうやつだよ」
「ほう。そうなのか。イギリスもそうなんだな」
「知らねーよ。オマエイギリス人か!」
「イギリス人ではないな。ちょいと近くには住んでいるが。詳しくは話せん」
「いや、オマエ俺と初対面っての忘れてね? なんか馴れ馴れしすぎね?」
「……そうか? オレはそんなつもりはないが」
「馴れ馴れしいぜ。オマエ、絶対三番目くらいには馴れ馴れしい人ランキングに入る」




