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86・鶴の寮の三人と鍋島元茂、事件のことを振り返ること《弐》

「図々しいにもほどがあってよ!」


「……それは申し訳ない。何分主務殿のお言いつけですので……某の希望というわけでは……」


「それならあんたがここへ寝たらいいわ。隣の笹の寮の部屋にはあたしが行くから」


「ええ? そんなこと勝手にいいの?」


「……それならいっそお前らが二人して笹の寮の部屋へいけ。俺はこいつとここで寝るから」


「へ? 総次郎と元茂殿が?」


 総次郎は苦虫を噛み締めたような顔で


「お前らよりは百倍マシだろ。こいつはお前らと違って、ぎゃあぎゃあ騒ぐこともなそうだからな」


 と言った。当然忠郷も黙っていない。


「まあああああ! どういう意味よ!」


「その通りの意味に決まってるだろ。だいたいお前、剣術の稽古はしてるんだろうなあああ? もう試合まであと五日しかねえんだぞ!」


「総次郎ってば僕らのことなんやかんやうるさいみたく言うけど、自分だってもんのすごい寝言うるさいからね。わかってる? 寝てる間、一人で何かむにゃむにゃすごく喋ってるよ。火車が言ってたもん」


「なっ……そんなことはどうでもいいんだよ! どうせお前らだってぐっすり寝てるんだから関係ねえじゃねえか!」


 僕らのやり取りをひとしきり見守っていた元茂だったけれど、ようやく


「あのう……」


 と話に割って入ってきた。


「自分も……ここにご厄介になりますので……要らぬ揉め事は……どうか……」


「はああ? あんたも何言ってんのよ! こんな狭い部屋にどうやってもう一人寝るっていうの? 三人だって息苦しいっていうのに……信じられない」


「僕はさんせーい! 詰めればあと一人分くらいは布団敷けるよ。元茂殿だって慣れない部屋に一人じゃ寂しいよね?」


「そんなのはガキのお前くらいなもんだろ」


 総次郎が僕をちらりと見てため息を付いたもんだから、僕も忠郷みたく声を上げた。


 総次郎が何かと自分に年上風を吹かすのはどうにも納得が行かない。僕だっていつでも実家の後を継げるように頑張っているのにさ。

 そりゃあ……僕は総次郎より年は下だし、元服だってまだ済ませてはいないけれども……。


 だけど、僕はふと元茂殿の顔を見てなんだか安心したんだ。


 ほんの少しだけど、彼はなんだか憂いが晴れたような表情をしていたからさ。


「ねえ、元茂殿? 元茂殿が持っていたあの鬼を生み出した闇の龍脈の石、あれは……フランシスコ殿にもらったの?」


 僕は思い切って尋ねてみたよ。彼は僕をまっすぐに見て頷いた。


「……そうです。彼が……くれました。彼がどうやってそれを手に入れたのかまでは知らない。ただ……強い力がある石だそうだから、お守りにあげると言って……」


「あんたはフランシスコと仲が良かったの?」


「……時折話をしました。そうなったきっかけは偶然のようなものです。彼は私が塞ぎ込んでいると、心配して声を掛けてくれた」


 きっかけはたまたま同日同刻に元茂とフランシスコに実家からの面会が入ったことだった。

 寮も違うし、二人はそれを知らないまま、それぞれ実家からの自分の客人を出迎えた。


「私は……最近父とは折り合いが悪く……その日も面会に来た実家の人間からはあまりいいことを言われなかった。それで面会が終わった後も部屋へ戻る気にはなれず、客間の外廊下でぼんやりしていたんです。ちょうど夕暮れ時でした……そうしたら、隣の客間にいたのが、フランシスコだったのです」


 心に憂いを抱えた元茂にはすぐにわかったんだそうだ。


 自分を見つめるフランシスコの眼差し、表情ーー彼もまた、心に苦しみや悲しみがある。

 ともすれば堰を切ったように溢れ出そうな心の何かを、既のところで押し留めているに違いないと。


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