必殺泣き落とし
「それはありがたい……が、もう聞かれていたりしてな」
電蔵は苦笑する。王様も同じように苦笑した。それから王様はにたりと悪魔のような笑みを浮かべる。
「……はっはっは。だったら、言ってもいいな?」
「いや。わざわざ言わんでもいいだろう」
「お主を困らせるのは大好きだ!」
「ああ! 性格が悪いっ! 鬼だ! 悪魔だ! 魔天種でなし!」
電蔵は真顔で頭を抱えた。王様は満足げに高笑いしている。一通り笑い終えると、王様は急に神妙な面持ちになって、電蔵に問うた。
「……どこの国にするか、決めたか?」
「面倒だ。もうイギリスに近い国でいいんじゃないか?」
「……それこそ世界が狭い! もっと旅をしろ、旅を!」
「……日本はどうだ」
「何故日本?」
「ショタというものを創ったのが日本だと聞いたぞ。それは寒糸が言っていた」
「何っ!? それはいい! でかした、寒糸! では本場のショタを拝むぞ! 電蔵、連れてこい!」
王様は見るからにご機嫌な表情になった。電蔵は見るからに不平不満を言いたげな表情になった。またしても、電蔵は王様の召使いとなる。
「何故オレなんだ!」
「お主がいいんだ!」
それは告白とも取れる物言いだった。しかし相手は母であり王様なので、それはない。
甘えるような声で、王様は手を組んだ。瞳を潤ませて同情を誘うようにしている。
「お主じゃなきゃやだ……」
「気持ちが悪いぞ、王様」
「電蔵は酷いやつじゃのう」
「王様よりましだ」
「わしの必殺泣き落としにも屈せんとは……」
王様はぶすっと頬を膨らませた。
「オレは必ず殺されるのか?」
「必殺とは必ず殺すものなのか! 初めて知ったぞ! そうじゃったのか!」
王様は目を見開いて、新発見をしたと言いたげに拳を握り締めた。
「そんなこたどうでもいい」




