暫く離れ離れ
「そんなことだと!? お主、わしの感動をどうでもいいの一言で片づけるのか! あんまりだ! 鬼だ! 悪魔だ! 魔種でなし!」
顔を押さえて、涙目になる王様。表情を思いっきり表に出しまくるのが王様で、いい意味でも悪い意味でも裏表のない者だ。その点に関して、電蔵は救われているような気分になるらしい。野心家でないことは即ち、この世界を傾けさせないからだ。
この世界が悪い王様の手に渡れば、すぐに崩壊してしまう。そうでないのが救い。
「王様にそんな風に言われるとはなあ……オレは傷ついたぞ?」
「き、傷ついたのか、お主が。わしに、あんまりだと言われて」
「はっは! 嘘だ!」
「ぬぁにぃ!? お主……! わしを謀ったな!?」
「まあまあ」
電蔵は気楽に対処して、王様を宥めた。電蔵と王様はいつも相手をからかうようなことをする。これぞ二人の関係。楽しんで楽しまれる面白い関係だ。王様と息子という関係だけでは表せない、不思議な関係でもある。それがいいと王様も電蔵も思っているのだ。節々に感じ取れる感情が、そう告げている。だが、話が脱線しまくっていて、一向に進まないのが難点。
「……ふう。お主と話すとわしが疲れそうじゃ。さっきの話に戻すぞ」
「では、オレは日本に行けばいいんだな?」
「そうじゃ。日本に行ってこい! 暫く帰ってこなくてもいいぞー」
「それは好都合だな。やっと暇がもらえるわけだ。満喫してくる」
清清した、肩の荷が下りたといった表情で電蔵は言いきった。
「ふん! お主なんぞ日本の人間どもに揉みくちゃにされればいい! わしは知らん!」
王様がそっぽを向いて、頬を膨らませた。束ねた長髪が揺れる。
電蔵は少しだけ寂しそうな表情を見せた。だが、すぐに真顔になって、一言だけ告げた。
「さよならだ」
「……いや。まだお主の役目は終わらんぞ……電蔵、お主を消滅させたりしない……」
王様は電蔵に聞こえないくらいの小さな声で忌々(いまいま)しげに呟いた。この世界の決まりに対する怒りを滲ませる声。王様はそれぐらい電蔵を気に入っているのだ。
電蔵は気づいている素振りを見せなかった。王様の思いは、電蔵には届かなかったのだ。
こうして電蔵と王様は誤解を生じたまま、離れ離れになった。




