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第41話

綺堂 薊(きどう あざみ) side








 壁伝いに歩いて、これまでとは違う石造りの回廊を見つけた。


 そこはパン屑と白石が並び、松明で照らされている。


 そこは間違いなく、ボス部屋たる『魔女の工房』へと続く道だった。




「やっと見つけた」




 奥からは、いままで以上に強烈な腐臭と禍々しさ(心地良さ)を感じる。


 吸血鬼になってからは遠のくばかりだったモンスターの気配だが、ボス部屋付近のやつらは道中の腑抜け共とは違うようで、ガンガン襲ってくる。


 面倒臭さも多少あるが、魔女と戦う前に力を溜められるので、どちらかと言えばありがたい。




「おっと」




 数匹のコウモリに襲われたので翼を斬り落とし血を(すす)る。以前なら、到底不可能だった芸当も五感を含めて強化された現在の肉体なら容易い。


 ははっ。コウモリなら大人しく吸血鬼に従えってんだ。




「味は少し美味なったな。まぁ、誤差だが」




 ヘンゼル程ではないにしろ、これまでの雑魚敵に比べて血の味が良くなっている。また、質も僅かに上がっているようで『吸血鬼:中級』に成るのは無理だとしても力が貯まりやすくなっている。


 吸血鬼は摂取した血の量や質で強さが決まるので、都合がいい。強くなれば、それだけ魔女を殺しやすくなるのだから。




「そう言えば、ヘンゼルもグレーテルも出て来ないな。魔女と戦ってるのか?」




 なんだかんだ最初の道案内と道中に一回ずつしか関わらなかった双子に少し違和感を覚えた。


 ゲームでは、もう少しイベントがあった筈なのだが。まぁ、ゲーム知識が信用ならないのは今に始まったことではない。深く気にする必要もないだろう。


 なぜなら、もう終わるのだから。









雁野 来紅(かりの らいく) side








 ヘンゼルは来紅をこの館に連れて行った張本人である。


 もし、自分(来紅)の居場所を知りたいのなら問い詰めるのが普通だろう。


 現に来紅は、そうしたのだから。


 言葉を交わす暇がなかったと言うわけでも無さそうだ。なにせ、メリッサの居場所を聞く時間はあったのだから。


 自身の恩人で師匠でもあるメリッサのことは、大切に思ってるし(ないがし)ろにするつもりはない。


 だが、それでも(あざみ)が会った事のないはずのメリッサを気にかけておきながら、自分をいないかのように振る舞われたというのは、あんまりではないだろうか。


 本当に自分は薊から、どうでもいい存在だと思われてるのではないか。


 嫌な考えが脳裏を()ぎる。


 そんなはずはないと、自分に言い聞かせるが一度考え出したら止まらない。どんどんネガティブな方向へと進んで行く。




「敵の言葉なんか信じるんじゃないっ! 友達を探したいんだろう? なら、こいつらを倒して吐かせるのが近道じないのかいっ!」




 メリッサが何かを言っているような気がしたが、内容は頭に全く入ってこない。


 見ればメリッサは必死の形相をしている。おそらくは自分のせいで、そんな顔になっているだろうというのは察しがつく、そこは申し訳ないと思う。


 しかし、今は全てのことに対して気力が湧かないのだ。どうか諦めてほしい。


 酷く身勝手な事を考えてる自覚はあるが、どうにもならないのだ。


 そして、また薊のことを考え始める。(うずくま)って目から生気を消して永遠と。




「アハハハッ、お姉さん元気ないね。お兄さんに心配されなかったのが、よっぽど辛かったのかな?」



「お兄様、仕方ないですよ。だって一人では何も出来ないお荷物なんですから」




 ああ、そうだ。


 自分はいつもそうだった。


 両親に、薊に、師匠に、そして頼れる相手がいない時は一人ぼっち。


 親友ができたからと言って浮かれ過ぎていたようだ。自分は何も変われてなどいない。ただ、親しい相手が増えただけ。


 きっと、婚約者も自分の勘違いだったのだろう。なにせ自分は、この地獄のような館で心配すらされなかったのだから。


 もう、嫌だ。


 こんな世界、滅んでしまえば───




「この、バカ弟子がっ!」




 頭部に尋常ではない衝撃が加わり、視界も思考も白に染まる。


 思わず頭を押さえれば、パラパラと土が降ってきた。あの衝撃はメリッサの魔法だったのだろう。拳骨の比ではない破壊力だった。




「もう、教えを忘れたのかい? 魔女(わたしら)は欲望の為なら狂ってなんぼなんだ。相手の男を自分に狂わせてやるくらいの気概を持ちな!」



「…………自分に、狂わせる」




 それは来紅にとって天啓に等しい言葉だった。


 この世界は自分に優しく出来ていない。待っているだけでは欲しいモノは決して手に入らず、手を伸ばした程度ではハリボテのような紛い物しか掴めない。


 ならば、自分で理想と姿に染上げるのが一番確実だろう。思い付く限りの、ありとあらゆる手段を用いて。




「うふっ、うふふっ、アハハハハハハハハハッ」



「「!?」」




 豹変したように嗤い出した来紅を見て、ヘンゼルとグレーテルは目を見開く。


 二人にとって、先程までの来紅はメリッサの隙を作れる道具であり、現在の戦闘において死んでなかったのはメリッサの守護と流れ弾に当たらなかった偶然の産物としか思っていなかった。


 そんな無害で有益な存在が、突然自分達に好戦的な目を向けてきたのだ。その驚愕は計り知れない。


 しかし、そんな中メリッサだけは違う。




「はっ、やっとお出ましかい。師匠にだけ戦わせるとは随分なご身分だよ」




 言葉とは裏腹に表情は、子の成長を祝うような母性と人を絶望の底に落し愉悦を感じた魔女のような暗い笑みが同居していた。


 そんな不気味な師弟を見て、双子は思わず気圧される。




「〘伝承再現魔法イミテーションマジック始祖の原点エンド・オブ・ワラキア〙」




 そんな隙を逃さずメリッサは消耗の大きい魔法で大量の杭を生み出し双子を串刺しにせんと向かわせる。


 この魔法のオリジナルは無数の杭を生み出し一撃で都市を壊滅させたらしいが、あくまで再現であることや使い慣れてない事が影響し、たったの千しか生み出せない。


 しかし、それで充分だった。




「あぎぃぃぃっ!」



「グレーテル!?」




 ヘンゼルと違い、後衛職のグレーテルは咄嗟の反応が遅れ足を貫かれる。


 慌ててヘンゼルが杭を抜いて救出するも、妹の体は異様に重い。まだ杭が刺さっているのかと思えば、そうではなかった。


 その程度なら、どれだけ良かった事か。




「お兄様! 石になった(・・・・・)私の手を切り落として下さい!」




 指先から徐々に侵食する石化は、肉も服も構わず灰色に染め上げる。


 メリッサはそんな魔法など使っていない。となれば下手人は一人だろう。




「いい気味♪」




 憎悪に染まったヘンゼルの視線の先にいたのは、メリッサと遜色ない邪悪な笑みを浮かべた来紅の姿だった。





「クソガァァァッ。お前達、絶対に殺してやるぅぅっ!」



「アハハハハハハハハハハッ」




 そこには、絶望に染まっていた来紅はもうない。


 泣きながら妹の腕を斬り落とす、敵の哀れな姿を愉しむ魔女だけだった。


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