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「擬似戦地試験の会場に間も無く到着します。生徒の皆様は上陸の準備をしてください」



 船内にアナウンスの声が響いた。



「アニキ、拙者らも準備しましょう」



 楓はそう言うと客室へと向かって行った。



「あぁ、そうだな」



 俺たちは中間試験の擬似戦地試験用会場に向かうため学校保有の特別船に乗っていた。



「零もこの船に乗ってたんだね」



 聞き慣れた声に話しかけられた。声の主は覇真司であった。



「集合時刻に間に合う最後の船だったからな」


「はは、どうせ零が寝坊したんでしょ?」


「そんなことはない」



 嘘だ。今朝方俺が寝坊して船の出発時刻に間に合わなかったのだ。



「そういうことにしておくよ。それにしても大変だったね。アウトレットで襲われたんだって?」


「耳が早いな。箝口令(かんこうれい)も敷かれていたはずだぞ」


「そりゃ一応僕は覇真家次期当主だからね。統治局の絡んだ事件やその内容は報告されるってわけ」


「それは失礼しました、次期当主様」


「ちょっと?揶揄ってるでしょ?」


「いいや?」


「もう!…ところで相手は位階8の人間だったって聞いたけど戦ったの?」


「あぁ、姉貴が途中参戦してきたから決着はつかなかったけどな。どうにか負けずにやり過ごせたよ」


「ふーん、僕との模擬戦のおかげだね」


「それに関しては否めないな」



 確かに、司との模擬戦がなければ位階8の相手をすることに変な緊張感やプレッシャーがあったかもしれない。練習は大切だな、身をもって実感した。



「お、零、島に到着したみたいだよ?」


「本当だな、じゃあ、行くか」


「うん、また試験後」


「あぁ、またな」



 島に上陸すると、既にそこには不忍楓がいた。どうやら俺より先に船を降りていたようだ。そして、その横には薙月先輩もいた。薙月先輩は生徒会役員としての仕事があったため、俺たちよりも数本先の船に乗っていた。



「零さん、おはようございます」


「薙月先輩、おはようございます」


「試験はもうすぐ始まるようです。集合場所へと急ぎましょう」


「そうですね。薙月先輩は島の下見をしましたか?」


「いえ、試験に参加する生徒会役員の2年生は試験の公正を図るために事務仕事しかしていません。下見をするような時間もありませんでしたから…」


「なるほど、そりゃまぁ当然っちゃ当然か」


「偵察なら拙者がいるでござるよ」


「そうだな。試験が始まったらそれで行こう。薙月先輩は偵察のバックアップ、俺が遊撃隊として動く。試験開始後すぐは全員様子見といったところだろうから、その間に安全地帯を築く。後のことは臨機応変に…だ」


「御意」


「分かりました」



 俺たちT2チームの試験開始位置へと到着する。周囲は木々に囲まれており、隠密には絶好の位置だろう。だが、丸一日過ごすことを考えると水の確保はしたい。海の水は飲料水にはならない。塩分の含まれていない川を探すことが第一の目標になりそうだな。

 そんなことを考えているとどこからともなく声が聞こえてきた。



「試験開始までのカウントダウンを行います。試験開始5秒前、3、2、1、スタートです」



 試験開始の号令と共に薙月先輩が詠唱する。



「出よ、影鬼。不忍さんの影に潜んでバックアップを」


「それでは、アニキ、獄之宮先輩。行ってくるでござる」


「あぁ、頼んだぞ」


「異能力-存在希釈(アンチデートル)-!」



 楓の姿が消えた。



「薙月先輩、ひとまずはここを拠点として俺らが帰ってくるのを待っていてください」


「はい、気をつけて」


「それではいってきます」



 俺は暗歩を使って移動を始めた。とりあえずは山の頂上を目指そう。川の始点を探すにはそれが1番だ。5kmほど進んだところで妙な雰囲気を感じる。誰かに見られている?いや、暗歩を使っている俺を目で追えるとなると異能力を使っている可能性のほうが高い。空間系の異能力か?俺は暗歩をやめて、立ち止まる。本来の予定とは違う。だが、ここで敵を倒せたら金貨を手に入れられる可能性もある。



「仕留めるか」



 俺は視線を感じる方向に集中する。人の気配は1人…か。おそらくこの地点をテリトリーとしている別チームがいるのだろう。空間系の異能力を使っているとなると俺の存在はバレているはずだ。そして、暗歩も効かないとなれば鏡面ノ理-流-を使ったとしても通じるかは分からない。流は暗歩を俺が独自に応用したものだからな。効くかも分からない相手に手の内を明かすことは避けたい。仮に通用しなかった場合、タダで俺の手札を1枚見せたことになる。そうとなれば、アナログな手だが…騙し討ちといこう。



「あっ!!!金貨があんなところに落ちてる!誰か落としたのかな?!」



 俺は大声でそう発する。その瞬間、監視の目が一瞬俺から外れた。俺はすぐさま足下の石を拾い上げておおよその視線の方向へと投げつける。



バキッ ゴトッ



 今、確実に避ける音がした。石が木にぶつかる音とは別の…枝が折れる音だ。音の方向へ暗歩を使って向かう。たどり着いた場所には1人の男子生徒が座っていた。



「なっ?!」


「みーつけた」



 素早く手刀を打ち込み気絶させる。だが、どうやら金貨は持っていないようだった。



「と、なると、他の人間が2枚以上持ってる…ってわけか」



 そうであればここに戻ってくるであろう2枚持ちの人間を迎え撃つほうがいいか?だが、2枚以上の金貨を持たせるということは相応の実力の生徒のはずだ。



「薙月先輩に手を貸してもらうか」



 俺は、薙月先輩のもとへと戻ることとした。




今回のお話はいかがでしたか。もしよろしければ、イイネ、感想、ブックマークをよろしくお願いします。

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