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エルフ着衣する

服もチートもあるよ第四話。

 例えばこれがアニメ化だったらAパートは主人公が全裸のまま終わる。さすがにまずいので手短に行こう。ほんとに寒くなってきたし。

 薄手のキャミソール様のものはブラジャーなど見当たらないのでおそらく下着だろう。大丈夫なのだろうか。これだけ大きいと色々大丈夫なのだろうか。垂れたりなんだり大丈夫なのだろうか。正直ブラジャーを正確に着用する自信がないので助かるのだが。

 頑張れボクのクーパー靭帯。

 着たには着たが胸が大きいので前がめくれてへそが出た。なんとも収まりが悪いが下着なので問題はなかろう。

 それから紐のついた白い布切れが一つ。恐れ入ったり紐パンである。ほぼ半裸精神的全裸の今は布切れ一枚がありがたい。ありがたく着用する。

 ありがたやありがたや。

 柔らかい革製の、これはコルセットだろうか。これは最後に着用する。同じ蹉跌は踏まない。ボクは賢いエルフなのだ。

 そして、やっぱり正確になんと呼ぶものかわからないが、乏しいファッション知識で形容するなら長丈の白いブラウス。ゆるく広がった袖がコケティッシュだ。コケティッシュってなんだろネ、ともかく服だ、文明だ。人類はついに文明を手に入れた。そびえ立てモノリス、かく語れツラツストラ。

 袖を通すと、困ったことにこれもやっぱり前がめくれた。当たり前なら膝丈であろうが、何ぶん乳だけは超人的なものだから、ニーソックスと相まって不本意な絶対領域を作り上げている。

 ともかく仕上げにコルセットで締め上げると、ウエストが細いのでどこまでも締まる。全て締め上げる前に息を吸うのを忘れていたことに気付けて本当に良かった。危うく死ぬところだった。

 転生早々に死ぬとか成仏する自信がない。


「よし……と。あれ?」


 これで全てかと思っていたら、大きめの布切れが一枚余った。

 なんだろう、本当にただの布だ。緑色なのでこれも着るのだろうか。マントにしては大きすぎるし、二枚もいらない。よくわからないが、あるものは使わせてもらう。もったいないもったいない。

 肩がけの旅行かばんがあるので、これも中身を確認しておきたい。目下、自分が何者で何をすればいいかという情報が一切開示されていないのだ、ここはどこ私は誰。


「ほんと、ここどこだろう」


 異世界でモテモテになりたいという願いは退けられたが、退けられたのは”異世界”であったのか、それとも“モテモテ”なのか一体どっちだったのだろう。

 仮に前者であった場合、人里に降りた途端CIAかNASAに確保されかねない。エルフの生体解剖がどこの管轄で行われるか知らないが、ちょっと耳の長い素敵なお姉さんでは通らないだろう。

 後者であった場合、つまりここが異世界であった場合、これは正直もうどうなるかわからない。


「なるようになるさ」


 ケセラ・セラ、こちとら一回死んだ身よ、怖いもんなんかないのだ。

 もちろん両方という可能性もあるので注意しよう。黒いスーツとサングラスの男たちに追われるかもしれないからだ。

 雑嚢の中身は旅に役立つだろう道具一式、着衣もそうだったがどれも使用感がなく新品同然だ。もしかして神様がボクのために用意してくれたのだろうか。鏡があれば自分の容姿を確認したかったのだけど、残念ながら持っていないようだ。

 気になるものが二つ。

 一つは装飾のついた金色の棒。


「変なイヤラシイものだったらどうしよう」


 別にどうもしない。

 だいたい肘から手首までと同じくらいの長さで、鉛筆程度の太さしかなく、なんらかの金属でできているようだが、おそろしく軽いので武器にはなりそうにない。力を込めても曲がらないので丈夫ではあるようだが。

