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第36話

綺堂 薊(きどう あざみ) side








 正直に言うと薊は迷っていた。


 ゲーム知識で館の中心にボス部屋(工房)がある事を知ってはいた。なので今まで何となく中心っぽい方向へと向かい歩いていたが行き止まりや別の部屋に行き当たる事ばかりだった。




「どうするか」




 ゲームではボス部屋に近づくほどにモンスターが増えていたので、それを宛てにしてもいたのだが何処に行っても違いがわからない。


 むしろ館に入ったばかりの頃より敵との遭遇率が減っている実感さえあった。


 これは薊は知らない事だが、彼が吸血鬼に近づいている事が原因である。


 モンスター達は基本的には自分より上位のモンスターを襲わない、本能的に強さを感じ取り逃げるからだ。成り欠けとは言え、モンスター最上位種たる吸血鬼は伊達ではない。


 まぁ、人間はどれだけ強くても襲われるが。




「また厨房に来ちまった」




 あれほど必死になって探していた厨房に、今は三度も来ていた。毎回違う道を選んでいるというのにだ。


 探し物は探している時には見つからないが探さなくなった途端に見つかるものというのは今回当て()まるのだろうか。


 


「まるで迷路みたいだな」



「お兄さん、お困りみたいね?」



「っ!?」




 独り言に返答があると思わず驚く。


 それも、このダンジョン内で最も縁が浅い相手だったのだから尚更だ。




「何の用だ? グレーテル」




 彼女と直接関わるのはダンジョンの入口で強制案内をされた時以来である。来るなら復讐に燃えたヘンゼルだと思っていたので、かなり意外だった。


 いつの間にかバームクーヘンで出来たスピーカーが頭上にあったので、そこから声を出したのだろうと当たりを付ける。



「わぁ、本当に私の事が分かったわ。お兄様の言った通りね」



「そのヘンゼル(お兄様)が負けたから復讐でもしにきたのか?」




 グレーテルが接触してくる理由で思い付くのは、これくらいだろうか。あとは、暇だからとかショウモナイ理由しか思い付かない。




「うふふっ。それは違うわ、むしろ感謝してるくらいよ」



「感謝?」



「だって、あんなに情けないお兄様を久し振りに見れたんですもの。ああ、私がいないと何も出来ない姿は可愛かったわぁ♡」




 そうだ忘れてた。


 グレーテルはドSで構いたがりでブラコンの属性過多キャラの癖してヒロインじゃないという寝取り大好き勢からブーイングを受けたキャラだったな。


 そんな彼女に対して兄のヘンゼルは見栄っ張りな性格をしてるため、よくグレーテルに弄ばれてるらしい。




「私の用事は簡単よ。復讐ではなく、お礼をしたいの。感謝とは言葉だけではなく、行動で示してこそよね?」




 まるで親しい友人に話し掛けるような声音で告げる彼女への返答は決まっている。




「いらん」




 何が悲しくて敵の言葉に縋らなければならないのか。どうやら完全に時間の無駄だったらしい。


 しかし、僅かながら収穫もあった。


 それは、魔女が工房に到着していないということだ。魔女がいるなら二人掛かりで相手にしないと敗北必至なのだ。余裕ぶって俺に話し掛ける暇などない。




ボス部屋(ソコ)で待ってろ。ヘンゼル(食い残し)と一緒に殺してやる」



「まぁ、素敵ね。真っ赤な紅茶を用意して待ってるわ」




 提案を蹴られたというのに愉快げな口調のグレーテルは、それきり黙りスピーカーも崩れ落ちた。


 だが、構わない。話はもう終わりだ。


 魔女を狙うにしろ双子を狙うにしろ、目指す場所は変わらない。


 それら全ての悲願はボス部屋でこそ叶うのだから。








◆ヘンゼル side








「振られちゃいましたか」




 (あざみ)に呼び掛ける魔法の疲労で流れた汗を拭う。


 双子は館を完全に掌握したとは言い難い支配率のため、こうして慣れない作業をするとかなり疲れるのだ。




「お疲れ様、グレーテル」



「お兄様、ありがとうございます。理由は知りませんが、彼が場所を移動してなくて助かりました」




 ただでさえ疲れる作業をヘンゼルの治療と並行して行ったため、グレーテルは当初の想像以上に消耗したのだ。


 これで何度も魔法のやり直しをやっていたかと思うと気が滅入るだろう。しかし、そんな作業をしていた筈の妹は、なぜか満足気だ。




「……なんで、そんなに楽しそうなのさ」




 グレーテルの表情を見て不自然に思ったヘンゼルが質問する。


 あの会話に何か得るものでもあったのだろうか。傍から聞いた限りでは何もないと思ったが。




「だって拗ねた様子のお兄様が可愛らしくて。他の男性と話したから嫉妬しちゃいました?」



「な!? 違うぞ、グレーテルが心配だっただけで……」



「うふふっ、お顔が真っ赤ですよ」



「ぐぬっ」




 こうなっては何を言っても論破されると知ってるヘンゼルは、言い返したいのを我慢して口を(つぐ)む。


 クソッ、全部あの男のせいだぞ。と責任を擦り付けながら。




「それにしても治りが遅いですね。やっぱり欠損は一筋縄ではいきませんか」



「そりゃあ、途中で穿(ほじ)り返されれば遅くもなるさ」



「何かおっしゃいましたか?(ほじほじ)」



「イダイッ、悪かったから止めろって」




 これこそ本来ならヘンゼルが行う予定だった薊の誘導をグレーテルが行った理由だ。


 まぁ、真実は兄を弄り倒せるという現状に多幸感を得たグレーテルが、わざと治療を遅らせてるだけなのだが。


 そんな理由を知りもしないヘンゼルは薊への復讐心を燃やしながら膝枕をされている。




「さっ、クソバ……魔女が来る前に治療を終わらせてしまいましょう。どこにいるのか分かりませんが、ここで待ってれば必ず現れるでしょうし」



「そうだね。頼むよグレーテル」



「はい。よろこんで」




 妹の花のような笑顔を見ながらヘンゼルは眠りに落ちた。

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