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立てよフラグ

ついに旅立つ無駄に美人な主人公とネコ耳の新章一話。

 スタート地点の森がどの程度の規模なのか皆目検討もつかなかったので、森の民エルフの勘に従って真っ直ぐに歩いた。無策が功を奏し思ったよりも早く道へ出られたので安心した。

 轍の残る赤土の道。右手にはボクのいた森、左手には平野が広がり遠くに山が見える。その手前にあるキラキラ輝くものは湖だろうか。

 長閑だ。

 ところで今ボクは鏡を見ながら歩いている。ながら歩きは危険なので真似しないように。そして鏡に映るボクの顔といえば、まあ控えめに言っても『大」の付く美人だった。

 エルフといえば中世ヨーロッパ風ファンタジーで、山に指輪を捨てに行く某大作映画でエルフを演じていたのもコーカソイドの俳優だった。だから当然僕に顔も白色人種のそれだろうと勝手に思っていた。


「うーん、なんともいえない」


 彫りは深からず浅からず、鼻も高からず低からず。当然和風ではない。かといって洋風でもないし間を取って中華風でもない。ボクの知識も既存の人種を網羅しているわけでないので、どの人種に似ているかと問われても明確に答えることができないのだけど。ともあれ色白で目鼻立ちのはっきりした美人。可愛いよりもキレイ系の、強いて言うなら異世界風美人。


「美人だなぁ」


 こんな美人が目の前にいて、上目遣いでおねだりでもしようものなら、返事の前に体が動くだろう。っていうくらい美人。

 百人すれ違ったら百人とも振り向くくらい美人。


「ボクなんだよなぁ」


 でもこの美人はボクなのだ。つまり自分で自分に振り向く見返り美人。

 美人、美人。美人美人生姜人参。


「美人ってなんだっけ。野菜?」


 違います。

 これが『俺の女』だったなら、そりゃもう蝶よ花よに喩えて讃えてめちゃくちゃに褒めちぎる自信がある。

 だが、ボクだ。

 美人美人とゲシュタルト崩壊するまで唱えたところで、だからなんだという話なのだ。ああ、虚しさのデジャビュ。


「おっぱいショック再び」


 容姿の優性は胸のサイズとちがって万人の価値観だと思っていたが、コレもやはり我が身と思うといまいち盛り上がらない。もちろんボクにだって美的感覚の一つや二つあるのだから、鏡の中の女神に見惚れる程度の甲斐性はある。だから、胸の奥に満たされない空白を感じながらも、エメラルドグリーンの瞳から目が離せないでいた。

 金髪エルフは目で殺す。


「おや?」


 向こうから歩いてくる人影を見つけたのは、ボクがそうやって変則的ナルシズムの誘惑にやんわり抵抗し始めた頃だった。向こうから人が来たということは、道の向こうに人里があるということだ。もうひとつ安堵する。

 いや、やっぱり少し不安になった。

 いわゆる第一村人である。旅人かもしれないが、最初にすれ違う人間、あるいは人の形をしたなにか。なんでもいい。それがどんな格好をしていて、ボクを見てどんな反応をするか。それでここが異世界か、はたまたボクの頭が完璧におかしくなってしまっただけなのか、これではっきりする。かもしれない。


「あ、すっげー緊張する」


 ボクは極度のコミュ障で人見知りなので、ただすれ違うだけでも『すれ違おう』と思ってしまうと、もうそれだけでどうしていいかわからなくなった。何を言っているかわからないと思うがボクもわからない。

 コミュ障というのは他人を意識した瞬間、思考能力がチンパンジー以下になる恐ろしい病気なのだ。

 そうこうしてる間に、いよいよ件の人物が近付いてきた。

 灰色のマントを着た小柄な人物。フードをかぶっているから面相はよくわからない。


「こここここ、こんにちわ!」


 黙ってすれ違えばいいものを、なぜボクは挨拶をしたのだろう。馬鹿じゃなかろうか。っていうか今の何語だ? 今ボクは異世界の言葉を話したんじゃないか。文字がわかるのだから、言葉を話せてもおかしくはない。だが、文字のときと同じで、自分が何語を話しているかわからないのに、何を話しているかはわかる。うーん気持ち悪い。

 相手にしたって急に話しかけたので驚いたのだろう。驚いた拍子にかぶっていたフード落ちた。

 ネコ耳だった。しかも可愛い女の子。


「にゃっ」


 にゃ、とかい言ってやんの可愛い。お友達になりたい。お付き合いがしたい。あわよくば結婚したい。


「どうもー、えへへ」


 表情筋を総動員して可能な限り善良そうな笑顔を再現したつもりだ。お嬢さん。お嬢さんはボクの頭の中でたった今メインヒロインになりました。


「ひっ」


 ネコ耳美少女が小さく悲鳴を上げた。瞳孔が細くなっている。

 しまった。イヤラシい想像をサトラレてしまった。コミュ障を拗らすと周囲の人間に心を読まれるのだ。わかってるんだぞ、聞こえてるんだろ。やめろ、ボクの心を読むな。

 ネコ耳美少女は、なぜだかボクの太ももを凝視している。好きなのだろうか。たしかに今のボクの絶対領域は絶好調だが。ちなみのこの肩掛けカバンの紐が食い込んでいるオッパイなどもおすすめですよ。


「あの、この先って人のいる所とかあります? ……というか言葉通じてますよね」


 自分で何語を話しているかわからないので、相手に伝わっているかも不安になった。


「あ、え。わかるにゃ」


 語尾が『にゃ』ってなるネコ耳美少女は本当にいた。すごい。凄いぞ。

 みんなー! 異世界はいいところだぞー!


「いやー、ボク遠くから来たもんで、この辺のこと全然わかんなくって」


 んもー、しょうがないにゃー。私が案内してあげるにゃ。あと好き、抱いて。


「もう少し行くと街があるにゃ」


 普通に返されて脳内シミュレーションがまったくの無駄になった。フラグってどう立てるのだろう。

 ネコ耳美少女は相変わらずチラチラとボクの太ももを、それとなぜか耳を交互に見ている。お好きですか。かくいう私もお嬢さんのお耳に興味津々でしてね。


「もしよろしければ夜が明けるまで互いの耳をネブリっこしませんか。恥ずかしながらボクも童の付く貞ですが、なあに心配はございません。時間をかけてゆっくりと快楽のトグルスイッチをオンオフオンオフオンオフああっそれ以上はいけない頭が沸騰しちゃうよって、あれ?」


 正気に戻るとネコ耳美少女がいない。振り返ると後方で小さくなっていく影を見つけた。どうも全力で走っているらしい。

 さよなら、名も知らぬメインヒロインよ。


「クソゲーかな」


 次のイベントはいつですか?

異世界に行ったってコミュ障じゃフラグ立たない。

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