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猫耳美少女の香り(興奮)

くんかくんか第五十五話

「わー……凄い」

「これを見るだけのためにカルヴィークに来る人もいるのいよ」


 正面に階段があってその上に教壇がある、その奥に大きな人物像があり、手前には長椅子がずらりと並んでいる。

 はじめて入った大聖堂の礼拝堂は、それは見事なものだった。

 外から見ただけだと、てっきり三階建てだと思っていたが、ドーム型をした高い天井までの吹き抜けだった。学がないのでこの建築様式がギリシャンだかローマンだかわからないし、機能美なのか様式美なのかも全くわからないが、とにかく見ごたえがある。壁にも天井にもレリーフが施されていて、なめらかな面というものが無い。バカみたいな感想しか出てこないので申し訳ないが、作るのめちゃくちゃ大変そうだし、時間も金もかかってんだろうな、と思う。


「キラキラしててキレイだよミューズ」


 壁面にはステンドグラスがはまっていた。

 そもそも平らなガラスはおろか、ガラス窓自体が珍しい世界だから、窓にも規格化されているのだろうガラスのピースが規則正しく並べられている。言ってしまえばツギハギなのだが、ここではそれも意匠のひとつである。

 それが一列数十枚、二段になっている。

 さらに最上段では聖人か神かをかたどった色とりどりのガラスが仄かな陽光を反射させていた。これもまた、ここが特別で神聖なものなのである、と感じさせる。

 天気が薄曇りなのがもったいないな。天気が良ければ色ガラスをくぐった光線が床一面にそそいでいただろう。


「あ、ごめんねミューズ。一人で盛り上がって」

「いいえ、かまわないわよ?」


 キョトンとして答えられた。

 ミューズは他人との視覚情報の共有に頓着がない。半世紀も盲目やってると慣れるんだろうか。ボクは少し寂しいのだが。


「正面にでっかい像がある」

「それが賢人カルヴィークよ」

「ほへー」


 教壇の奥にはローブを着て長い髭をたくわえた老人の像が、杖を掲げて天を見上げている。何をなして賢人たるのかさっぱり知らないが、たしかに威厳たっぷりだった。


「ところで、カルヴィークさんはなにをした人なの?」

「ずっと昔に、この土地に住んでた人たちに、いろんな知恵を授けて下すったんですって」


 なるほど、だから賢人なのか。

 そういえばどことなくダ・ヴィンチにも似ている。発明家なんだろうか。


「すいませーん。誰かいませんかー」


 大声は出さなかったが、礼拝堂に反響したボクの声は驚くほどよく通った。

 教壇の裏側でガタリと音がした。ネコ科の耳がピョコピョコと飛び出している。


「あ、はい。あの……ちょっと待ってください!」


 ララポーラの声だ。

 慌てた声もかわいいな。


「ごめん、なんか邪魔した?」

「え、あ、いいえ! お掃除してただけです! いま行きます!」


 そうかー、お掃除かー。箒も持たずに掃除ねぇ。


「お待たせしました。あっ、マリーさん」


 目深にかぶったフードを手で抑えて、トコトコと駆け寄ってきたララポーラは、目の前に来るまで相手がボク達だと気づかなかった。

 よほど焦ったのだろう。


「こんちわー」

「ごきげんよう」

「あ、はい、ごきげんようございますミューズさん」


 少女が勢いよく頭を下げる。

 そろそろ落ち着けララポーラ。


「コロビナさんに会いたいんだけど、居る? っていうか会える?」

「えっと、お約束は……」

「神出鬼没のエルフです」

「はぁ……あの、メグさんは」

「今ごろきっと午後のまどろみの中です」

「はぁ……?」


 ララポーラが「こいつはダメだ」みたいな目をしている。たまんねぇな、あたいゾクゾクしちゃう。


「えっと、少し待っててもらってもいいですか?」

「ついってってもいい?」

「なんで会話してくれないんですか?」


 ついにララポーラからツッコミを引き出した。やったぜ。


「だめだったらちゃんと怒られるから。道案内だけしてほしい」

「……わかりました」


 なにかちょっと諦めた表情のララポーラについていく。


「こっちです」


 礼拝堂にいくつかある扉のひとつを開けて、やたら暗い通路を進む。正直、明かりがほしい。ララポーラは獣人だから暗いところでも平気なのかもしれないが、ボクは彼女の小さな背中を追いかけるので精一杯だ。

