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第43話

綺堂 薊(きどう あざみ) side









「くそっ、開かねえぞっ!」



 敵を殲滅しながら、やっとの思いで最奥の扉にたどり着いた薊。彼は押しても引いてもビクともしない扉に苛立っていた。


 本来なら開いている扉だが来紅とメリッサの逃亡を防止するため、グレーテルが魔法で鍵を掛けていたのだ。


 しかし、そんなことは知らない薊。理由は分からないが分かったところで何も変わらないので、現状の打開策を考える。




「壊すか」




 結論は秒で出た。見たところ鍵も鍵穴もないのだ、他に方法などあるはずがない。




「オラッ」




 一度、蹴ってみた。音は大きかったが扉に変化はない。次に『応報(おうほう)の剣』を叩き付けた。先程よりも大きな音が鳴り響き扉が僅かに(ひび)割れる。




「いけそうだな」




 やはり、剣のバフがあると違うようだ。二度、三度と繰り返し、やっと壊れた扉。かすかな達成感が湧き上がるが中にいるであろう怨敵への怒りで、そんな感情などすぐに吹き飛ぶ。




「魔女はどこだぁぁぁっ!!」




 そうして薊は叫びながら中へと入って行った。















 やっとの思いで、たどり着いたボス部屋。そこには俺の想像通り、魔女がいた。そこまでは良かった。そこまでは。




「久し振り、薊くん♪」




 どういうことだ?


 見つけ次第、殺すつもりだった怨敵の横でポケットの中(一緒)にいるはずの親友が笑顔で立っているではないか。


 来紅が二人いる!?


 俺は混乱の極みだった。一応、彼女が知らない間に俺から離れた可能性を考慮してポケットを漁ってみる。




「よしっ、いるな」




 ポーション瓶を取り出して、そこに来紅の指(彼女)がいることを確認し、安堵する。


 ここで、ようやく答えが出た。そもそも悩む必要などなかったのだ。




「ハッ、親友の幻覚を見せて俺が攻撃を躊躇うと思ったか? 俺達は今も一緒にいるんだぞ。騙される筈がない!」



「あっ。私の取れた指、見られちゃったんだね。恥ずかしいなぁ、もうっ」



「「「……」」」




 そうして俺は小指(来紅)を見せ付けてやる。己の愚かさを知るがいい。


 というかなんだ、いまの幻覚のセリフは。


 来紅は固有スキルである【泡姫(あわひめ)献身(けんしん)】を誰にも知られたくないと思っている。現在、五体満足の彼女が取れた指を見て、自分のモノだと認める筈がないだろう。



「俺の親友で遊ぶのも大概にしろよ。双子諸共、お前も殺してやるからな」



「みてみて、師匠に『奪骨の杖(この子)』を貰ったの。可愛いでしょ」



「「「……」」」




 幻覚の来紅が胸に抱いた杖を見せびらかしてくる。


 彼女の可愛らしい表情は完璧であり、首に掛かったネックレスも完成度を上げるのに一役買っているが、そんなの本物の小指(来紅)だって……あれ? どっかでネックレス落としたのか?


 まぁ、また買えばいいか。


 それより、なぜ魔女は何も話さないんだ。俺の姿を見て嘲笑っているのか?




「俺の話を聞いてるのか!? いい加減、何か───」



「目の前に私がいるのに誰と話てるの?」



「お、おう」



「「「……」」」




 なんということだ。


 吸血鬼となり、これまでとは比較にならない程の力を手に入れた俺を幻覚越しの言葉だけで怯ませるとは。


 流石は怨敵。決して侮れるものではない。




「師匠に73回、グレーテルに24回、ヘンゼルに10回、私に3回」



「???」




 何の話だろうか。


 魔女の言いたい事が分からない。というか、師匠ってなんだよ。




「今のはね、この部屋に入ってから誰に何回視線を送ったかだよ」



「そ、それがどうした?」



「そんなに他がいいなら、私の色に染めてあげる」



「は? まぁ、いい。ぶっ殺してやるよクソ魔女!」




 俺の友人を冒涜したのだ、楽に死ねると思うなよ。


 そうして、『応報(おうほう)の剣』を握り直し魔女へと振りかぶる。


 多少の怪我ならの『HP自然回復』で即完治する上、もし万が一が起きても固有スキル【不死の鼓動】の、もう一つの効果でどうにか出来る算段はついている。


 だから俺は安心して魔女へと突っ込む。




「魔女めっ! 来紅の偽物をつく……っ!?」




 来紅の偽物を作り、俺へ精神攻撃を仕掛けてきた魔女へ怒りの言葉を吐きながら斬り掛かると、突如『魔女の毒霧』とは違う、白い霧が俺を包む。


 完成度か高いとは言え、所詮は幻覚。無視するのが一番だと思い、注意を向けていなかった来紅の幻覚から攻撃を撃たれたのだ。


 恐らくは幻の後ろから魔女が魔法を撃ったのだろう。やつの性格の悪さが伺える。


 まずい。そう思った時にはもう遅く、指先から徐々に石となっていた。それも、俺の再生力を上回る速度で。




「……あんた、何しに来たんだい?」




 最後に見たのは、こちらを見下す怨敵の姿だった。

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