超弩級勇者パーティ追放
朝、カンガルーの尻尾を枕にしている男が目覚めた。嫌々と目を開けるとちょうど天井が落ちてきているところだった。仕方なしに天井を破壊したあと、部屋の扉を開き寝室から出る。
ここは宿屋。一階に降りると、酒場になっていた。すでに彼の仲間は起きており、朝からビール瓶を飲んでいた。
「世界を救う勇者たるものが、酒に溺れるとはな」
男は仲間の一人に言った。言われた青年は、ボサボサの金髪を揺らし、赤い目で発言者を睨む。周りの仲間は最初から話に参加する気がなく、黙って朝食をとっていた。
テーブル席の空きスペースにどっかりと座り、男もビール瓶を注文した。勇者のように瓶を飲むことはできないが、食べることはできる。
「それで、今日はどこまで行きますか」
全身をローブでまとった少女が呟いた。表情はフードに隠れて判らない。彼女は魔術師。彼ら勇者一行は世界を魔王から救うために活動している。その魔王とやらが何者なのかはさておき、その魔王の下へ向かうのが彼らの目的である。
しかし勇者と持ち上げられど人間であることに変わりはなく、度々休みをいれながら行軍していた。
勇者の青年は瓶を飲むのをやめ、渋った顔で誰に向けるでもなく言った。
「その前に話しておきたいことがある」
「なに?」
教会の指定する聖女服を着ている女が聞く。これで四人。勇者一行の全員である。聖女はナイフで皿を切り分けるのに夢中で、勇者の言葉なぞマトモに聞いてはいなかった。
「お前、戦士についてだ」
ようやくビール瓶が届いた頃に、男に向けて勇者が言った。男は凄腕の戦士だ。実際二の腕が凄い。なにが凄いって、そりゃ凄いのだ。
「戦士は最近、狼藉が多すぎる」
戦士を見ないで勇者は吐き捨てた。戦士は口に入れようとした瓶の破片を指で潰してしまった。途端に怒りが噴出する。確かに狼藉に覚えはある。だがそれで責められる謂れはない。
「だからなんなんだ」
「なんなんだ、じゃない。お前は俺達勇者パーティに属していながら、多くの青少年を無理矢理犯したじゃないか。俺達の名誉を傷つける行為ばかりだ」
「ちゃんと行為の後に合意は取っている。問題ない」
「剣で脅して得た合意があてになるか」
「それだったら、お前さんだって魔物を輪姦したじゃないか。スライムもゴブリンもスパイダーもドラゴンの子供も」
「あいつらは魔物だ。何しても許される」
「お前さんがそんなことしたせいで昨日魔物共が復讐してきて、前に居た村を壊滅させられたんじゃないか」
「それも魔物が悪い。あんなにエッチなのがいけないんだ」
「その論法が通じるなら、俺も悪くない。少年達がエッチなのが悪い」
「二人共いい加減にして。どっちもどっちでしょ」
聖女がたまりかねて叱咤する。切られた痛みでフニャフニャになった皿をお行儀よく食べ、飲み込む。
しかし勇者は止まらなかった。
「いや、これは確実に戦士が悪い。いたいけな子供達を手にかけたのは許せない」
「手にはかけてない。顔にかけたんだ」
「そんな話はしていない。というか、エッチなことをしたのは認めるんだな」
戦士は迂闊を恥じて黙った。
「お前は追放だ。勇者パーティから。こんなに罪を犯す者がいたら俺達は痴れ者軍団だ」
戦士は想像した。勇者パーティを追い出され、人々から後ろ指をさされるのを。そして自分以外の罪に蓋をされるのを。
戦士は立ち上がり、大声で喚き始めた。
「俺を追い出すだって! お前さん、ふざけるのも大概にしろよ! 魔物を好き勝手犯す勇者に、同性の死体とヤり始める魔術師、ジジイと援交しまくる聖女! こんな奴らと一緒にいる俺の不幸を理解できない奴がいるか? いない!」
たちまち酒場中が大騒ぎになった。あの勇者は魔物とヤっている? 聖女が援交? 魔術師がネクロフィリア? しかしその騒ぎはあまりに静かで、勇者達の言葉に耳をすましていた。
たまらず勇者達も反撃に出た
