第21話
◆綺堂 薊 side
血液上書き事件の後、ダンジョンで使える道具を中心に見て回った。互いに『ダンジョン学園』への入学を控えているので、そこはスムーズに決まった。
病みゲーたるこの世界は『呪いの道具』なんて如何にもヤバそうな道具が腐る程あるが、真にヤバイ道具は聖剣だったり、パッと見は普通の道具だったりと見分けるのは至難の業である。
こうして見ると病みイベントが多すぎる。
先程のドリンクショップから始まり、小鳥にソックリなモンスターを販売するペットショップ、開けば取り込まれる本を売ってる古本屋だったりと、全てを処理するには手が足らなすぎる。知らん人には犠牲になってもらおう。
この国、終わったな。知ってたけど。
ケラケラケラ。
「薊くんが楽しそうでよかった♪」
色々と諦めて内心爆笑していると、誤解した来紅が笑い掛けてくる。
正直、俺より楽しそうにしてた来紅を諫めるのに忙しく大して楽しめなかったが、それでも好きなゲーム内の観光をしたようなものなのだ。悪くはなかった。
「そろそろ暗くなってきたし帰るか?」
「う~ん」
現在は夕暮れ時。
そろそろ、お開きにすべきだろう。でなければ過保護な親父さんに殺されてしまう。
「あっ、最後にあそこ行きたい」
「わかった」
「ありがと。あのお店、ずっと気になってたんだ~」
悩んだ様子だった彼女が妥協案として指差したのは露店市場では珍しく小さな小屋借りて物を売ってる店だった。
古びた外観で全体的に暗い色をした小屋は御伽話で魔女が住んでそうな見た目である。
「お?」
「薊くん、どうしたの?」
小屋を見た時、なぜか既視感を覚えた。
それがゲームだったか転生後だったかは分からない。しかし露店市場で、こんな病みイベントは記憶にないし、何より来紅の口調ではこの店はそれなりに長くあったようだ。
この都市の衛兵もそこまで無能ではない。病みを振り撒く悪辣店舗は割と潰れる。『病みラビ』では前世以上に創業年数は信用へ直結するのだ。
恐らく致命的な問題ではないだろう。最悪、店内に入れば判断がつくしな。
「いや、なんでもない」
「そうなの? じゃ、行こっか」
そうして、扉を開けて店に入った来紅に続き俺も入ったのだが、とても不思議な内装をしていた。
そこには店員はおろか、レジや商品すら存在せず床と壁は黒一色で染まっていた。
光源は奥にある通路から漏れるロウソクの灯りのみで、それはまるで先へ進めと言われているように感じた。
「変わったお店だね。せっかくだし奥に行ってみよっか」
少し不審に思い「帰ろう」と言いかけた時、来紅が先に行ってしまう。
俺も、そこまで帰ることに拘りがあるわけでもないので、「まあ、いいか」と自分の気持ちにケリをつけ彼女の後を追った。
「何があるか楽しみだね」
「そうだな。あと、少し暗いから気をつけろよ」
「わかって……痛っ」
言った傍から転ける彼女に苦笑した。もう終盤だと言うのに来紅のテンションは変わらず高いらしい。
いや、終わりが近いからこそ、より楽しもうとしてるのだろうか。
「あれ、飛んでっちゃった。拾ってくるーっ!」
「おいおい、だから勝手に行くなって……」
大丈夫かと声を掛けようとしたら彼女は走り去ってしまった。どうやら、転んだ拍子に俺が贈ったネックレスが飛んでいったらしい。
大切にしてくれるのはありがたいのだが、抜けてるところが目立つ来紅だと、うっかり死んでしまいそうなので突然の行動は控えてほしい。
「あった! 薊くん、見つかったよ」
「ああ、今行く」
そうして来紅の方へ行こうとした時、違和感を感じた。
おかしい、外から見た時は小屋だったはずだ。それも真っ直ぐ歩けば数歩で壁にぶつかる程度の狭い小屋。俺達が歩いた距離を考えるとまだ行き止まりになっていない事が不自然だ。
「っ!」
最悪の可能性が脳裏をよぎり、後ろを振り返るも俺達が入ってきた筈の入口は無い。
それが自身の最悪の推理が正しいと証明しており、激しい後悔に襲われる。なにせ、ここはクリアするまで出られない仕様だったのだから。
離れるのは危険だ。不自然な体制で固まっている来紅へ駆け寄ると、透明な壁に進行を阻まれた。
「クソッ、開けろ、開けやがれ!」
拳を砕けるほど叩きつけても、壁はびくともせず来紅も動かない。
ああ、これは……
「「ねえ、お姉さん。こんなところで、どうしたの?」」
透明な壁の向こう側で突然、現れた瓜二つの少年と少女が来紅に声を掛けた。来紅は、まるで何かに操られたように不自然な動きで二人の方へ体を向かせた。
始まってしまったようだ。
転生直後より、対策が極めて困難であると断じたイベントが。
「「道が分からないなら、お婆さんに聞きましょう。こっちに、お家があるの」」
来紅は何も喋らない。いや、喋れない。彼女は二人に案内されるまま歩いて行ってしまった。
何も出来なかった。来紅が連れ去られているというのに、助けるどころか近くにいる事さえも。
「ちくしょう、ちくしょう……」
無力感に膝を付く俺は絶望した。
何故ならここは、『病みラビ』が誇る、病みイベントを詰め込んだ究極形態の一つ不規則出現迷宮なのだから。




