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魔女の心臓 2節④

 河があると思ったのは勘ではあったが確証はあった。先程この付近の畑で収穫されたであろう農作物を見つけたがリンゴや梨などの収穫ができるようだった。ミネラルの豊富な土地柄であれば河川が近くを通ってるはずと踏んだが正しかったようだ。


 「あそこか…」

 村から飛び出し1kmほど走ったところに河があった。

 「グルアァァァ!」

 あいも変わらずガーゴイルの王は爪を向けながらこちらを追いかけてくる。

 土手を滑りぬけそのまま河に向けて直進する。

 「ハァハァ…ふぅ」

 河まで追い詰められ袋小路に陥ったと思ったか、勢いよく王は爪を振り下ろした。

 「モルグ!」

 河に向かって勢いよく跳躍する。すると水面につくギリギリのところで脚は魔術により反発しそのまま水面の上を駆け抜ける事が出来た。

 「水面を走るなんて…忍者じゃあるまいし」

 それを見た王は再び空を駆けこちらへ牙を向ける。

 「うぐっー!」

 爪の一振りが空を割く。その風圧に脚がよろめき水面を水切りの石のように二度三度叩きつけられながら吹き飛ばされる。

 「ンなろう…っ!」

 口内に毒づきつつもすぐさま体勢を整え駆け出す。

 逃がすかと更なる追撃をしかける王だったが風の魔術で加速したルイは一足先に対岸へたどり着き、地面を滑りながら振り返った。


 ー王とはおよそ20mの距離はとっている。これなら大丈夫。


 「こうなったら出たとこ勝負よ…!」

 剣を振り下ろし王に向ける。

 対岸の森におそらく隠れているであろうモルグの魔術詠唱が始まり剣先に魔法陣が敷設されていく。

 「ゴアァァァァ!」

 剣先には魔術により作られた火球が形を成していく。

 最初にガーゴイルを倒したものと同じ要領。しかし、今度はモルグ曰く上級魔術を使ってつくる火炎魔術であるらしく先程よりも遥かに大きく熱量も高い。

 「いや、ちょっと待っ…」

 それは想像を超えて遥かに大きな火球となっていた。

 既に身の丈を超え、頂点が目視できない程の巨大な塊となってなお膨張していく火球。冷や汗すら蒸発させんとするそれは魔法陣によってルイ自身を焼くことは無かったが代わりにルイを中心に地面をぐつぐつと煮立てていた。

 「こんなの…想定してない…」


 溢した後悔すら飲み込み火球は剣を離れ、放たれた。

 その数秒後、鼓膜を突き破るような轟音が夜明け前の暁に響き渡ったー。


3.


 ルイがモルグに説明した作戦とは「水蒸気爆発」であった。水蒸気爆発とは水に高温の物質が触れることで水が急激に気化・膨張することで発生する爆発である。

 一般的な事例で言えば、工場で高温に溶かした鉄が冷却水と接触した時に巨大な爆発事故が発生する事がある。


 ルイの狙いは、直接攻撃を当てられないのであれば水蒸気爆発により広範囲の爆発に巻き込んでしまう事であった。狙いとしては的外れなものではなかったはずである。

 しかし、唯一ルイの想定外があったのは自身の使う魔術の威力を低く見積もりすぎていたことであった。


 「ひどい有様だな…」

 「はい…まさかここまでの事になるとは」

 昨晩の戦闘から一夜明け、戦闘のあった河へと男たちが詰め寄せていた。

 「どれだけの爆発があったんだ?河というより池が出来てるじゃないか」

 「魔術の爆発により地面がえぐれてしまったのだとか…それでもここまでの有様は戦場でもなかなか拝めませんね」

 火炎魔術のぶつかった河は地面ごと大きくえぐれ、半径30m近くの大穴を大地に穿った。既にそこには河から水流が流れ込みさながら池と化していた。

 「これは本人たちに事情聴取をせねばならんかもしれんな…トミック、君の家で匿っているのだろう?」

 「はい。彼女自身は防御術式で爆発から見を守ったようですのでじきに目覚めるかと」

 「では、さっそく案内してくれるか?」

 「はい。フュリス候」



 「痛ッ…くはないか」

 ルイは消毒液の臭いが漂うベッドで目を覚ました。外見の生傷に比べて不自然なまでに痛みのない身体に違和感がぬぐえない。

 「起きたら夢だったとか期待したんだけどな」

 ベタに頬をつねって引っ張るがまるで痛みはない。

 「そんな事しなくたって私は十分痛いよ」

 疲れた声で扉を開けながらモルグが部屋に入ってきた。彼女は頬を手で抑えているが隙間からその頬が腫れ上がっているのが見えた。

 「えと…モルグ…ちゃん?どうしたのそれ」

 「呼び捨てでいいから。なんで一夜経ってちょっとよそよそしくなるのよ。これは…そのぉ、まぁ折檻?的な?」

 「昨日の件でお父さんに怒られたのね。私がいた世界には良い格言があるのよ。『右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ』ってね」

 「ちょっ…その手は何よ!そうね…お父さんにも謝れと言われたし私もそう思うわ。本当にこんな事に巻き込んでごめんなさい」 

 深々と頭を下げるモルグ。

 「こうなったものは仕方ないわよ。頭を上げて」


 ーこんな事を言ったが、そもそも私自身既に死んだはずなわけだしあまり彼女を責めるのも適切でないかもしれない。


 「それより、何か用?やっぱり昨日の件について説明を求められてるとか?」

 「うーん。そうね。一応町長と領主さまが来られるわ。ただ、その前にこっちで口裏合わせしておいた方がよくない?」

 「口裏合わせ…そうね。お互い今どういう状況なのか分からないし、そこは共有した方がいいのかも」

 「うん。じゃあ着替えたらリビングにきて」

 私の服で申し訳ないけどと言いながらモルグが差し出した服を受け取り部屋の扉は閉められた。


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