2章
二人三脚で仕事は順調に進んだ。
そんなある日、あおばは自宅でくつろいでいた。アパートの一室だ。あおばはもちろん稼ぎに稼ぎまくっていたが、豪華な生活は好きではなく、質素な生活をいとなんでいたのだ。
あおばのスマホに、みなみから電話が来る。
「あおば? 実はね。また凄い仕事取って来ちゃった」
「何?」
「もう一個、ラジオパーソナリティの仕事取って来たの!」
「本当!?」
「しかも、それもあおばの名前の付いた冠番組になるんだって!」
「凄い!」
「やったね! もう売れっ子声優だね!」
「ありがとう。みなみ」
「大変だけど頑張ってね」
「うん」
そう言ってあおばは電話を切った。
そしていよいよその新ラジオ番組収録の初日がやって来た。時間帯は夜、生放送だ。
だがあおばは、その前に入っていたアフレコの仕事が長引いていたため、なかなか抜け出れずにいた。
ギリギリになりそうだったこともあり、みなみは一足先にその収録現場であるスタジオに向かい、諸々の調整をすることになった。
やっとアフレコが終わり、あおばは急いでスタジオに向かう。
現場に到着したあおばは、怪訝そうな表情になる。
そのスタジオには、ひとっこひとりいなかったのだ。
「どういうこと?」
あおばは不安になり、スマホでラジオを付ける。
「は〜い! 私、二ツ沢あおば! バリバリ売れっ子声優DEATH!」
それは紛れもなくあおばの声だった。
あおばは足の爪先から髪の毛の先まで、一瞬にして凍り付いた。
「誰・・・?」
あおばは頭がくらくらし、呆然とする。
「私が世界で一番の声優よ! ファンの皆もそう思うでしょ!?」
「違う・・・私・・・絶対こんなこと言わない・・・」
あおばはあまりの恐怖にガタガタ震えていた。歯もガチガチさせ、立っていられなくなり、座り込んだ。
まだブルブル震えている。
声は紛れもなくあおばであったが、普段あおばがラジオパーソナリティーとして演じている明るいあおばより、更に数段明るいあおばだった。
あおばはそのまま気を失った。
気が付くと、自分のアパートの部屋で、布団の上に寝ていた。
近くにみなみが座っていた。
みなみがあおばを探し出し、アパートに連れて来たのである。
目を覚ましたあおばは呟いた。
「みなみ・・・」
「ごめん。あおば・・・」
「どういう・・・こと?」
「私にもわからない」
「えっ?」
「現場に行ったらディレクターさんに、もう放送入ってるから行っていいよって言われて、半ば強引に追い出されたの」
「ディレクター?」
「うん。それでおかしいと思って出口で待っていたら、待てど暮らせどあおばは出て来ない。それでそのディレクターに聞いたら、もう帰ったっていうの」
「ちょっと待って。私が行った時は、ディレクターどころか、誰もいなかった・・・」
「えっ? どういうこと? Cスタジオだよね?」
あおばは固まって押し黙った。
みなみは、あおばから発せられる、不穏な空気を感じた。
「私、Dスタジオって聞いたよ」
みなみは必死に言い返した。
「私ちゃんとCスタジオって言ったよ」
だが二人はそんなことより、その時ブース内にいたのは誰なのか?という問題の方が重要だと気付き、冷静になった。
「ごめんね。場所を伝える時、もっと正確にするよう気を付ける」
「ううん。私もしっかり確認しないと」
「一体誰だったんだろう・・・」
二人はどうしようもなく、みなみはそのままあおばの部屋に泊まることにした。