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狂人






「この辺りです」


「あ!あそこ!」



 薙月先輩が指差した方向に先程気絶させた男子生徒が横たわっていた。



「彼は空間系異能力もしくは検知系異能力を持っていたと思われます。拠点を任されていたことを考慮すると、他2人の検知能力は彼より劣るはず…。俺らは適当なところに隠れていましょう。そして、良きタイミングで…」


「奇襲…ですね」


「そういうことです」


「では、私は少し離れた位置に隠れています。一応、武器を用意しておきます。異能力-顕現 百鬼錫杖!」



 薙月先輩の詠唱により地面から一本の錫杖が現れた。召喚系の異能力で武器まで召喚できるとは驚きだ。通常、召喚対象は有機物か無機物かのいずれかに限定される。薙月先輩は既に有機体を3体召喚しているにもかかわらず、武器の召喚まで行った。学年が1つ違えば我が姉王真九都にも勝ち得る存在だっただろう。



「それでは、俺はこの木の上に待機します」



 おおよその隠密位置を決め、偵察に出た2人を待つ。その間も先の男子生徒は気絶しているようだった。かなり強めに手刀を叩き込んだから半日は目覚めないだろう。

 そんなことを考えていると少し離れた位置から足音が聞こえてきた。2人組の足音からするに、おそらく偵察に出た生徒が戻ってきたのだろう。まさか2人同時に戻ってくるとは思ってなかったが、ひとまずは予定通り奇襲をかけるしかない。

 2人組が俺の位置する木の下まで来た。



「今だ!」



 俺は暗歩と抜塞山の合わせ技で2人の制圧にかかる。薙月先輩も背後から飛び出す。俺の攻撃は1人目の後頭部へ一直線に向かっていた。だが、俺の攻撃が届くことはなかった。



ガチンッ



 何か見えない物体に攻撃を阻まれた。すぐさま距離を取り、反撃に備えた。相手は女子生徒と男子生徒であった。



「あらあら、待機させていた下僕の気配がしないと思ったら貴方たちの仕業でしたか」


「貴女はっ…!」



 薙月先輩が困惑した声を出す。一方、女子生徒は怪しくも禍々しい雰囲気を纏っていた。



「薙月先輩、知り合いなんですか?」


「はい。同学年の生徒です」



 薙月先輩と同学年…ということは二年生。つまり先輩だ。新東京第一高校においては、一年生から二年生に進級できているだけでも実力の指標になる。俺はより一層警戒のレベルを上げた。



「同学年の生徒だなんて他人行儀に何を仰ってますの?獄之宮さん。私たち友達じゃありませんこと?」



 その女子生徒は嘘くさい笑顔をして、お嬢様口調で問いかける。



「私は貴女を友達と思ったことは一度もありません!」


「ふふふ、寂しいですワ。ところで、そこの貴方…、名前は何て仰るの?」



 女子生徒は突然俺に名前を尋ねてきた。



「他人に名前を聞く前に自分から名乗るのが礼儀ってやつじゃないんですか?先輩」


「ふふ、そうでしたね。はじめまして。私、第二学年の明晴院(めいせいいん)京華(きょうか)と申します。以後お見知りおきを」


「第一学年、王真零です」


「へぇ、貴方が噂の…。気に入りましたワ!零さん、貴方のさっきの奇襲…素晴らしい攻撃でした。気配の消し方も完璧。流石、王真九都先輩の弟さんですワね」


「そりゃどうも」


「零さん?貴方、私のモノになる気はない?」


「はい?」


「なっ?!」



 俺は頓珍漢な問いかけに思わず間の抜けた声を出す。薙月先輩も同じく驚いた声を漏らす。



「私、強い殿方が好きなのです。貴方はまだ可愛らしい子犬ですが、私の手にかかれば立派な狼へときっと化けますワ。どうかしら?私のコレクションにならない?貴方の望むものは何でも与えてあげますワよ」


「そんなこと許しません!」



 俺が断るよりも先に薙月先輩が声を張り上げた。しかし、明晴院京華はそれに怯むどころか、威圧感を増した。



「貴女には関係ありません、獄之宮さん」



 女の人がキレるとここまで怖いのか…。俺が明晴院京華の威圧感に内心ビビっていると、薙月先輩も負けずと威圧感を出して反論した。



「関係ならあります!私のチームメイトですから!」



 …いや、反論弱くない?だが、薙月先輩の顔をチラと見ると自信満々な顔つきであった。



「あら…なるほど。獄之宮さん、貴女もまたその子に目をつけているのですね?」


「そ、そんなんじゃありません!」


「ふふふ、なおさら興味が湧いてきました。いいですワ。力づくで私のモノにする…そういうことにしましたワ」



 明晴院京華がそう言い放った途端、周囲の空気感が変わる。明晴院京華の陰に隠れていた男子生徒は気絶している男子生徒を抱えてその場から離れた。



「さぁ、2人同時に相手いたしますわよ。どこからでもどうぞ」



 第二ラウンド開始のゴングのようにその声は重く響いた。





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