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異世界転生(仮タイトル)  作者: キコリ
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第05話「搾乳」

冒険者ギルドを出ると、すでに2刻(約10時)を過ぎていた。姉と図書館に向かう


「遅くなっちゃったね」


「たのしかった」


会話しながら図書館に入る。司書さんっぽい人はニコっとするだけで話さない。

図書館は静かにだね。


姉と本棚を眺める。勉強する本を前もって決めておくのだ。


「何かお探しですか?」


いつの間にか司書さんが後ろに居て静かに聞く


「勉強をする本です」


と姉。司書さんがパッパと本を取り出す。


「この辺りは学塾と同じ教科書です。1学生ので良いのかしら?」


「「はい」」


「でもべんきょうは次からだよ」


と俺


「ふふ。下見に来たのかしら?」


姉と一緒にうなずく

図書館組と呼ばれる子達が普通にここで勉強してる様だ。まだ午前なのでおじいさんしか居ないけど。


「おもしろい本ありますか?」


あざとく聞く


「そうねえ・・こう言うのは物語調になってるわ」


挿絵もあり、まんま小説だった。子供向けは王子様やお姫様の話が多い。

他には図鑑を出してくれた。動物や魔獣だけでなく、魚から植物に農作物と鉱石、道具や魔道具に楽器まで。


後は実用書や専門書が多い。読めなかったタイトルは教えてもらう。

調理の本があったのでチェックしておく。調味料依存症にかかってるのだ。


他に共用語と言う物があった。


「これは世界共通で使われる言語よ。発祥は大昔の魔法国家。

今は違う国と言語になったけど、国家同士の会談ではまだ使われているの。王宮や貴族には必須なのよ」


(この国の文字を覚えた後はこれだな)


