生徒会予備員
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生徒会室の目の前に辿り着いた。残り10秒。息を整えて、生徒会室のドアを開けた。
「ギリギリセーフのようだな。」
姉、もとい、生徒会長様がニコリと笑う。目の奥は笑っていないようにも見える。
「生徒会長からのお呼びとあっては遅れるわけにはいかないんで。」
「ふむ、よい心がけだ。しかし、渡り廊下を走っているように見えたが。」
「あれは渡り廊下の屋根なのでセーフかと思いました。」
「なるほど、確かに屋根を走るなとは言っていないし、屋根を走ってはならない等という校則もない。次回の生徒会の議題にして校則に盛り込むこととしよう。」
今後、忍者ごっこはできそうにないな。
「本題に入ろう。今日ここに来てもらったのは他でもない。零、お前、生徒会予備員になるつもりはないか?」
生徒会予備員。第1学年の時点ではシステム上生徒会のメンバーになることはできない。しかし、それでは生徒会に選抜された生徒が第2学年から仕事を覚えなければならず、卒業する生徒と新生徒会メンバー間の引継ぎ等も相まって、年度初めが必要以上に慌ただしくなってしまう。このような事態を回避するために創設されたのが生徒会予備員だ。生徒会予備員は20名を定員とし、その選抜は現生徒会メンバーの推薦による。つまり、現生徒会メンバーが学内ランキング10位以内に入る見込みのある次期生徒会役員候補を選抜するというシステムだ。
「魅力的なお誘いだがお断りする。というより、他の生徒会役員の皆様が納得しないだろ。無能力者が学内ランキング10位以内に入るだなんて。」
生徒会予備員となれば、生徒会役員に準ずる権限が与えられる。学費免除は当然のこと、研究支援費という名のお小遣いの給付、中間・期末考査の免除、学内特別プライベートルームの付与等、その待遇は教師でさえ羨むほどである。
しかし、その一方で生徒会予備員は個人的な決闘の申し込みに必ず応じなければならないという義務がある。生徒会役員の審美眼のみによって学内ランキングの存在しない第1学年から選抜される生徒会予備員は、実際に生徒会役員になり得るだけの実力を有しているかは定かではない。そのため、常に一般生徒からの決闘に受けて立ちその実力を示さなけらばならないというわけだ。仮に負ければ予備員の地位は対戦相手に取って代わられることとなる。
俺からするとこのシステムは非常に厄介だ。ただでさえ無能力者ということで目を付けられているのに、俺が生徒会予備員になった暁には襲いかかるための大義名分ができることとなる。勝敗がどうだろうと構わないが、そんじょそこらの生徒に負けるとも思えない。そうなれば予備員としての地位は失われないから、毎日のように決闘となることは必至。これは大変面倒だ。
「ふふ。そうか?生徒会役員の中にもお前のことを高く評価している者はいるし、覇真司との模擬戦も勝率は悪くないみたいじゃないか。実力は申し分ない。なにより、私の見立てが間違っているとは思えないのだが。」
「そりゃありがたい。でもな、司との模擬戦は司が異能の出力を抑えてくれているからどうにか戦えているだけだ。それに、姉さんの評価は身内贔屓が多分にあると思うぞ。」
「本気を出せていないのはお前も同じだろ?零。お前はどこか冷めているところがあるから、どうせ模擬戦も練習だからと言って手を抜いてるんじゃないのか?」
「買い被りすぎだ。司相手に手を抜いたら今頃ミンチになってるさ。」
「ふっ、まぁお前がそこまで言うならそう言うことにしておこう。」
コンコンコンッ
生徒会室の扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼します。」
礼儀正しく生徒会室に入ってきた女子生徒はいかにも優等生というような見た目をしていた。髪は所謂お団子ヘアのように整えており、制服の着崩しはほとんどない。銀フレームの眼鏡は知的な雰囲気を醸し出しており、それでいて地味さは感じさせないはっきりとした目鼻立ちだ。姉貴も美女と名高いが、この女子生徒も姉貴に負けないほどの美女と言えそうだ。その女子生徒は俺を一瞥すると俺の横を通り過ぎ、姉貴に話しかけた。
「会長、役員会議の時間です。議題はまた例の件についてだそうです。」
「もうそんな時間か。そうだ、零。お前に紹介しておこう。こちらは生徒会役員が1人、書記兼会長秘書の獄之宮薙月だ。先ほど話したお前を評価する生徒会役員の1人だ。」
「はじめまして、王真零さん。第2学年、生徒会書記の獄之宮薙月です。」
「はじめまして…ん?会長秘書なんて役職、生徒会役員にありましたっけ?」
「いえ、それは会長が勝手に仰っているだけです。」
「獄之宮は私を色々とサポートしてくれるのでな。人に紹介する時はそう紹介している。」
なるほど、この方も姉貴に振り回されている人間の1人というわけか。姉貴には行動力がある。そしてそれを成し遂げるだけの実力もある。が、それに振り回されて東奔西走する人間が常にいるわけだ。貴女の苦労、俺はよく分かりますよ。心の中で同情の涙を流す。
「ところで、獄之宮って名字だけど…。」
「ほう、他人に興味のないお前でも流石に気付いたか。そうだ、獄之宮はこの新東京第一高等学校校長、獄之宮元左衛門の孫だ。」
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