3章
例の新ラジオ番組収録の日がやって来た。
またも生放送だ。
みなみは他の仕事が忙しく、またもあおばは一人で向かっていた。今度もまたCスタジオと、しっかり確認を取って、地図まで渡されたのだから、大丈夫だと、あおばは安心していた。
手書きの可愛い地図だった。
それを見てあおばは微笑んだ。
「今度こそ間違えないようにしないと」
きちんと地図通りに到着したあおば。
今度は着くやいなや顔面蒼白となった。
スタジオはスタジオではあったのたが、まるで廃墟の、薄気味悪い所で、当然人影などまるでなかった。
「どういうこと?」
あおばはあわててスマホのラジオをつけた。
しかしガーガーという雑音がするだけで、全くつく気配がなかった。
あおばは可愛い地図を見た。
この場所で間違いない。何かがおかしかった。
みなみが遅れてやって来た。
「あおば・・・これって・・・」
みなみは絶句した。
「みなみが書いてくれた地図通り来たけど、間違いないよね?」
あおばはみなみに地図を渡す。
みなみも確認するが、ここで間違いない。
「どうして・・・」
みなみが呆然としている横で、なぜかあおばはわなわな震えていた。
少し様子がおかしいと気付き、みなみはあおばに声をかけた。
「あおば・・・?」
「わかった・・・」
「えっ? わかったって・・・何が?」
「全部あんたが仕組んだんだね?」
あおばの怒気をふくんだ声に、みなみはゾッとした。
「・・・何言ってるの?」
「私を人気声優の座から引きずりおろして、代わってあんたがのしあがろうって魂胆だったんでしょ!?」
みなみは泣きそうな顔で、力なく首を振る。
「何年もかけて私に取り入って信頼を得て、裏では私をせせら笑って、いつか自分が人気声優の座を奪い取ろうって魂胆だったんだろっ!!!」
あまりの怒りオーラに圧倒され、みなみはただただ涙を流していた。
「ち・・・違っ・・・」
みなみは弱々しく答えるしかなかった。
「ざけんじゃねえよ!! アホみなみ!!!」
恐怖と悲しみでみなみは泣き崩れるしかなかった。
それでもみなみは何とか誤解を解こうと力を振り絞った。
「落ち着いて。あおば。あなたを引きずりおろした所で、私自身に声優の実力がないことは重々身に染みてわかってる。私がのしあがることなんてできるわけない」
みなみは泣きながらも何とか言葉を発した。
あおばは不敵に笑った。
「言質取ったぞ。私を引きずりおろそうとしたことは間違いないんだなっ!!!」
「違う・・・そういう意味じゃない・・・」
もちろんみなみにそんな気はさらさらなかったが、もうどうしていいかわからず、へたりこんでいた。
「黒幕は誰なんだよ!? 金はいくらもらったんだよ!? ええっ!? アホみなみ!!!」
みなみは泣き崩れた。
「信じてあおば・・・大好きなあおばを騙して、金もうけしようなんて考えるはずない・・・」
あまりの怒り、怨みのオーラに圧倒されていたが、あおばはこのような人物だったのかと、みなみはふと疑問が沸いた。
長年の付き合いで、あおばの本質は“良い子”であることは熟知しているつもりだった。
何かに憑依されているのではないか?と思えるほど、目の前のあおばは信じ難いほど別人に見えた。
確かに普段表出が少ない人は内へ内へと溜まったものが一気に爆発する・・・
そういうことはあるであろう。
だがこのあおばはあまりにも常軌を逸していた。
「私が黒幕よ!」
廃墟の奥から不気味な声がした。
だがそれは・・・まぎれもなくあおばの声だったのだ。
奥から出てきたのはなんと、真っ赤な衣服を身にまとった、あおばその人であった。