残雪
やけに静かな夜だ
まだ冷たい布団にしがみついて
この世界のどこかの君を想う
どこにも行けないんだ僕は
結局何も言えないままだ
もう君は僕を忘れているだろう
これまで人間をやってきて
人を助けた実感はなくて
いつも一方的に救われてばっかりだ
「それでもいいんだ
それが私の使命なんだ」
そう言って僕の手を取った
君の感触がまだ残っている
見ていて
言葉が勝手に壊れてしまって
何度も途中で口ごもって
やっと伝えられたときには君はもういないんだ
パッと大空に飛び上がって
どんどん僕から見えなくなって
その余韻すらすぐに埋まっていってしまうんだ
五月に溶ける残雪のように
君の足跡が消えていく