エピローグ じいちゃんと再会
そこは、見たこともない温かい世界だった。
来たのが初めてだからだろうか。
どんぶらこと流れる川。向こう岸で釣りをしている老爺。他にも釣りを楽しんでいる人々がいた。
多分、死者だ。
電蔵は船を漕いで、川を渡っていった。
向こう岸まで着くと、電蔵は老爺に話しかけた。
「じいちゃん」
「……なんだ? 電蔵か。なんでこんなところにいる。お前さんにはまだ早いだろう」
「いや。ボクには、随分と長い時間だったよ。じいちゃんに会えなくてさみしかった」
よっこらせと老爺の隣に座り込む。そしたら、勝手に釣り道具が顕現した。
「それで、じいちゃんのことわすれちまったんだ。ひどいやつだろう、ボクは」
「いいや、電蔵は良い子だ。だからこうして天国に来ている」
「そうかな。ボクは良い子だったかな」
老爺の前で、幼き頃に戻る電蔵。頬に滴が伝う。
「辛いこと苦しいこと、たくさんあっただろう。だが、良い思い出もあっただろう。聞かせてくれ、お前さんの歩んで来た歴史を。オレはなァ、お前さんのことを忘れた日はなかったよ。素直でかわいらしい孫のように思っていた」
「じいちゃん以外にも良くしてくれた爺さんがいたんだ。久爺さん。あの人もじいちゃんと一緒で、良い人だったよ。ボクは何も返せないまま、去ったんだ」
電蔵の表情が曇る。願い事を叶えてあげられなかったのが、心残りだった。
「出会えただけで奇跡みたいなもんだ。お前さんは、何もしてやれなかったと思っているだろうが、その人にとっては、お前さんはかわいい孫同然。何かをやってあげたかったのだろう。良い子でいるお前さんのために何かやってあげたかったんだ。ありがとうって言ってもらえるだけでも、嬉しいもんだ。それだけで恩返ししたようなもんだ」
老爺は電蔵の頭を優しく撫でた。電蔵は目を瞑る。
「そっか……。なら良かった」
「ああそうだ。ところでお前さん、随分と背が伸びたな。昔はあんなにちっこかったのに」
背丈を手で表現する老爺。電蔵は茶目っ気たっぷりに言葉を返した。
「大きくなったんだよ。それほどの月日が経ったんだ」
「そうかそうか。現世は楽しかったか?」
「それほどには楽しかった。友達もできた」
「どんな友達だ?」
「こう、生意気で……かわいげのない、クソガキみたいなやつだ!」
ケラケラと電蔵は笑う。老爺も一緒になって爆笑した。
そのあとも長い、長い話を老爺に聞かせた。
電蔵のすぐ傍で、花が咲いた。




