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俺は変な汗をかきながら頬を引つらせて微笑む。
「な、なかなか、いけるだろ?今度買ってみたらいいよ」
「こんなの買うわけないじゃん」
「ま、まぁカフェオレの方が美味いよな。は、はは」
茜(成海が飲んだのだからいいのに)
な、なんでだ!?
茜(あっ、そうだ、お互いに飲み合いっこすればいいのよ。私って天才!)
とこが天才なのッ!?
「もらっちゃったし、特別に私のも飲んでいいわよ」
蒼(茜ちゃん大胆。凄いよ……。次は成海くんの番だね!やられっぱなしじゃないよね?男子だしッ!飲み干す勢いで茜ちゃんのストローにガバッといくんだろうな。キャーッ!)
いやキャーって!こっちが驚いたわ!てか俺も飲まなきゃいけない流れッ!?
どうする?けど俺が好きなのは蒼さんで、ここで茜のストローにしゃぶりついたら、涼川蒼がさらに遠くなるよな……。
ダメだ。飲んじゃダメだ。
蒼(成海くんが飲むところも見たいな)
「じゃ、じゃあ、もらおうかな。たまたま俺もカフェオレ飲みたかったしぃー」
茜はカフェオレを差し出す。
「ほら」
茜(何?変な言い訳して。もっ、もしかして成海、私と関節キッシュしたかったのッ!?ストローをベロベロ舐めたりしないわよね?)
「んなことしっねぇーよッ!」
「え?どうしたの?」
「あ、いやなんでもない。いただきます。チュー。あー美味かった。ありがとう」
速攻飲んでカフェオレのパックを速攻返した。
ヤバい。ヤバいよ。心の声が漏れてしまった。シークレットラン、まじで危険だ。
茜(急に叫ぶんだから、驚くじゃない。それで土日はどうするのかな?デートするって言ってたけど、それに私、成海のライン知らないのよね……。普通聞いてくると思うんだけど……。食堂だって探したんだから)
そうか……、そうだよな。茜は俺と付き合っていると思っている。いや、まぁ事故とはいえ実際に付き合ったんだけど……。
誤解を解くにしてもちゃんと話し合わないといけないし、連絡手段は必要だよな……。
俺はスマホを取り出し横に座る茜を見る。
「あの、良かったらラインの交換しない?」
「え?はぁ?べ、別に構わないわよ」
茜(なんで!?私の考えてることわかったの?)
タイミング間違えたか?怪しまれたかな?
茜(ふふふふふふふ。凄い、凄いよ。もぉう、そんなに私のこと好きなら特別に教えてあげちゃうんだからッ)
いや、めっちゃ機嫌いいぞ。バレてなさそうだな。
蒼さんのラインも知りたいけど……、今度にするか……。
ラインを交換した後も他愛も無い会話が続き、俺はこのまま何事もなくこの場が終わると思っていた。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った時の涼川蒼の思考を読むまでは。
キーンコーンカーンコーン♪
「教室に戻る時間ね」
「だな、行くか」
蒼(茜ちゃん楽しそうだったな。私も寡黙症じゃなければ、友達をつくったり……、彼氏……、つくったり、できるのかな。あの手紙をもらっていたら少しは変われたのかもしれない)
寡黙症?あの手紙?
いや、それよりも……、蒼さんの悲しみと辛さが伝わってくる。なんて憂鬱な思考なのだろう。
蒼(……成海くんに気付かれたら、もう生きていけないって思ってたけど、大丈夫だったし、二人とも楽しそうだし……、これで良かったんだよね……)
俺に何か隠し事があるのか……?生きていけないって大袈裟だな。
「ほら成海ッ、お姉ちゃんッ、早く行くよ」
「ん、ああ」
どういうことなんだ?
教室に戻る前にシークレットランの効果は切れた。持続時間は40分くらいだろうか。
場面寡黙症。俺は家に帰ってからそれをネットで調べた。
場面寡黙症は学校や職場等で話せなくなる疾患。発症する原因はコミュニケーションに対する強い不安だと考えられている。環境の変化、過去のトラウマ等で発症するケースもある。
ポイントは話さいのではなく、話したくても話せないというところ。
特定の場所や相手なら普通に会話ができるらしい。
茜と二人きりでいるときは普通に話しているようだし。……そう言うことだったのか。
そして俺はこの症状の治療法についても調べていくことになる。