 小さな背中に問いかける。


「ねえ、知ってたら教えてほしいんだけど」

「はい、なんですか?」

「シルドラってなにしてんの?」

「え……」


 ララポーラが振り返る。暗闇で黄色い瞳が輝いている。


「ララポーラってなんで騎士団にいるの?」

「え、あ」

「っていうかシルドラと会ったりしてる?」

「ちが、あう」


 暗くて表情はわからないが、瞳だけが忙しく動いている。


「もう、マリー。そんなにいっぺんに聞いたら驚いちゃうじゃない」

「あ、ごめん」


 なんか別にボクはなんとも思わないからいいじゃん、とか思っていた。よく考えたらボクはララポーラにとって無選別で情報開示してよいほど信用されてはいない。

 子供だと思って舐めていた。ちょっと反省。


「ねえ、ララポーラ。あなた、ずっと閉じこもっているでしょ?」


 ミューズが優しく問いかける。


「私、鼻がいいの。獣人が街にいたらわかるわ。でも、ここ以外で獣人の匂いを感じたことはないの……ねえ、あなた、シルドラと同じ匂いがするのね」

「……」

「今度、メグと一緒に遊びにいらっしゃい」

「……はい。ありがとうございます」


 ララポーラがペコリと頭を下げた。


「ミューズさんのことは、お姉ちゃんから聞いてます……なにかあったら、ミューズさんを頼るようにと言われました」

「そう。大丈夫?」

「はい、私はここにいます」

「うん。わかったわ」


 今なんか会話変じゃなかった?

 うーん、よくわかんないから後でミューズに聞こう。

 輝く瞳に向かって話しかける。


「もし、シルドラに会ったら伝えて。街の雰囲気が良くない、面倒になるから近づかないほうがいい。って」

「あ、はい。えっと、街のことは知ってます。あ、あの、知らない人たちが街に出入りしてるって。その……お姉ちゃんとはずっと会ってないので、カルロス団長もそう言ってて、その」

