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トリックスター



『今日のラストマッチだぁぁぁッ!今宵もコイツが暴れるのか?!異能力を一切使わず敵を葬る!正体不明の無敗悪鬼…般若ぁぁぁぁぁッ!』



 俺のリング入りと共に牧の実況が始まる。それにしても華やかな二つ名を付けた割にはリングネーム自体は安直過ぎやしないか。手続きを全部任せた俺も悪いが、リングネームくらいは牧に任せず自分で考えるべきだったな。般若面を被っているから般若だなんて小学生でも思い付くぞ。



『迎え討つは…現在5戦5勝とこれまた無敗、得意の毒で鬼退治なるか!位階7の毒使い、ヴェノムエクスキューショナー荊刑史(いばら けいし)!!』



 牧の実況と共に向かいの扉が開く。そこから現れたのは身長2mほどの大男だった。

 毒使いってだけで何となく細身な奴を想像していた。だが、先入観というのは良くないな。これは戦い方に工夫が必要そうだ。



「お前が噂の鬼だぁ?笑っちまうぜ。こんなチビが無敗だなんて、対戦相手が相当弱かったんだな」



 荊は豪快に笑う。チビだと?俺は172cmだぞ。立派な平均身長日本男児だ。笑うな。イジるな。チビ言うな。反論したいがここは沈黙だ。何より声で正体がバレちゃマズい。



「なんだ?怖くて声も出せないか?それじゃあ、可哀想だからさっさと試合を終わらせてやるかな」



 そう言うと、荊は地面に片手をつく。



「ポイズンチェーン!」



 荊の掛け声と共に地面から鎖のような物体が生成され、俺の右足首を拘束した。



『おーっと、早速お決まりのポイズンチェーンが発動!!荊、厄介な時限爆弾をお見舞いしていく!!』



「こいつは毒で作られた鎖でな。表面にある無数の棘からお前の体に毒が注入されていく。お前の体格からして安静にしていて15分、激しく抵抗すれば5分で死ぬだろう。楽しみだぜぇ、無口で顔を隠したお前のもがき苦しむ姿を見られると思うと」



 なるほど、まさに時間制限つきの爆弾を足に抱えたわけだ。とは言え、見たところどうやらそれ以外の機能はないようだ。鎖状だが重みは全くないし、行動の制限もない。

 俺が手足の可動を確かめていると、自動音声がリングに響いた。



「間も無く試合開始1分を経過。各選手の陣営に武器をランダムで支給します」



 アナウンスと共に荊は俺を警戒しつつ、チラリと武器の確認をした。



「ほう、俺の武器は拳銃か。他の奴らなら取りに行くんだろうけどな、俺には必要ない。こんな芸当もできるからな。ポイズンショット!」



 荊が手を拳銃のように構えると人差し指から紫色の球体が高速で射出された。俺は荊の指の角度と視線を頼りに難なく球体を躱す。王真家では幼少から武術の鍛錬を積む。拳銃の対処法は当然完璧だ。似た原理の武器や異能力であれば余裕で躱すことができる。



「ほう。これを避けるか。無敗の称号は伊達じゃないわけだ。しかし、残念だな。お前、自分の武器を確認したか?」



 俺はチラリと武器を確認する。すると、自陣営の武器支給所にはナックルダスター、所謂メリケンサックがキラリと光っていた。俺は荊の動きに気を配りつう、ナックルダスターを回収し、右手に装着した。



「かっかっか。悲しいねぇ。無敗の鬼がメリケンサック程度の武器にさえ縋るだなんて…」


「そいつはどうかな」



 俺は小さく呟くと一気に荊の懐へと潜り込んだ。そして荊の顔面目掛けて右の拳を放つ。



「そんなストレート、見切っているに…ッカハッ」



 荊は苦しそうに腹を抱えて前のめりになった。



『おおっと、荊は般若の顔面ストレートを完璧にガードしたにもかかわらず、苦しんでいる!!一体何が起きたんだーッ?!…むむっ?!般若の左拳が荊の鳩尾(みぞおち)にクリーンヒットしているッ!般若は"山突き"をしたようダァッ!』



 そう。俺が繰り出したのは古流空手に伝わる技"山突き"。片手で相手の顔面を突きつつ、もう一方の手で鳩尾を突く。顔面への攻撃に反射的に反応してしまう人間の習性を利用した古典的な技だ。しかし、荊と俺のように体格差がある相手にはもってこいの技と言える。荊のように身長が高く体格の良い人間からすれば山突きは下から顔面へのパンチが飛んでくることとなる。そうなれば視界の下半分はほとんどが拳で埋まり、もう一方の拳の行方を認識するのが難しくなるというわけだ。

 加えて、俺は1つの手品を仕込んでいた。



「お前…なんで、メリケンサックを…左手につけてんだ…?」



 荊が苦しそうに問いかける。確かに、俺はナックルダスターを武器支給所から回収した時に右手にこれを装着した。が、その後、自分の腰につけていたベルトを外し、そのバックル部分をまるでナックルダスターを装着しているかのように右手に装着し、右手に装着していたナックルダスターを左手に装着していたのだった。

 いくら体格差があるとはいえ、ナックルダスターを装着した全力左ストレートを打ち込んだんだ。そりゃ、呼吸できないほどのダメージが入るに決まっている。



『般若の持つナックルダスターが右手から左手へと移動しているぅぅぅッ!!なんて奴だ!無敗のトリックスターとはまさにコイツのことだぁぁぁッッッ!!』


ウォォォォォォォッッッ!!

般若ぁぁぁ!! 金返せぇーっっ!!!

正体表せぇッ!! 異能力使えぇぇぇッッッ!!



 牧の実況と共に会場が沸き立つ。半分以上は俺に対するクレームな気がするけど大丈夫だろうか。あと、異能力は使わないんじゃなくて使えないの。分かる?そこの前から20列目右から17番目の男の人。…いや、適当だけど。流石にそこまでの聴力はない。



「ぐふっ、くそがぁ」



 そこで荊が体勢を整えようとする。すかさず俺はハイキックを放った。



パスッ



 放たれたハイキックは精確に荊の顎先を捉え、それと同時に荊は膝から崩れ落ちた。



『決まったぁぁぁぁっっっ!!般若の正確無比なハイキックが荊に脳震盪(のうしんとう)をお見舞いだァァァァァッッッ!!!』



カンカンカンカーンッ



 試合終了のゴングが叩かれた。

今回も読んで頂きありがとうございます。

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