日本へワープ成功
日本に降り立った電蔵は、その異様な街並みに目を奪われた。西洋風の建物しか見ていなかった電蔵には、日本の建物は異質。高層なビルが建ち並び、大勢の人間でごった返す。
交差点のど真ん中に突如として現れた電蔵を、人々は関係なさそうにしながらも不審な目で見る。
肩がぶつかり、邪魔だと人々に文句を言われる。電蔵は前のめりに倒れそうになったが、どうにか持ちこたえた。ブラックスフィアともイギリスとも時間差がある。出発したのは夜だったのに、朝時にワープしてしまったのだ。九時間くらいの時差。
電蔵は人々の波に揉まれながら、なんとか交差点から脱出することができた。
今までにないほどの疲労。王様の命よりも酷いと呟く。
「……ハッ、ハァ……日本は……凄く変なところだ……」
電蔵は建物の隅に寄って、人々の邪魔にならないようにやり過ごした。日本でも田舎にワープしていればこんなことはなかったのに、何故か都会に来た。人でいっぱいに埋め尽くされる状況を、電蔵は初めて経験したのだ。ブラックスフィアもイギリスも、こんなに狭い土地でたくさんの人が溢れ返ったりしなかったから。
だが、電蔵は日本を知っている。記憶が一部欠落しているので、実際の日本を見るのは初めてだ。が、息子たちに聞かされてきた。どんな国で、どんな人がいて、どんな文化があるか……それを息子たちが話していた。王様もそれを聞いていたのだろう。王様が女性の話だけで興味を持つはずがない。非常識な王様でも、きちんとした根拠のある考え方は持ち合わせていると電蔵は呟いた。
王様のことを貶すのは楽しいのだ。我ながら歪んでいると電蔵はニヤリと笑う。
「さてどうする……」
建物の前で電蔵は顎に手を当てた。人々がひとりごちる電蔵をちらと見やる。
それは当たり前のことだ。日本語を話しているのではなく、見かけない国の人間だと思われているから。電蔵の水紫色の髪と赤黄色の瞳はそれだけ人の目を引く。着ている服も。黒い髪、黒い目が普通の日本人だが、時折おかしな髪の色をしている日本人もいる。明らかに染めている。そんな人物が電蔵を見て驚き、変な人だと冷めた目で見たりしているのだ。電蔵は眉を顰めた。
「……オレと同い年くらいの人間しかいないぞ……。いや、どのくらいの歳かはわからんが……恐らくは……年配なんだろうな。人間の年齢は難しいな……」
目を引いてはいるが、皆忙しそうに走っていったり、早歩きをしたりしている。電蔵のような者に構っている暇はないとでも言いたげだ。電蔵も声をかけられるのは好きではないので、まあいいかと息をついた。
「……ま。ここが昼になるまで待つか……」
電蔵は頭を動かして、建物にもたれた。人がいっぱいだとうまく動けないから、人が少なくなるまで待っているのだ。
電蔵が退屈そうに待っていると、派手に化粧した茶髪の女性たちが数人近寄ってきた。電蔵を物欲しそうな目で見ている。電蔵はいやそうな顔をしなかった。
「あのぅ。もしかしてコスプレしてるんですかぁ?」




