(3)
自販機で飲み物を買いながら一旦気持ちを整理する。
さっきのは間違いなく他人の思考だった。それが自分の思考に流れ込んできた。
シークレットラン……。いや、間違いない。あの薬、本物じゃないか!雨乃さんッ!
それから、とにかく驚いたのは蒼さんの思考だ。
涼川蒼と言えば、ミステリアスな無言キャラ
。その胸の内は至高にして究極。神々が到達する領域だと一般的には考えられていた。
が、しかし、あれではただの内気なコミュ障の女の子じゃないか。
落ち着こう。心の内が読まれているなんてバレようがないけど、もし知られたらどうなることか……。顔や態度に出さないように、絶対に気を付けるんだ。
そう心に決めて席に戻った。
俺は茜にカフェオレを差し出す。
「ほら」
「遅かったじゃん……」
茜(お礼、ほら、お礼言うんでしょ私。……ありがとう。ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう。お礼なんか言えるかーッ!)
「ぐっ」
ヤ、ヤバいこの子、突っ込みどころ満載だけど、ダメだ。突っ込んじゃダメだッ!
「涼川さんにも同じの買ってきたよ。はい」
蒼(えっ?えっ?そんなぁ、悪いよぉ。どどどどどうしよう、そうだ、お金)
蒼さんは「ん」とだけ言って100円玉をテーブルの上に置いた。その表情に変化はない。無表情だ。
「ふーん、気が利くじゃない」
茜(成海ってお姉ちゃんにはいつも優しいのよね)
「俺はマッチョオレにしたよ」
「買う人初めて見た。それプロテイン入りなのよね?美味しの?」
「ん?ああ、えっと」
蒼(はっ!まままさか、俺のマッチョオレ飲ませるから、お前のカフェオレ飲ませろよとか言って、茜ちゃんのストローに口を付ける気なんじゃ!?)
なことするかッ!
蒼(そして嫌がる茜ちゃんに無理矢理成海くんのマッチョを……)
「ぶッ!」
「ちょ、ちょっと、汚いわね」
無口、無表情なのに考えてることとのギャプ凄まじい。シュール過ぎるだろッ!
「はぁ はぁ はぁ。あはは、ご、ごめんごめん。これ少しいがみがあるけど、結構いけるかな」
茜(ふーん。興味あるわね。自分じゃ買わないし。一口もらおうかな。かかか関節キシュだけどぉー、別に私達付き合ってるしぃ、昨日だって、そのあの、キ、キシュしたんだからッ!)
「ひ、一口飲ませなさいよ」
いや、何これッ!もうあげない訳にはいかないよッ!
「ほ、ほら」
茜は渡されたマッチョオレのストローの先端をジト目で見つめる。
茜(先端が少し濡れてる。成海の唾液よね?絶対にそうよね)
いいから早く飲んでくれッ!!
それからストローに口を付けてちゅーっとひと飲みした。
「ふーん、まぁまぁかな」
茜(なんか、成海の唾液の味がしたような気がする)
やめてくれぇえええええ!