「昔と言えばこう言うのもあるわ。今の技術のほとんどを開発した人なの」


と取り出した本の表紙に『青木』と言う文字が入っている。

司書さんは何の絵か分からないらしいが複写で崩れていても、どう見ても日本語である。


そして日本の文字を、日本人の名前を、前世の名前を思い出す。



「あおき・・・」



「そう。この本はアオキ・セイジ・ロバルデュー。最初の領主で偉大な冒険者のお話よ」



ーーーーー



冒険者Side


冒険者ギルドを出発した5人のパーティー。固定したパーティーでは無いが、毎回同じようなメンバーになる。

この仕事は大手のデノーズ商会の依頼であり、専用の馬車を2台借りていた。


馬車を曳く馬は軍馬として育てられた強靭な馬である。4人掛けの御者台と牛乳用の樽を入れた専用の荷馬車を曳く。

毎年の事なので、道も馬車が3台並べる程の広さがある。


「おう、第一森林が見えてきたぜ」


と熊獣人のガルべス


「今年は春先から暖かいから、もう子供が生まれてるかしら?」


金髪超絶美人のレリーナは仕事の心配をする。

牛の搾乳はベテランの彼らが第一陣であり、数の確認と渡りの到達予想をするのも仕事だ。


「うちの子らが見たがってたなあ」


「戻りましょ!連れきましょ!」


と真っ黒なローブを着たロランがエディットに食い付く。

ガルべスも楽しそうに話す


「ハッハー、いいかも知れんな。牛の乳房でも咥えさせとけばいいだろ」


「ウルフの群れさえ来なければな」


エディットの心配はウルフだ。個の実力は無いが数の暴力がある。本音では連れて来たいのである。


「わたしが守るよ?」


「おう、ロランが真面目に働きそうだ。エディット、いいんじゃねーか?」


ガルべスまで言い出す。レリーナはロランをよく知ってるので、息子にとばっちりが行かない様に黙っている。

ちなみにロランはまだ18歳で唯一の独身だが、本気を出せばレヴィネール王国最強である。後にエディがチートと呼ぶ。


「それなら1頭連れて帰ってくるか?」


エルフのフェルヴが名案とばかりに言う。


「見せたら食えば良いしな」


とガルべス


「野蛮人・・」


2人ともレリーナのジト目から目を反らす。

この世界の牛は飼育が難しい。雌で1トンを越え、雄で最大2トンにもなる巨大な牛だ。

本能で移動するため飼育しても脱走しようとして怪我をしたり、脱走先で獣に食われる事になる。


「ちょっと待ってくれ。今から柵を開ける」


フェルヴが入口を開けに降りた。

第一森林はウルフが多いため柵を張り巡らしてある。第二森林は熊の生息地で人里に下りて来ないので柵は無い。


「ふむ。近くにウルフは居ないようだな」


ウルフの足跡が近くに無いか探すフェルヴ


「今年は獲物が出てくるのが早かったんだろう」


エディットが予想する。1月が寒いと獲物が少なく、ウルフが柵の近くまで来る事がある。

ガルべスが剣をマジックバッグから取り出す


「じゃ、ぼちぼち行くとするか」


「ああ」


エディットも剣を取り出した。

レリーナも杖を持つ。フェルヴは奇襲に備えて小型の弓だ。足止めに使う。


万が一ウルフに馬を傷つけられると依頼達成が困難になる為、警戒をしながら進んでいく。

ロランは強すぎる故に、事前準備や警戒の概念が無い。


ーーーーー


冒険者ギルドを出発して途中休憩を入れながら2刻半。森林を越え小高い丘が連なる草原に到着する。

最盛期で2000頭を越えるので、かなり広い場所だ。


「思ったより少なかったな」


とガルべス


「でも子牛は沢山生まれてるわ」


レリーナは喜んでいる。乳が沢山出るし子牛は可愛い。


「141頭か。雄は12頭だな」


フェルヴが早速数えた。雄は競争に負けると追い出される為、雄だけのグループでやってくる。

雌が1000頭単位になると交尾のチャンスを得られるからだ。


まず守りやすい場所を探す。場所が決まれば馬を離した。牛を気にせずに駆け出す。

牛達も毎度の事なので気にしない。


エディットとガルべスが、空間拡張された荷馬車から馬の餌と水、トウモロコシを取りだした。

冬を越した品質の劣るトウモロコシを利用して、牛を近くに集める為だ。


「俺はどれぐらい向かって来てるか調べる。ロランは馬を見ておけ。ウルフが来ても手は出すなよ」


フェルヴがロランに指示をする


「わかった」


ロランはぷらぷらと歩き出す。この国に来て2年目の搾乳で経験が無いし、元々ずぼらなので手伝いもしない。

大雑把な性格で魔法の加減もしない為、戦うと大惨事になる。


若い冒険者からは役立たずと言われるが、ベテラン達は使い所を知っている。


そして搾乳が始まる。

母牛は乳がパンパンに張っているのでおとなしくしている。子牛は興味津々な様だ。


ここで5日間、搾乳を続ける。



ーーーーー



搾乳を続けて3日目の夜。小さな焚火を囲んでフェルヴとガルべスが見張りをしていた。


「明日は俺だけ抜けても良いか?途中で何かがあるのかも知れん」


なかなか牛が増えないのでフェルヴが心配している。


「そうだな。この数では夏までもたないだろう」


ガルべスも心配している。フェルヴが心配してる事が重大なのだ。精霊が牛を見つけられないと言う事だ。

その時、ウルフの遠吠えが聞こえた。ガルべスが剣を持って立ち上がる。


「近いな。見つかったか?」


振り向くとエディットとレリーナはすでに起きていた。ロランはまだ寝ている。

焚火を消して荷馬車の影から周囲を窺う。


遠くにある森の中で影が動いていた


「ロラン起きろ」


ガルべスがロランの尻を蹴り起こす


「うにゃ?」


春とは言え夜は冷えるので毛布に包まっている。牛達も身を寄せ合っている。


「フェルヴどうだ?」


「でかいな。27頭だ。ロックウルフだろう」


でかいとは群れがでかい事だ。フェルヴが持てるだけ矢を持って小型の弓を手にする。


「ロラン、準備しておいてくれ」


「はいよ~」


フェルヴが皆に指示を出し、ウルフ襲来に備える。牛達も気づいて立ち上がった。

前衛がフェルヴとレリーナ。中間にロラン。後衛がエディットとガルべス。


逆かと思われがちだが、ウルフは牛だけを狙うため前衛ができるだけ足を止める。

後衛は牛に張り付くウルフをなぎ払う。ロランはサポートだ。攻撃させると災害になるのだ。


フェルヴが精霊と相談しながら対策を立てる。他の4人には聞こえない。


「広がってるな・・ロラン、昨年通りだが足止めも手伝ってくれ」


「ふっ飛ばせばいいの?」


「草原が台無しになる。例の奴と、風魔法で脚だけを狙ってくれ。ダメージは要らん」


「難しい事を・・」


普通は一番簡単な魔法である。


「来るぞ!」


フェルヴが一射目を狙う。ロランはそれにタイミングを合わせようとしている。


「レリーナは左だけを狙ってくれ」


「ええ」


レリーナは杖を構える。そして、迫ってくる影にフェルヴが弓を放った。


「ギャインッ」


肩に刺さった。同時にロランが無詠唱で光魔法を打ち上げる。

周囲が明るくなりウルフが一瞬躊躇した。それだけの明るさ。


近代魔法と呼ばれるアオキ・セイジが詠唱を開発した電球の魔法。半刻は持つ。

電気と電球の仕組みを知らないと詠唱だけでは発動しない。

ロバルデュー領内でも、マジックバッグ等の近代魔法を扱える魔法士の様な天才しか使えない。


そう、ロランも母国では天才少女と呼ばれていた。


フェルヴが弓を次々と放つ。殺傷力は要らない。速度を落とすか諦めさせれば良いのだ。

レリーナも風魔法を放つ。威力よりも手数だ。ウルフの脚や鼻先を狙う。


ロランが後ろで音響魔法を使用している。左右に一直線に伸びる音の波。

通過すると一瞬だが三半規管を揺らす事が出来る。混乱していたウルフに空砲を撃ち頭を吹き飛ばす。

ちなみにどちらもアオキ・セイジの近代魔法だが、本人は只の足止めのつもりである。


脚の速さで11頭が牛に群がろうとしていた。立ちはだかるエディットとガルべス


「うおおおおお」


エディットが気合を入れ剣を振るう


「ヒャッハー!!」


ガルべスが蹂躙する


5頭が牛の尻にかぶりついた。牛も知っているので慌てない


「オラァ!」


ガルべスのボディーブローで1頭の内臓がミンチになる。次の1頭は首を掴まれ、握力で骨を圧し折られる。

エディットも牛に気を使いながらウルフを剣で突く。


2頭が焦って離れた所に、黒い影が忍び寄る。雄牛だ


「「ギャン!」」


それぞれ雄牛に角で突かれ跳ね上げられた。5mほど浮いて落下。その後も執拗に雄牛に攻撃され動かなくなる。

立ち往生していたウルフは、レリーナの剣とフェルヴのボウガンで始末されていた。



戦いが終わった後には、20頭のウルフの死体が転がっていた。

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