 真ん中あたりに、宝石なのだろうか小さな赤い石が埋め込んであって、その石を挟むように文字が彫り込んである。


「あ、読める」


 アルファベットではないし日本語のどの文字でもない、全く未知の文字列だったが読めた。頭に意味が流れ込んでくるとかでなく普通に読めたので、言語チートでもない純然たるボクの知識なのだろう。身に覚えのない知識とはなにかゾッとしないものだ。


「マーライク、貴方の靴紐が切れることのないように……?」


 読めるんだが、意味がわからない。

 靴紐云々はもしかしたらマジナイのようなものではなかろうか。例えば縁結びとか。

 マーライクとはボクの名前だろうか。自分の持ち物には名前を書くようにと小学校でも教わったし。あまり可愛くないが異世界の住人って感じはする。エルフのマーライク。ふむ、いいじゃないか、気に入った。


「たぶん、旅のお守りみたいなものだろうな」


 お守りにしては少し大きいような気もするし、形状もやや嵩張る。

 用途不明な金属棒を指揮者のように振り回しながら、さて問題はもう一つの方である。


「どう見てもガマグチだよなぁ」


 それは妙に大きいピンク色のガマグチだった。唐草模様が完全に浮いているが、本当にボクの持ち物なのだろうか。エルフにガマグチ。前例がなさすぎてアリかナシか判断できない。女の子だからピンクなのか? ピンク地の唐草模様は逆に禍々しく可愛らしさのかけらもない。


「神様センス悪すぎ」


 紐がついているのでとりあえず首から下げてみる。なんだっけ、いたよなこういう、くしゃみで召喚されるヒゲの魔神。

 中には文字の書かれた紙切れが一枚入っていた。どう見てもルーズリーフの切れ端です本当にありがとうございました。適当すぎだろ神様、もう少し雰囲気というものを大事にしてほしい。しかも黄色の蛍光ペンなのでめちゃくちゃ読みにくい。他になかったのか。

 そこには異世界文字で『いきなり見ず知らずの場所に放り出されて大変だろうから使ってください。がんばってね!』と書かれていた。

 いやお前が説明を頑張れ。何が何だかなにひとつわからない。最後のねぎらいの言葉が最高にムカつく。

 逆さにして振り回して揉んで叩いてもそれ以外何も入っていないようなので、使えというのはこの趣味の悪いガマグチのことなのだろうか。モテない男日本代表だったボクなんかが言えた義理じゃないが、女の子への贈り物としては最低の部類だと思う。


「ひえっ」


 底の方にガムでも張り付いていないかと再び手を突っ込むと、ズルリと肘まで入った。確かに妙に大きめではあるけど、そこまで大きくはない。ボクの腕は今どこにあるのか。ひょっとして異世界?


「ひえーっ」


 指先になにか当たって変な声が出た。こういうゲームあったな。中身の見えない箱の中身を当てるやつ。

 いつまでたっても噛み付いては来ないので、意を決して引っ張り出してみる。


「あ、鏡だ」


 何も入っていなかったはずのガマグチから手鏡が出てきた。

 なるほどつまりコレは。


「チートキター!」


 来た! チートアイテム来た! コレでかつる!

 たしかにボクはさっき鏡がほしいなと思った、だから鏡が出てきた、だとしたらコレは欲しいものが出てくる魔法の、いや奇跡のガマグチだ。

 さあ、今欲しいものはなんだ。

 地獄の沙汰も金次第。ならば異世界は?


「正解はCMのあと!」


 金だよ。カネ。

 ガマグチを勢いよくひっくり返すと、ジャラジャラと景気のいい音を立ててコインが出てくる。

 やったぜ。

 銀貨が1枚。あとは鈍色の硬貨がひーふーみーの……少なくね? 金貨は? 銀貨があるなら金貨もあるだろう。

 諦めきれずもう一度ガマグチを振り回すと「はずれ」と書かれたポケットティッシュがポトリと音を立てて地面に落ちた。

次回、やっと森を出る。

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