「あーうん、無理に話さなくていいよ」


 なにかか伝えたいらしいが、どうにもはっきりしない。ぼろ出してるっぽいし。


「行きましょうか」


 もにょもにょと呪文を唱えだしたララポーラを見かねてか、ミューズがそう言って促した。

 暗い通路を抜けると、見覚えのある場所に出た。木偶人形の並ぶ訓練場である。

 そこからさらに扉をくぐり、階段を登る。


「あの……私、臭いますか?」


 ララポーラが悲しそうに言うので、慌てて否定する。

 いたいけな少女が傷ついている。


「そんなことないよ、ボクは全然わかんない」

「おひさまの匂いよ。いい匂い」

「そうですか……」


 よかった、とつぶやきながら、ララポーラが扉を開ける。

 小さな窓のある薄暗い廊下に出た、壁面には燭台と、控えめだが品の良い調度品がいくつか置いてある。

 知ってる廊下だ。


「ここまっすぐだよね?」


 ララポーラがくるりと振り返る。

 いつの間にかフードをおろしていた。

 かわい。


「はい、一番奥が領主様のお部屋です」

「オッケー、ありがとララポーラ」

「……あの!」


 歩き出したところを呼び止められる。


「お姉ちゃんとは四年会ってません! 団長も領主様も知ってます!」


 ララポーラが大きな声でそういった。


「ん、あー。わかった了解」


 軽く返事をして少女と別れた。

 廊下を進んで扉の前に立つ。


「ミューズ、後で答え合わせね」

「ええ、そうしましょう」


 コンコンと扉を叩くと、中からコロビナさんの声がした。


「お邪魔しまーす」


 扉を開けるとふわりと香の匂いがした。


「やあやあマリーさんにミューズさん。よくいらっしゃいましたね」

「ごきげんよう領主様」


 ミューズが余裕のごきげんよう。ボクも真似してみようかな。

 コロビナさんは、アポなしでひょっこりやってきたボクをニコニコとしてやたら愛想よく迎えてくれた。お人好しがすぎる。


「すいません急に」

「いえいえ、構いませんよ。今ちょうどあなたの話をしていた所ですよ」


 ねえ? というコロビナさんの向かいにはカルロス団長がいた。


「うむ」


 カルロス団長は相も変わらずイケ散らかしたメンだが、どことなく表情が硬い。


「ボクの話ですか?」

「ええ。実はですねマリーさん聞いてください、孤児院に寄付があったんですよ」


 コロビナさんが嬉しそうに言う。


「わー、よかったですね」

「いえいえ、マリーさんのおかげです」


 え、ボク? ボクなんにもしてないが。

 キョトンとしているボクに、コロビナさんがニコニコしながら話す。


「街の住民たちが少しずつ持ち寄ってね。それでもそれなりの額になりましたよ」

「へー。でもそれがボクに?」


 市民の慈善意識が高まるのは結構だが、ボクが発起人というわけではない。


「それがですな、どうやらマリーさんの活動が教会の主導で行われているのだと、そう勘違いしたらしい……いや、しかし間違いなくマリーさんが住人の心を動かしたのですよ。ええ、そうですとも」


 再びコロビナさんが、カルロス団長に向かって、ねえ? という。しかしカルロス団長は、何も言わずにじっとボクを見つめていた。

 え、惚れた?


「この街にはいい人が多いです。誰だって、誰かの役に立ちたいと思ってますよ。だから、きっかけが欲しかっただけだと思います」


 ボクがそう言うと、コロビナさんが驚いた顔をして、ほう、と鳴いた。

 だいたいボクだって慈善活動だと思ってないのだ。

 腕組みをして黙っていたカルロス団長が口を開く。


「今しがたララポーラの声が聞こえたが」

「ああ、ちょっと怒らせちゃって」

「ほう、あの子が声を荒げるほど取り乱すとは珍しい」

「シルドラのことを聞いたんです」


 カルロス団長の形の良い眉がピクリと動いた。


「ボクたち、旅をしてる途中でシルドラと会って、騎士団に妹がいるって聞いてて。事情があるってわかりそうなもんだったんですけど、不用意に話題に出しちゃって……悪いことしたなぁ」


