○ プロローグ
○ プロローグ
――暑い。
生理現象のように自然と口から出る言葉は、夏の熱気でかき消されていく。閑静な住宅街の一角にある小さな公園で、僕たちはベンチに座っていた。
まるでサウナの中に閉じ込められたかのように、熱気が全身を圧迫し、息苦しい。汗は、拭っても、拭っても吹き出してくる。
蝉の鳴き声は耳鳴りのように聞こえ、太陽の熱線はまるでシャワーのようだ。
空を見上げれば、ゆっくりと流れる真っ白な雲が見え、吸い込まれそうになる青空も、あまりの暑さに蜃気楼のように揺らめいていた。
「ほんと、暑いねぇ」
隣でソフトクリームを頬張る彼女は、日光に負けないような、眩しい笑顔でそう言った。冷たいソフトクリームも、外気によって急速にとけ始める。その形をどうにか整えようと、小さな舌をぺろぺろと動かす仕草は、何ともかわいらしいと思う。
不意に、そんな彼女を直視できなくなった僕は、おもむろに顔をそむけ、コーンを包んでいた紙を手持ちぶさたに弄んでいた。
公園の砂場に目をやれば、水鉄砲を持った子どもたちが声を上げ、楽しそうに遊んでいる。
太陽の燦々とした輝きは、僕たちの肌をジリジリと焼いていった。
「もうすぐ終わっちゃうなんて、信じられないよね」
最後の一口を食べ終えた彼女は、両手を太陽にかざし、そう言った。
その言葉が、僕たちの関係の終わりを告げるものだとしたら、――どれほどマシであったことだろう。
僕は俯いたまま、やりきれない思いをかみ締めた。
――世界は、あと少しで終わる。
―― カウントダウン ラスト30デイズ ――