逆ナンされる電蔵
「…………ああ。すまない。日本語はわからないんだ」
電蔵は日本語で訊いてくる女性に、母国の言葉で話した。当然のように目を丸くした。女性たちは顔を見合わせて、話し込んでいる。
「ね。どこの国の言葉よ?」
「お兄さん、何人ですか?」
「…………英語なら、少しはわかるかもしれん……」
電蔵の言葉を理解できない女性たちが、苛立っている様子だ。
「……何喋ってんのか、わかんないぃ」
「ね。逆ナン待ちかと思ったのに、ショックー」
「イケメンなのにさ。ちょっと変だけど」
単語しかわからない電蔵は、日本人が話していたものを少しアレンジして話しかけた。
『すみません、日本語はわかりません。あなたの名前は?』というように訊いた。日本人が話していた英語なので、実際に合っているかどうかはわからない。電蔵はごくりと息を呑んだ。
うろ覚えの英語を話すと、女性たちはわっと盛り上がった。話が通じないわけではないと、そう言いたいらしい。みんなして手を合わせて飛び上がっている。元気な女子だと電蔵はぽつりと呟いた。
「……英語? イケメン君、英語喋ったぁ?」
「ね。この人、今英語喋った?」
「日本語わからないって言ってた。よかった、怖い国の人かと」
ホッと安堵の息を漏らしている。なんとかコミュニケーションが取れてよかったと電蔵も安心した。しかし英語では話してくれなかった。電蔵は引き続き英語で話した。
『あの……人を探しています。若い男の子』という意味で言った。
そしたら女性たちは首を傾げた。表情から疑問符が滲み出てくるようだ。
電蔵は冷や汗を浮かべて口元を引き攣らせる。非常にまずい状況だ。言葉を間違えたかと不安になる。意味が伝わらなければ、コミュニケーションは成立しない。
「……ねえ、あず。美紀。ルッキンフォーってどういう意味だっけぇ」
「え。忘れた……」
「それよりヤングボーイって言ったよ、今。自分のこと、若い男の子って言ってるのかな」
「なんなんだ……日本人……」
全く意味のわからない言語を話され、電蔵も苛立っている。言葉の通じないことは、それだけ面倒なことなのだ。電蔵は小さく舌打ちをした。電蔵は王様の所為で性格が歪んだので、口汚く、不良である。女性たちはそれには気づいていない。