 嘘をつくときは適度に真実を混ぜると良い。


「ああ、あの娘達は少しワケアリでな……まぁ、エルフ殿が気にすることではない」

「すんません、エヘヘ」


 カルロス団長がニコリと爽やかに微笑んだので、ボクはエヘヘと答えた。


「……で、マリーさん。今日はどんなご用件かな? またなにか面白いことでも思いつきましたかな?」


 その様子を見守っていたコロビナさんが、パンと手を打った。それで少し空気が変わる。


「あっはい、実は石鹸に匂いをつけたくて……」

「匂い。はーなるほどなるほど。ふむ、それで教会から香料を買いたいと」


 ん? ああそうか、その手もあったか。

 予想とは違うが面白いので話を続ける。


「はい。バラの形の石鹸にバラの匂いがついていたら素敵だなって」

「なるほどそれはよい考えですな。しかし……香料は安くはないですぞ?」


 ちょっと考える。

 金ならいくらでも出せる。必要とあらば、金塊だろうとジンバブエドルだろうとピンクのガマグチから取り出せるはずだ。

 しかしそれはそれでどうだろう。経済音痴なのでわからないが、インフレと言うやつになったりしないのか。


「それにですなマリーさん。私共が取り扱っている香料は精油なんです」

「せいゆ?」

「ええ。いわば植物などから抽出した油ですな。これは取り扱いが難しい」


 なるほど、エッセンシャルオイルと言うやつか。


「燃えるんですか?」


 あいにくボクは危険物取扱者の資格は持っていない。


「いえいえ、そりゃ燃えはしますがね。それよりも揮発が早いことが問題なのです。だから質の高い安定した別の油で割って、扱いやすくするわけです」

「それは技術的には……」

「無論、職人技でしょう。さらに言えばその油の入手先も相当限られるでしょうな」


 そういえば、香油は値が張るってビアンカが言ってたな。贅沢品なわけだ。


「ああそれに、ものによってはかぶれたり、毒になる物もある」

「え、毒ですか」

「ええ」


 たしかに天然ものなら毒もあるだろう。モノによるんだろうが、ボクには知識がなさすぎる。

 この線は無しだな。


「えっと……ボクが用意しちゃうだめですかね」

「香料をですか?」

「はい。チョット失礼しますね」


 断りを入れてミューズを机に座らせる。


「無作法いたしますわ領主様」


 ミューズがおすまし(・・・・)して言う。手足があったらスカートをつまみ上げたりしてそう。


「様は結構ですよ。居心地の悪い机で申し訳ない。なにせ年中その上で面倒くさい書類に判子を押してますからね。私はそこがどうにも落ち着かない」


 ミューズが鈴の音で笑う。


「働き者の領主さんなら街の人たちも安心ですわね」

「ええ、そうありたいものです」


 そう言ってコロビナさんが笑った。

 そんなやり取りを横目で見ながら、ガマグチから小瓶を取り出す。今度はスクリューキャップのプラケースではなく、この世界にもありそうなガラス製の小瓶だった。

 よし、空気読んだな。エライぞ。


「これなんですが」

「ふむ……失礼」


 と言ってコロビナさんが瓶から引き抜いた円錐型の蓋を鼻に近づけた。


「ふーむ……これは……」


 そしてなにやらブツブツつぶやいてる。

 柔和な顔が打って変わって厳しい表情になった。プロである。

 カルロス団長が横から手を伸ばし小瓶を持つ。そのまま匂いを嗅いで――


「エンッ!!」


 と小さく叫んでのけぞった。

 びっくりした。ミューズもビクッてなってたぞ。


「え、ちょ、大丈夫ですか?!」

「ぐおっ素人が火傷をしただけだ、お気にめさるなこほっ」


 涙を流しながらむせているが。鼻馬鹿になってないかしら。


「ふむ、たしかに強い匂いですな」


 コロビナさんは真面目モードのままそれを流した。

 なんか反応してやれ。


「生花のような繊細さはない……バラではないもっと複雑な……しいて言えばたしかにバラと言えなくもないような気がしなくもない。ふむ。マリーさんこれは?」


 さじを投げたらしいコロビナさんに雑目に振られる。


「たぶん、科学的に合成したものだと思います。ニセモノですね」


 ふわりと香ってくる匂いに、ボクは柔軟剤を思い出した。


「科学的……合成?」

「あ、すいません、言い直します。エルフの秘密の魔法のエルフの秘密で魔法が秘密――」

「あーもう結構、結構ですよ」


 よし、押し切ったぜ。


「マリーさん、申し訳ないが、許可し難い」

「え、だめですか」

「これは私どもの取り扱う香料とは性質が違いすぎる……いえここは正直に言いましょう。この匂いはあまり上品とはいえない。教会の許可の下でこれを売り物にしてしまうと……なんといいますか」

