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第33話

雁野 来紅(かりの らいく) side









 バッドエンドを華麗(?)に完全回避した来紅は穴が空きそうなほど武器を見詰めていた。


 まるで喉から手を出しそうな様子を見て、メリッサは非常食用に残していた過去の自分を絶賛する。




「……頃合いかね」




 スッ、と来紅に近付くとメリッサは肩に手を乗せる。


 それはまるで獲物を絡め取る蛇のように、一切の無駄も躊躇もなかった。




「ねぇ、お嬢ちゃん。ここの好きな道具を使わせてやるから弟子にならないかい?」



「っ! なりますっ!」




 邪悪な笑みを浮かべたメリッサの問い掛けに、来紅は断るという選択肢は存在しなかった。


 来紅は常に考えていたのだ。どうすれば武器を使わせてもらえるかと。そんな来紅からすれば、メリッサの提案は正に渡りに船であった。




「ヒッヒッヒ、なら武器から選ぼうか。本来なら最初は知識を詰め込むもんだが、それは武器に呑まれないようにする為だ。お嬢ちゃんには必要なさそうだからね」



「ありがとうございます。メリッサさん!」




 来紅(獲物)が喜々として捕われに来た事に満足したメリッサは引き攣ったような嗤い声を上げると、気前良く来紅に選ぶことを許した。


 誰かにモノを教える時は、やる気を出させる事が何よりも重要だと考えているからだ。




「いいんだよ。それより、あたしの事は師匠とお呼び」



「はい、師匠っ!」




 そうして、メリッサの思惑通りにコントロールされる来紅は、念願の武器を選び抜く。


 それは一本の杖だった。身長が百六十センチの来紅と変わらない程の長さの大きめなモノである。


 先端から持ち手まで何かの骨を継ぎ接ぎで作られており、持ち手についてる鳥の頭蓋はカタカタと声無く(わら)っていた。


 正直、とても持ちやすい作りでは無い筈なのだが何故か、よく手に馴染んだ。


 直感的に選んだが正解だったらしい。




「どうやら、いいのが見つかったみたいだね」



「はい。とても、いい()が」




 そう言って来紅は艶っぽく息を吐きながら優しく杖を()でた。




「なら、あたしの装備を取ったらさっさと行くよ。ここで授業をしてる余裕なんて無いからね、奴等の居場所までの道中で体に叩き込むよ。魔女の戦い方ってのをね」




 メリッサはそう言うと、絨毯で隠してあった地下への階段の扉を開けて入って行った。


 どうやら最初から自分のメイン装備を渡すつもりは無かったようだ。普段なら拗ねていたところだが来紅は気にしなかった。


 なぜなら、この杖よりも自分に合う武器など存在しないと確信していたから。




「早く力を試したいな」




 ここまでメリッサの思惑通りに動いていた来紅だが、一つだけ大きく外れている部分がある。


 それは彼女にとって決して譲れない一線であり、彼女が『魔』に魅入られた元凶そのもの。




「ねえ、薊くん」




 彼女はソレを杖以上に優しく触れ、首から外す。


 チェーンを外し、いつかのように左手の薬指へ『死んでも離れない』指輪を嵌めた彼女は蕩けそうな表情で言葉を続ける。




「私、役に立つようになれるよ」




 それは来紅の内心の吐露であり、新たな欲求の開花だ。それは『死んでも離れない』事を前提とした、その歪んだ欲求は───




「だから、私を使()()()




 絶対に叶えると誓った不滅の願いである。


 数百年の時を生きる魔女をして読み切れない狂った願いは、薊の描いていたハッピーエンド(理想)と対立に誓い破滅的な願いだ。


 それを知らぬ来紅だが、たとえ知っていたとしても諦めなかっただろう。


 魔女とは『魔』に魅入られ同化する存在であり、『魔』とは極まった欲望そのものなのだ。


 故に追い求めよう。


 たとえ、どんな障害があったとしても。彼となら笑って超えられるはずだ。




「うふ、うふふ、アハハハハハハハハハッ」




 かくして生贄となるべく生まれた少女は、魔女へと生まれ変わる。


 未だ見習いに過ぎないというのに、その表情は魔女そのものであった。


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