庄時に頼み事
扉を開けてもイギリスにしか行けない。日本に行くには、ワープをする力を持った庄時に頼むほかないのである。
「庄時。お前さんに頼みたいことがある」
「わかってる。お前が行きたいとこは知ってる」
「話が早いな。早速頼む」
「ちょっと待て。話は聞いてたが、俺はお前みたいに早く力を使えないんだ」
庄時は手の平を突き出して、電蔵に言った。
「ほう。そうか……お前さんの力を間近で見るのは初めてだったっけか」
「そうだよ。お前みたいに簡単に力を使えるのは珍しいんだぞ? あんな一言、二言言ったくらいで力を使えるのは、超絶凄いことだ! 俺はお前が羨ましい」
「オレもお前さんが羨ましいな。好きなとこに行けるじゃないか。どこへでも行き放題だ。金が要らん。無断で旅行しまくれるぞ。かなりいい力だ」
「そんなことできるか! 人間に捕まるんだぞ? おぞましい……。思い出しただけで怖気が走る。あんな暗いところ、二度と行きたくない」
庄時は怯えたように頭を抱えて、その場に蹲った。
庄時の言動に電蔵は冷ややかな目をする。血の通わない、オスの目だ。
電蔵はしゃがんで、庄時の肩を優しく叩いた。
「……お前さん、捕まったんだな……」
「言うな! 王様に言えない……」
庄時は頭を振り乱す。何度も何度も頭を振る。その事実を肯定したくないばかりに、首が痛くなるまで頭を振っていた。そんな情けない庄時の背中を電蔵がさすった。庄時は泣きそうな顔をしている。込み上げてくる涙を必死に堪えているのだろう。
「王様には言わんさ。言わんが……もしかしたら聞いてるかもしれん」
「うっ……それは困るな……」
庄時は苦い顔をしている。涙が引っ込んだらしい。
「その時はその時だ。ま、気楽に構えとけばいい。王様はお前さんには優しいだろう」
「……優しい代わりに、お前に対してより、無関心だと思うけどな」
「……そうか。それは悪かったな」
庄時が羨望の眼差しを向けてくることに、電蔵は非常に驚いた。他の息子たちには代わって欲しいと散々呟いてきた電蔵。電蔵の今いる場所を皆は恨みがましいと思っているのだろう。自分たちにも目を向けて欲しい、と思っているのだろう。
電蔵は目を細めて、元気のない表情をした。




