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魔女の心臓 1節②

1.


 ここは自然豊かな片田舎、フュリス諸侯の治める領地の辺境の町モリス。

 人口100人程度、主要産業は放牧と稲作。周囲を山々に囲まれ、そこから流れる小川がこの土地に豊富な栄養を巡らせている。

 かつてはこの地域も果物の名産であったと聞くが、人工の減少により産業の維持は困難になり今では見る影もないのが現実である。

 「きっとこの町も私もこうしてダラダラと死んでいくのね。シンパシーを感じるわ」

 そのように愚痴を零した口の中に頭上から落ちてきた土の欠片が落下する。

 「ゴホッ!…ペッペッ。もうっ、ここも古いものね」

 ここはモリスの地下深く、土と岩壁に囲まれた地下墓所(カタコンベ)である。

 この一帯ではかつて死者の肉体は可能な限り保存しておくという風習があった。死者に防腐処理エンバーミングを施しこうして地下深くに保存する。最も時代の流れと共に風習は風化し今では形式的に2週間程度保管し棺に入れて土葬する。かつての様に永久に保管する事を望むのは一部の特権的身分の者だけだ。

 「昔の人たちは死んだ人間がいつか復活できると信じていたみたいだけど、自分の家の下に他人の墓地があるなんて不気味でしかないわよね。最も、それがウチの稼業だしそのおかげでこうして好き勝手できる遊び場があるのは感謝しないとね」

 傍らに抱えた分厚い本を開き左手で保持する。右手は力を抜き前に付き出す。

 右手の真下には魔法陣に囲まれた鼠の死骸が置かれてある。


 「今度こそ…理論は合ってるはず」


 決意を込めた吐息混じりに彼女は呟く。

 「汝、器なり。汝に霊魂無く、自由無く、満たすものなく。なれどその身は器となりて万象の戒めを受け容れるものなり」

 呪文を唱えるー。続けていくつかの制約を課す。

 「行使者を主と定め、器たりしその身に制約の血肉を与えん!」

 言い放つと魔法陣は強く輝き中心の鼠へと光の筋は集約していった。

 「やった…?」

 数秒後、死した鼠の身体はよろめきながらも起き上がり虹彩を欠いた淀んだ双眸をこちらへ向けた。

 「よしっ!ネクロマンシー成功だわ!」

 しかし魔術陣地と呼ばれる魔法陣から抜け出てから数歩歩き柱の角までいくとブリキのゼンマイが切れたかのようにコテンと力無く伏してしまった。

 「また駄目かぁ。やっぱり魔術陣地の外まで出ると保たないか」

 屍骸魔術ネクロマンシー。死体を用いて行う魔術であり、その行使者は屍骸使い《ネクロマンサー》、そして被行使者を下僕スレイヴと呼ぶ。

 今行ったのは防腐処理を施した鼠の屍骸に魔術をかけて動かすというものである。

 「そうよね、分かってたわ。魔術陣地の外で動けるわけないわよね」

 独り言をぶつくさと言いながら片付けにはいる。

 「ゴーレムなんかはスレイヴ本体に魔力生成する魔法陣を描いたり内部に魔力を含有した鉱石を仕込んだりして活動時間を延ばすって聞くけど…鉱石魔術リソマンシーは全く別分野だからなぁ」

 床に散らばった魔術書を拾い上げ積み上げていく。

 齢14の小柄な体躯とはいえ彼女の頭の高さまで積み上げられた書物たちは全て彼女が独学で魔術を修めてきた証に他ならない。

「これだけ…私の爪先から頭まで全部魔術で一杯にしたのに、もうすぐ私の頭を追い抜いちゃうね」

さながら柱に身長を刻むかのように幼い頃から積み上げてきた成長記録。それでも自分は未だ何も積み上げられていない事実にほぞを噛む。

「成長してお母さんみたいになりたかったなぁ」


彼女の名前はモルグ。

モリスに産まれ、墓守の家系の長女として育ってきた。

幼少のみぎりより魔術と埋葬者として人体の知識を学び、ネクロマンサーを志すもの。


しかし彼女は魔術を扱う事は出来ない。

その資格を持たない事を彼女自身は痛いほどに分かっているのだ。

挿絵(By みてみん)

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