「魔物とするのになんの問題がある? スライムなんて人間の女より極上なんだぞ。あの奉仕の甲斐甲斐しさはメイドを遥かに超える!」
「ジジイなんて呼ばないで! おじ様って呼ぶの! 最高のパトロンなんだよ? 気持ちいいことしてお金くれるチョー優しい人をバカにしないで!」
「女の子の死体が魅惑的なのがいけないんです。あんなの自分から股広げているようなもんじゃないですか。ビッチですよビッチ。死体はみんな淫乱なんです」
怒涛の言い訳に戦士は疲れ果てた。こんな狂人と今日まで命を共にしていたなんて。こんな奴らに比べて、自分の高潔さといったら! 将来聖人に数えられるのは勇者じゃない。俺だ。
戦士は決心した。いいだろう辞めてやる。しかしただで辞めるつもりは毛頭ない。
「判った。判ったよ。もうお前さんらとはやっていけない。だが、お前さんらにも、俺にも面子というもんがある。辞退式でもやろうじゃないか」
「そんなものがお前に適用されるとでも?」
「知っている。だから決闘をしようじゃないか。……野球でな!」
アメリカ社会主義合衆国連邦。そこは、野球が人権や人命よりも優先される国。野球といえばア連で、その他の国で野球をしようものなら目でシコられたあと豚の餌にされる。
この国は議会制度を敷いた一党独裁の専制君主制の国。その為野球をやるのにも許可がいる。幸い勇者であることが有利に働き、四人で野球勝負をすることとなった。
野球のルールは単純だ。いかに速いボールを投げてバッターを殺せるかという殺人スポーツだ。ア連憲法第千七百四万一条によると、野球は全て許されるそうだ。つまり野球は自由。
勇者はピッチャー、戦士はバッター、魔術師はキャッチャー。聖女は審判だ。聖女の後ろに太った男がいるのが気がかりだが、それでも試合は始まる。
「始め!」
突然脱ぎだした聖女が合図を送り、勇者と戦士の殺しあいが始まる。観客席からは銃弾の雨で応援される。全て核弾頭だったので危うくクレーターができるところだったが、全て戦士がホームランすることで惨事は逃れた。飛んでいった弾はお隣のブリブリ店頭王国に落ちた。
その隙を逃さず、勇者は内部に太陽を入れてあるボールを投げた。バッターに向かう時速ヤベーキロのボールを、難なく打ち返した。空の彼方でブラックホールができ、観客が吸い込まれ始める。
勇者は舌打ちし、唐突にバックからミニガンを取った。弾は全てベースボール。なんの違反もない。狙いを定め、乱射する。その背後では聖女が致し始めた。
戦士は持ち前の勘で全弾を弾く。バットが悲鳴をあげる。耳障りになったのでバットの声帯でボールを受けた。バットは黙った。
魔術師に冷や汗が流れる。このままでは勇者が負けてしまう。もう点差は酷いことになっているはずだ。あそこまでホームランを決められては。この戦士という男は危険だ。ここで始末しなければならない。ストライクがないので暇で横になっているときにそう思った。
魔術師は立ち突然戦士の腕を掴んだ。彼は驚いて一瞬動きを止めてしまった。瞬間ベースボールが彼の体を次々貫いた。ついでに魔術師も心臓を吹き飛ばされた。聖女は首絞めプレイで呼吸を失くした。
観客が宇宙から拍手してきた。プレイヤーが死んだので勇者の勝ちとなったのだ。戦士は悔しくて悔しくて、全力で天国へ昇った。魔術師と聖女は勇者に憑いた。
天国に行くと、天使自ら迎えいれられた。
「ようこそ天国へ!」
その天使はかわいらしい少年だった。
「うおおおおお!」
戦士は勃起し天使を押し倒した。そして、天使を犯しながら地獄へ落ちた。天使は堕天使となって男の性奴隷となり、かくいう男は地獄でショタだらけの輪姦大会を開いた。勇者は魔王を孕ませた。
そして、後の時代。地獄の王となった男と最年少で魔王になった少年が戦うことになるが、それはまた別の話。
流石にこれで消されることはないでしょう。
ないよね?