「沽券にかかわる、とかですか」


 コロビナさんが目線を合わせたままゆっくりと頷いた。


「なんだそっか、よかった」


 ボクはそれでほっとした。

 コロビナさんが意外そうな顔をする。


「ほう……よかった、ですか?」

「あ、はい。ボクはコイツが教会と競合したり、あまつさえ市場を食ってしまうほど出来のいいものだったら、すぐに引っ込めるつもりでした」


 今度はカルロス団長が、ほう、と鳴く。


「エルフ殿は自分の目的より、教会の既得権益(きとくけんえき)を優先するというのだろうか」

「そんなんじゃないです。ただ、この街でずっと生きてきた人たちの工夫と努力を、横からかすめとるようなことは、ボク嫌だから」

「……ふむ、殊勝な心がけだ」


 カルロス団長が片眉を上げて片手で顎を擦った。

 コロビナさんが、ふむふむと頷く。


「なるほふどなるほふど……ではマリーさん、代替案はありますかな」

「ねっす、たはは。完全に手詰まりです」

「なんと」


 コロビナさんの眉がハの字になった。

 ミューズが半笑いしながらため息をつく。


「もうマリー、仕方のない人」

「だってミューズ、コロビナさんはいい人なんだ、納得の行かないまま善意だけ利用するの、ボクやだよ」

「私、マリーのそういうところ、好きよ。でもねマリー、それは時と場合によるわ。相手を頼ったほうがいい事もあるのよ」

「たはは……どうしようミューズ」


 格好をつけてしまったが、基本的にはノープランだ。まいったか、わはは。


「ねえマリー。あなた、石鹸屋さんになりたいわけじゃないのよね」

「うん。まぁ、みんなにお小遣いくらいはあげたいけど」

「そう……なら」


 ミューズがクイッと向きを変えてコロビナさんの方を向く。器用なケツだ。


「ではコロビナさん、こういうのはどうでしょう」

「ふむ。なんですかな」


 コロビナさんが腰をかがめてミューズに優しく問う。完全に子供を扱う感じだ。


「先程の勘違いを事実にしてしましょう」

「と、いうと」

「売上の八割を孤児院に寄付いたしますわ」


 むむ、とコロビナさんが唸る。

 カルロス団長がその肩に手を置いて言う。


「なるほど、これは大義ですぞコロビナ殿」


 別に法に触れるわけじゃないから、よさげな理由があれば通しやすいのか。元手なしの健康商売なので、九割寄付してもよいのだが、そこまでやると胡散臭くなるな。

 コロビナさんはまだ、うーん、と唸っている。たぶんプロ意識が邪魔してるんだろう。もうひと押しなのだが。

 そこにミューズが追い打ちをかけた。


「ねえコロビナさん。先の(フェア)で、マリーの持ってきた道具の(たぐい)に目をつぶって頂きましたわね。あれがよくて、これがだめというのは、収まりがよろしくありませんこと。いかが?」

「むむっ」


 おいおいちょっと攻め過ぎでは。

 たしかに、他の職人はよくてうちは駄目というのは筋が通らないだろうが、そういうのは同じくらいの立場の人が当たり障りのない感じでこっそり言うことじゃないのか。

 コロビナさんが下唇を上に寄せてミューズを見つめる。怒らせたのだろうか。


「はっはっはっ! これは一本取られましなコロビナ殿」


 ハラハラしてるボクをよそに、カルロス団長が面白そうに笑い出した。

 それを見てコロビナさんが特別大きなため息を吐いた。

 落ちたな。


「まったく、たいした娘さんだ……いいでしょう。しかしマリーさん、特例ですよ。それに、その香料が紛い物であることは言明すること。あーあと、試供品の提出も忘れないように」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 よかった、なんとかなった。ミューズを連れてこなかったらグダグダになって終わってたな。後でご褒美をあげよう。寿司とか。


「マリーさん」


 用も済んだし、さて引き上げるかとミューズを抱き上げたら、コロビナさんに名前を呼ばれた。


「あなたは風のような人だ」

「風……ですか?」

「ええ、種を運ぶ風です」


 コロビナさんが目を細めて頷く。


「人は凪を好むものです。私にはそれを……いえ、何でもありません」


 軽く首を振ってから、期待してますよ、とコロビナさんが言った。

 ニコリと笑うその顔が、しかしとても悲しげだった。

作者的な役割分担があるのでミューズと一緒にいるとマリーは割とアホになる。

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