少年とコミュニケーション
「日本語で喋れ。日本人じゃない奴は日本に来るなよ」
態度も顔も可愛げの欠片もない男子が、日本語で電蔵に言い放っている。電蔵は彼の意図を理解できず、頭を抱える。しかし、仕草でなんとなくはわかるのだ。
「ああー。わからん。が。……お前さん、侮辱してないか?」
「くそ……オマエ、謝れよ。俺に当たったんだからよ」
男子は言い逃れをするために、話を逸らした。その焦りようを電蔵は見逃さなかった。
「なァ、お前さん。いや、少年と言うべきか? 少年、王様に尽くすつもりはないか?」
「……何語だよ。意味わかんねえ。図体だけでかいからって、調子乗んなよ」
拳を構えて臨戦態勢になっている。シュッシュッと口に出す。ボクサー気分なのだろう。
「……何かよくわからんが、戦って負けたらお前さんは王様に仕えるってことか?」
電蔵は男子の態度をいいように捉えている。楽観的なところは誰譲りなのか。
ズボンのポケットからカードを取り出して指に挟んでかざした。男子は素直に目を輝かせている。格好いいとでも言いたげで憧れている様子だ。
「オ、オマエ……中々やる奴か? 俺を……欺くなんてよ」
「……よくわからんが、背伸びしているような台詞を吐いている。少年、恥ずかしいなァ。背伸びするほどお前さんはちっさいんだな。今に大きくなる。王様に伸ばされるからな」
人のいい朗らかな笑みを浮かべて、電蔵は男子を励ます。しかし話が噛み合っていない。
男子は警戒心を解いた。その代わり、蔑むような目で電蔵を見ている。
「……なあオマエ。変な奴だな」
「……やはりわからないか。オレもわからん。仕方ないな」
電蔵は唸って指を鳴らした。最終手段を使うしかないと呟く。
「……なんだよ。びびるだろ」
電蔵のいきなりの挙動に、男子は仰け反った。
電蔵はカードを額に当てて、ぶつぶつと呟く。王様と交信しているのだ。
「王様。力を貸してくれ。日本語がわかるようになりたい。言語変換の力をくれ」
電蔵がおかしなことをし出して、男子は不審に思っている。
カードが黒い光を放つ。そこから声が漏れていることを、男子は感づかない。
「よし。聞こえた。やっぱり王様は頼りになるな」
げんきんなことを言い出す電蔵は、いつもよりいい笑顔だった。
カードの光が静まると、電蔵はカードをポケットに入れ直した。咳払いをして、男子を片目で見た。
「……あ。ん、んん。これでいいか?」
「……! ちょ、オマ、オマエ。どうなったんだよ、いきなり」




