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第18話

綺堂 薊(きどう あざみ) side








「これで浮気は許してあげる~もうやっちゃダメよ~」




 両手で持ちきれないほど商品を買わされて、やっとお許しが出た。間延びした話し方なので分かりにくかったが、どうやらかなり怒ってたらしい。




「酷い目にあった……」




 心底の嘆きである。


 どこぞの親戚がくれたらしい金がなければ借金を背負う羽目になったところだ。


 いや、商売上手な彼女のことだ。もしかしたら限界を見極めながら買わせたのだろう。もとより俺には勝ち目など無かったのだ。




「うふふ~女の子は怖いものよ~」




 ……女の子?


 自身の不幸を嘆いていると少し引っ掛かる単語が聞こえた。


 二十歳そこそこの彼女が、そのカテゴリーに入るか疑問だが、その話題は間違いなく地雷だ。表情に出さないよう必死に無表情を貫き、他の事を考える。


 あー窓がガタガタうるさいなー。まだ風が強いなー。




「……ああ、そうだ」



「どうしたの~?」




 散々買った後だが、もう一つ欲しい物を思い付いた。それは来紅(らいく)へのプレゼント兼お返しである。


 いくら来紅のポーションが安いといってもジュースでは対価として足りない。それに、場合によっては頼み事もするだろう。ならば、手土産の一つでも必要だと思ったのだ。


 と、言うかなぜ俺は窓を見てたら来紅を思い出したのだろうか。これが友情か? 何をしてても友達が思い浮かぶ的な。


 きっと、そうだな。




「プレゼントを買いたい。大切な友達がいるんだ」




 直後、窓の音が小さくなる。


 徐々に音が大きくなっていて喧しかったので、そろそろ閉めようかと思ってたが、その必要はないらしい。


 これで目の前のニヤニヤした店員さん(悪魔)に集中できる。




「あなた本当に可愛いわ~実は彼女さんかしら~」



「違う。けど、一人しかいない友達だから同じくらい大事かもしれん」



「悲しいわ~。私とは友達じゃないのね~」




 シクシクと、雑な泣き真似を始めた彼女は涙の代わりに笑みを零して俺の反応を愉しんでいた。


 そういうの本当に止めてくれ。来紅に見られて、うっかり殺されたら死んでも死にきれないぞ。




「恩人と友人は別だろ」



「むぅ~まぁいいわ~」




 恩人という言葉が響いたのか、それとも祈りが通じたのか、店員さんはヒラヒラ手を振りながら店の奥に引っ込む。オオスメを取りに行ってくれたわのだろう。


 いつしか窓の音は完全に止み、店内は静寂に包まれた。




「……タバコ吸おう」




 タバコはストレスと暇つぶしの強い味方である。固有スキルのお陰で肺へのダメージは気にせず済むし、これからはガンガン吸っていこう。


 たしか外に灰皿があったなと思い出しながら扉に手を掛けると、再び窓が音を立てる。


 それは台風が上陸した時のような激しさだ。まるで外に出ることを拒絶されてるようにすら感じる。




「また風が強くなったのか?」




 こうなるとタバコの火が風に流されて燃え移る危険があるので迂闊には吸えない。仕方無く諦めて、ゴミが中に入らないように窓を閉める。




「ㇶェ……」




 閉めた時に変な音が聞こえた。隙間風だろう。


 しかし、窓を閉めれば音が止む程度の風で良かった。帰るのが億劫になるからな。




「みてみて~沢山持ってきたわよ~」




 ドカッとカウンターに置かれたのは小さな指輪から巨大なハンマーまで大小様々な商品、共通してるのは高い物だという事位だ。




「どれか買ってくれたらリュックも付けちゃうわよ~」



「商売上手だな……」




 もう既に両手で持ちきれない買い物をしてるのでリュックは素直にありがたい。


 ……平民の平均月収が消し飛ぶようや商品ばかりでなければだが。どれだけ根に持ってるんだ。




「おっ、これ幾らだ?」



「ん~これは~」




 死んだ魚の目で選んでいると、一つだけ目を引く物があった。


 それは、アイビーが描かれた指輪にネックレス用のチェーンが通された品である。これは花を滅多に付けない蔓植物で、確か友情だとか不滅だとかがあった筈だ。俺達にピッタリだろう。


 花言葉を知っていたのは、『病みラビ』は花に関する名付けが多いのでプレイする内に自然と学んだのだ。


 まぁ、自分で調べようとまでは思わなかったので、そこまで詳しくはないが。




「友達相手で〜」



「ん?」



「ほんと~に~これでい~の~?」



「あ、ああ……」




 店員さんが探るような、されど心配もしてるような雰囲気だが別に問題ないだろう。主人公も似たような柄のプレゼントを贈っていたしな。


 俺の意思が変わらない事を確認するとプレゼント用に包んでくれた。




「またね~」



「ああ、また来る」




 荷物をリュックへ詰めた俺は他に買わされてはたまらないので、さっさと外へ出た。


 風に乗ったゴミが目に入らないよう腕を傘にしていると、背後から裾を引かれた。




「ねぇ、浮気って何のこと……」



「聞いてたのか!?」




 道具屋の影から出て来るように現れたのは、今朝の夢にも出てきた来紅だった。


 夢の時とは違い(病み)と光を半々にしたような表情だったが、このままでは夢の通りデッドエンド(友情エンド)まっしぐらになる事は想像に難くない。


 店員さんとの会話を、どこまで聞かれたのか分からなかったため、今日の行動全てを説明する羽目になったが、命とハッピーエンド(理想)が懸っているのだ。安いものだろう。


 最後にプレゼントを渡した時は、陰りを感じさせない純粋な笑顔だった。


 これなら大丈夫そうだな。


 それは、誤解に対してだけではない。とある頼み事に対してもだ。


 そう思った俺は、浮かれている来紅へ向き直る。




「俺達、親友にならないか」




 これこそ、一晩と半日を使って出した打開策である。


 ハッピーエンド(理想)を実現するには来紅以外の救いたいキャラとも仲良くなる必要がある。故に友達を増やさないというのは、かなり厳しい制約だ。


 なら、来紅と親友になり増やさないのを親友へ変えてもらうという策である。俺自身、来紅と話すのは基本的に楽しいし、今以上に仲良くなりたいとも思っているのだから。


 まぁ、友達も親友も頼み込んでなるような間柄ではないかもしれないが、こういった事に慣れてない俺達には必要な事なのだ。




「ありがとう。こちらこそよろしくね」




 緊張しながら答えを待っていると、満面の笑みで了承を貰えたのでホッとする。


 一時はどうなる事かと思ったが、無事に終わったようだ。


 そうして俺達は、後日遊ぶ約束をしてからそれぞれの帰路についた。


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