作戦開始
時刻は午前10時30分。約束の時間に間に合うよう早めに家を出たが…
「少し早かったか…」
俺は待ち合わせ場所の新東京アウトレットパークエントランスに既に到着していた。とは言え、今日は土曜日。休日のレジャー施設ということでエントランス付近ですら相当な人の数であった。
「まぁある意味正解だったな」
今日のコーディネートは、黒のシャツにワイドデニムパンツとシンプルな服装だ。オシャレに自信はないがひとまず流行はおさえているだろう。
俺が身だしなみを広告板の窓ガラスで確認をしていると聞き覚えのある声に話しかけられた。
「零さん、おはようございます。随分と早い到着ですね」
声の正体は予想通り、獄之宮薙月だった。獄之宮先輩は、薄いエメラルドグリーンのポロシャツを黒のストレートデニムパンツにタックインするというコーディネートだ。獄之宮先輩のクールビューティーというイメージからすると意外なカジュアルコーデではあるが、流石美人、見事に着こなし、完璧に似合っていた。
「獄之宮先輩、おはようございます。時間に余裕を持って家を出たら少し早く着いちゃいました」
「良いことです。私も早く着いてしまいましたから」
そう言って獄之宮先輩は一瞬柔らかい雰囲気を見せて、微かに笑った。見知った獄之宮先輩の服装とは違うからか、ドキッとするような仕草であった。
「立って待つのもくたびれますから、先にお店に入っていましょうか。不忍楓にはメッセージを送っておきます」
「ええ、そうですね」
俺たちは新東京アウトレットパークエントランス付近のカフェに入った。席に座り、注文をする。しばらくすると、2人分のコーヒーが席に届けられた。
「中間試験、獄之宮先輩がいたらそうそう負けることもなさそうですね」
「薙月」
獄之宮先輩がボソッと呟く。
「え?」
「我が校の校長も同じく獄之宮です。同じコミュニティに獄之宮姓が少なくとも2人はいるのですから、私のことを名前で呼ぶほうが合理的です」
「確か…に?じゃ、じゃあ、薙月先輩?」
「はい。なんでしょう?」
今度は明らかにニコリと笑ってこちらに返事をした。その笑顔に困惑してしまった。
「お待たせしたでござるぅ」
俺が数秒言葉を詰まらせていると、タイミングよく不忍楓が汗だくでやってきた。
「いや、待ってない。俺たちが早く着いただけだ」
「はい。不忍さんは時間通りに着いてますよ」
「良かったでござるぅ。…それで、作戦会議は進んだでござるか?」
「これからです」
「全員揃ったことだし、始めるか」
「御意!」
「それじゃあ、まずそれぞれの異能力を把握しておこう。金貨の奪い合いがメインの試験になる。お互いの得意不得意をはっきりさせておいたほうが対策もできる」
「それでは拙者から!」
不忍楓が元気よく声を上げた。
「拙者の異能力名は-存在希釈-。自分を中心とした一定範囲で自分の存在を無いものとすることができるでござる」
「存在を無いもの…?」
「まさしく!拙者を中心とした一定範囲では拙者の存在は無になるでござる!即ち!人体以外は全て透過すると考えて頂ければ結構!!壁や床の通り抜けは当然のこと、光も拙者の体を透過するが故に人の目に映らないでござる!!」
不忍楓は自慢げに自身の異能力の説明をする。えっへんと言わんばかりの勢いだ。
「なるほど。かなり強力な異能力ですね」
「俺もそう思ってます。楓、今回の試験で言えばお前の活躍が試験攻略の鍵になるかもしれないな」
「せ、拙者の活躍が…!!全身全霊で尽力するでござる!!」
「次は俺の異能力…と言いたいところだが、ご存知の通り、紹介できる異能力は一切ない。だから、薙月先輩、異能力の紹介をお願いします」
「はい。私の異能力は…」
薙月先輩が異能力を説明しようとした瞬間、アウトレットパークのアナウンスチャイムが響いた。
ピーン ポーン パーン ポーン
『緊急のアナウンスを行う。ただ今よりこの新東京アウトレットパークは全エリアを我々《白昼の月》が占拠した。来場客は大人しくパークの中央部に集合せよ。抵抗・逃亡した者は直ちに処分する。こちらは対異能力者用異能力減殺弾を所持している。また、既に来場客の数十名を人質として確保済みだ。大人しく我々に従え』
ピーン ポーン パーン ポーン
カフェ内は酷く静まっている。どうやら他の客も事態が飲み込めないようだ。
「白昼の月…?」
「白昼の月…。生徒会メンバーはある程度把握しています。目的不明の異能力者集団。日本各地でテロ行為を行い、異能力者狩りのようなことを行っているようです」
「異能力者狩りでござるか?!」
「はい。混乱や煽動を防ぐため、政府は情報統制を行って一般市民には白昼の月の情報が漏れないようにしていたようです。私たち生徒会は生徒の安全のため、校長から直々に白昼の月についての情報共有が行われていました。まさかこんなカタチで出くわすとは…」
周囲の客に注意して話していると、カフェの入り口に拳銃を携えた覆面の男がやってきた。
「アニキ…あれ…」
「あぁ、白昼の月の構成員だろうな」
「どうしましょうか。お相手は異能力減殺弾を所持していると言ってはいますが…」
異能力減殺弾。被弾すると異能力者はその異能力を強制的に使用不可状態にさせられるという都市伝説レベルの代物だ。だが、新東京アウトレットパークは人口の多いレジャー施設。こんな施設であれば高位階の異能力者がいてもおかしくはない。そんな施設に無策でテロ組織が乗り込んでくるだろうか?ここはひとまず異能力減殺弾が存在しているものとして動くほうがベターだろう。となれば…
「俺の出番…か」
「えっ?」
薙月先輩が驚いた表情を見せた。それと同時に俺は立ち上がり、覆面男の方へ歩みを進める。
「おい!お前!大人しくしろ!殺されてぇのか?!」
覆面男は拳銃をこちらに向ける。その刹那、俺は魔道-暗歩-で覆面男の背後へと回り込んだ。
「んなっ?!どこに行きやがッ…カハッ」
手刀を首筋に打ち込み、覆面男の腰のベルトを使って手早く手足を同時に拘束した。
「中間試験の模試ってところだな。チームT2作戦開始だ」
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