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第8話

綺堂 薊(きどう あざみ) side








 『病みラビ』にはHP自然回復の効果を内包する固有スキルが複数存在する。


 ゲームでは戦闘中に『1ターン最大HPの○%回復』というものだったのだが、現実となった今では『10秒毎に最大HPの○%回復』となった。


 そして、俺が『血封の迷宮』で新たに得た固有スキルもHP自然回復の効果を持っていた。


 スキル名は【不死の残滓】。


 自然回復量が30%を誇るこのスキルは、他ゲーならばバランス崩壊待ったなしの壊れスキルであるが、『病みラビ』では違う。


 せいぜい、雑魚敵でアイテムの消耗を抑えられる程度だろうか。ボスキャラは対策なしだとワンパンされるのが基本だしな。


 とは言え、タンク型で即死しにくい俺と相性抜群の効果であることは疑いようもなく、さらに他にも強力な効果があるのだから有用なのは間違いない。




「まぁ、精神ダメージは癒やしてくれないけどな」




 赤黒い粘液に塗れた帰り道、俺は思わず愚痴を零した。


 固有スキルの代償と云わんばかりに植え付けられた心臓実食のトラウマが、まだ強烈に残っているからだ。


 万全になった肉体とは違い、大きな傷を負った精神(メンタル)の影響で重くなった足を引き摺りながら進む。


 ふと、見上げた夜空が現代日本よりも遥かに綺麗であることに気付き、傷心を癒やすべく適当な街灯を背もたれに、空を見る事にした。


 現在の俺の姿は血塗れで上半身裸の不審者であるため、衛兵にでも見付かれば大変な事になる。もし捕まれば、最悪のパターンとして脱走奴隷だと思われて衛兵の小遣い稼ぎに売り飛ばされるだろう。


 いくら未来のラスボス(予定)とは言え、弱い今のステータスでは戦闘のプロが集団で襲い掛かってくれば、捕まる可能性が高い。なにより、揉め事を起こせば今後の行動に支障が出る。


 故に短時間で済ませるつもりだ。




「あ~」




 それにしても、タバコが恋しい。紙タバコが。


 酒でもいいが、月見タバコも乙なものだ。


 前世では割り切れない嫌な事があるたびに吸っていたからか、肺が煙を欲している。『病みラビ』では十五から酒もタバコも解禁され、中学を卒業してる俺は勿論成人済みだ。


 明日にでも買いに行くか。




「ああ、そういえば」




 HP自然回復で思いだした。


 俺がハッピーエンド(理想)を叶えるに当たって、最も救うのが難しいヒロイン(少女)の事を。


 彼女は病みに塗れた『病みラビ(この世界)』において、ダントツで病みイベントに愛されているのだ。


 それは、数少ないプレイを続けられた俺達狂人(ゲーマー)の中で共通の見解である。


 彼女は、制作陣()の悪意を煮詰めたような固有スキルで、ありとあらゆる組織から狙われ、ルート(場合)によっては主人公にすら道具扱いされるのだ。




「まだ、大丈夫な筈だ」




 彼女が病み(・・)の底に落ちる時、それは固有スキルが他人に露見する事から始まる。


 バレたが最後、死ぬことも許されないまま利用され尽くすのだ。髪の一本から血の一滴に至るまで。


 彼女を守るには、今の時点で監禁するのが一番である。しかし、それは友人に囲まれたいという彼女の願いを無碍にする行為なので却下だ。


 だから、俺が彼女を守るしかない。病みへ誘う全ての組織から守れるくらい強くなって。


 現時点で彼女の固有スキルは、両親を含めて誰一人として知らない。


 本音を言えば、この状態を維持してほしい、けれど彼女の【固有スキル(個人情報)】の取り扱いは彼女が決めるべきだろう。全てを知ってる俺が上から目線で口を出すことじゃない。


 体だけではなく、心の平穏も守ってこそのハッピーエンド(理想)なのだから。




「あの、大丈夫ですか?」



「っ!」




 そろそろ帰るかと思い始めた頃、聞き覚えのある(・・・・・・・)声が耳に届き、ハッとして振り返る。


 それは、今世で聞いた声ではない。ゲームに人生を捧げた前世で耳に馴染むほど聞き続けたヒロイン(女性)の声。


 それも、ついさっきまで考えていた相手なのだから、なおさら驚いた。


 振り返った先にいた、街灯に照らされた美しいアルビノの少女は自身の名を告げた。




「私は雁野 来紅(かりの らいく)って言います。良ければポーションをどうぞ」




 心配そうに、俺へ小瓶を差し出す少女。


 彼女こそ、『病みラビ(この世界)』で最もバッドエンドに愛された少女にして、俺の心臓実食(トラウマ)を最も刺激する相手。


 究極の生贄と呼ばれたヒロイン、『雁野 来紅』である。

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