鬼と鏡
「さ、作戦開始って言ったって、何をどうしたらいいんです?アニキ」
「俺が偵察兼制圧をする。異能力減殺弾があると想定すれば、楓や薙月先輩よりも俺が適任だ。2人は人質の安全確保をお願いしたい」
「分かりました。ですが、零さん1人は心配です。いい機会ですので、お披露目しましょう。異能力-召喚の儀 地獄門- 出よ 影鬼」
薙月先輩の詠唱と共に禍々しい門が地面から生成される。門が開くとそこから出てきたのは2mはある黒い鬼であった。
「これが…薙月先輩の…?!」
「ア、アニキぃ…、拙者初めて鬼を見たでござる…」
「はい。これが私の異能力…と言っても一部ではありますが。黒鬼は防御耐久に優れた召喚獣です。異能力減殺弾に対して通用するかは分かりませんが、少なくとも単なる武装兵や低位階の異能力者に対しては有用でしょう」
「ありがたいんですけど…、偵察や隠密をするのに目立ちませんか?」
「その点は問題ありません。影鬼、潜め」
薙月先輩の命令と共に黒い鬼は俺の影に吸い込まれていった。
「影鬼の能力はご覧の通り、影に潜ることができる能力です。ただし、私の視界外での活動の場合、有機物の影にしか潜むことができませんし、光の照射等によって影が消滅した際には実体化してしまいます。ご注意を」
「分かりました。ありがとうございます」
「影鬼、ここからは零さんの命令に従ってくださいね」
薙月さんが俺の影に対して話しかける。すると、俺の影が一瞬揺らめいた。返事をしたのだろうか。
「拙者たちは具体的にどうしたら?」
不忍楓が不安そうに尋ねる。
「そうだな。楓はこのカフェを中心に周囲の店舗のお客さんを保護してくれ。敵は俺が順次に処理する。とにかく保護、誘導に徹してくれたらそれで十分だ。薙月先輩は楓のバックアップと保護した客の安全を確保してください。いけますか?」
「問題ありません。それなら加えて2体は必要そうですね」
薙月先輩はそう言うと、追加で2対の影鬼を召喚した。神話系の異能力は強力が故に体力や精神力の消耗が激しいと聞く。さらに召喚とはこの世に存在しないモノを顕現させるというスキルだ。常にエネルギーを異能力発揮に注がなければならないだろう。それに影鬼自体のスペックも高い。流石、生徒会メンバーと言うべきか、姉貴が気にいるだけのことはある。
「それじゃあ、また後で」
「はい。気をつけてくださいね」
「全力で任務を遂行するでござる!」
「あぁ、頼んだ」
俺は2人と別れ、まずは周囲の店舗の確認を行う。どこにも白昼の月と見られる者はいない。どうやら先ほど俺が制圧した構成員がここら一帯を任されていたのであろう。
ここ新東京アウトレットパークは十字型の建物構造となっており、北側はノースエリア、南側はサウスエリア、東側はイーストエリア、西側はウエストエリアとなっている。俺たちが現在位置するのは北側ノースエリア。中央部に人質が集められていることからすると、反乱や抵抗を容易に鎮静化できるように、そこに強い兵士がいると予想が立つ。そして、先のアナウンスがなされたということはアナウンス室の存在するウエストエリアにもリーダー格の敵がいると考えられる。
相手の力量や人数が判明していない以上、まずは確実に仕留められる敵から処理し、来場客の安全確保を優先すべきだ。となれば、ここから連絡通路を通り、イーストエリア、サウスエリア、ウエストエリアと制圧を進め、最後に人質の集まる中央部へと潜入するのが良いだろう。
俺はノースエリア全体を確認する。3名の白昼の月構成員を発見し、先ほど同様速やかに制圧することに成功した。
「連絡通路は…あそこか」
ノースエリアとイーストエリアを結ぶ連絡通路が50mほど先に見える。だが、そこには…
「やっぱりな」
銃を所持した白昼の月構成員が2名立っている。ここまでは1対1であった。そのため、隠密からの制圧も騒がれることなく成功していた。だが、2対1となれば話は別だ。1人を制圧してももう一方にバレてしまう。銃撃戦は避けられないだろう。単に制圧するだけならそれでも構わない。ところが、今回の作戦で重要なのは4つのエリアを迅速かつ静かに制圧することだ。発砲音はなるべくさせたくない。
「暗歩も久しぶりだったのに、コレを使うとはな…。鈍っていないことを願おう。鏡面ノ理-流-」
『魔道』は王真家に伝わる武闘術だが、鏡面ノ理はそういうわけではない。魔道を基礎として、より一層戦闘向きに俺が編み出した武闘術の総称だ。
その内、『流』は『暗歩』を応用したもので、相手の視線、呼吸、体の動きを把握し、相手に軸を捉えさせない歩法を行う。これにより相手は俺の姿を視界に捉えることができなくなるというわけだ。相手の視線、呼吸、体の動きを把握することが必須の条件である一方、その有効範囲は俺が自由に選択できる。
不忍楓の異能力の劣化版といったところだが、俺が相手を認識できさえすれば有効範囲は理論上は無限。連絡通路までは50mほどあるが、俺が相手の存在を認識できている以上、発動可能ってわけだ。
俺は武装兵2名へと近づき、両名を手刀で気絶させた。
「『ノースエリア、制圧完了だ』…っと」
俺は楓と薙月先輩にメッセージを送った。
『了解』
『御意』
2人からの返信が来る。おそらく無事に任務を遂行しているはずだ。
「さっさとウエストエリアまで片付けるか」
俺はイーストエリアへと向かった。
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