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ソーセージと戦争

女騎士ってかっこいいよね第二十六話

「黒髪の女騎士ですか? それは……クゾ?」

「……ああ、ウチのだ」

「クゾさん知り合いなんですか?」


 その晩も、ローザさんの宿にはオレーグさんとクゾさんが来ていた。毎晩来るのだろうか。というか、この二人は普段何をしている人なんだろう。ちなみにモッドさんはいない、あの人も夜中に何をしてんだろう。また女郎屋に行ってるんだろうか。絶倫かな。


「……ワシの部下だ」

「クゾさんも騎士なんですか?」

「……ん? ああ、曾祖父さんの頃から騎士の家系だが。見えんか?」

「いえ、渋くてカッコイイなって」

「……」


 あれ、黙っちゃった。


「美人に褒められて照れてるんですよ」

「あーに顔赤くしてんだよおぼこでもあんまいし気色悪い」


 オレーグさんがフォローを入れて、ローザさんのきついツッコミが入る。


「部下って、クゾさん偉い人?」

「……偉くはないが」

「こう見えてクゾは壁内警備隊の隊長なんですよ」


 マルカスさんは門前衛兵隊の副隊長だったか。クゾさんのとは別の組織なのだろうか。


「へー! かっこいいね、ミューズ」

「うん、素敵ね」

「二人ともあんまり褒めるとクゾが茹でダコになっちまうから」


 カラカラ笑いながらローザさんがいう。

 照れ隠しに咳払いしながらクゾさんが聞く。


「んんっ……ヤツになにかされなかったか?」

「えっと、ミューズがご馳走になって、ボクは口説かれたというか、食われかけたというか」

「女に? なんだいそりゃ」

「おやおや、羨ましいですね」


 オレーグさんはそう言うが、ボクは正直、思い出すだけで動悸がする。そしてこれは断じて恋の高鳴りではない。


「ビビ……ビアンカさんって変わった人ですね」


 クゾさんに控えめに聞く。


「……真面目とはいい(がた)いがいちおう命令は聞く。個人的なものを抜きにすれば表向き問題を起こしたこともない。ただ、一匹狼なところがあるな。ワシとしても扱いづらい、とは言わんが……掴みどころがなくてな」


 首輪は着けたが手綱は握っていないという感じだな。サーカスの猛獣か、あるいは放し飼いの猫。クゾさんは難しそうな顔でしきりに顎をさすっている。苦労してるんだろうか。


「ただ……べらぼうに強い」


 強いのかあの人。たしかに只者ではない雰囲気を撒き散らしていたけど。


「女性の騎士って多いんですか?」

「どういう意味ですか? マリーさん」

「あ、いや。メグさん――ボクを助けてくれた神聖騎士の方も女の人だったんで」

「ふむ……」


 オレーグさんが困った顔をしている。おかしな事を聞いたのだろうか。


「マリーはとても世間知らずなの。あーん」

「はいあーん。田舎者なんで、へへっ」


 ミューズが大きく口を開けたので、口に市場で買ったソーセージを放り込んだ。小腹を満たすために市場へ行ったものの、ビアンカ遭遇イベントのせいで台無しになってしまった。だが早歩きで帰る途中、燻製やら腸詰めやらを売っている店を見つけたのだ。ナマ物は匂いや見た目が悪いので市場なんかでは肉は売らないとミューズが教えてくれた。そりゃ冷蔵庫なんてないものな。河川の権利は近隣領主に付随するので、収穫物である魚の販売もきっちりかっちり管理されているらしい。うっかり釣りでもしようものなら、かなり厳しい罰を受けるそうだ。この世界じゃスローライフ無双なんかできないな。


「獣人戦争を覚えてますか?」

「えっと、戦争があったんですか?」

「いやいやおまちよ、マリーさんあんたそんなことも知らないのかい?」


 ローザさんが驚いたようにいう。しまった、油断してた。アホがバレる。


「まひーふぁ、ひょもひほ」


 ミューズ、だからキミは口のものを処理してから発言しなさい。


「そ、ソーセージ追加入りまーす」

「……亜人種は最後まで不干渉でしたし、とくに神出鬼没のエルフさんは知らなくても仕方ないのでは」

「そういうもんかね」

「……他人の喧嘩に首を突っ込まないのは賢いことだ」


 ミューズをダシにごまかすと、空気の読めるオレーグさんがフォローを入れてくれた。


「人間と獣人の間で、激しい戦争が長いあいだ続いたんです」

「……皆が戦士として戦場に送られた。武の心得のある者、魔法の使える者は特にな」


 魔法、あるのか、やっぱり。なんかちょっと安心した。


「無論女性もです。誰もがつい先日まで普通に生きていた普通の人間でした。ですが雑兵とばかり思っていた彼らが武勲を上げてしまった」

「……天は二物を与えずと言うが、今まで知られていなかった個人の才が戦場で明らかになったのは、なんとも皮肉なことだ」


 珍しくクゾさんの口調に棘がある。


「そうなると、国も報酬を与えなければいけないのですが、獣人は土地を持たず、戦争で国庫も底をついている」

「だから、騎士にした?」

「そういうことです」


 ということは、いっぱいいるのか騎士って。ぽっと出の騎士と元々騎士だった人に区別はあるのだろうか。そういうの代々騎士のクゾさん的にはどうなんだろう。


「命をかけた代償が名誉だけとは、まったくありがたいな」


 そう言ってクゾさんがコップを煽る。おそらくこの人も戦争へ行ったのだろう。


「持って帰れば武職につくことができますから、まるで無駄とは言いませんが」

「……命まで持って帰らねば無駄も同じよ」

「クゾ、あんた嫌な顔になってるよ」


 ローザさんに諭されて、クゾさんが小さく「すまん」といった。

 なんだか会話が途切れてしまった。何話してたんだっけ?


「あーっと、戦争っていつの話ですか?」

「七年前になります」

「七年か……あれ、メグさんって何歳なんだろ」


 メグさんは、おそらく二十代前半であると思われる若い女性だった。いや、まだ十代だといわれても通るだろう。戦場に行くのは少し早すぎやしないだろうか。学徒動員かな。どうも中身が現代日本人なせいか、戦争という言葉に過剰反応する割に想像力が働かない。


「あの(むすめ)は違うな」

「あ、モッドさん。おかえり」

 

 ギシリと扉を鳴らし、夜霧を連れてモッドさんが帰ってきた。どこに住んでいるのか知らないが。


「おう。うまそうなもん食ってんな」

「マリーさんが買ってきてくれたんだよ食う前に断わんなみっともないね犬じゃないんだからさ」

「いいじゃねえかこんくらい。うめぇな」


 ローザさんが無作法を叱る。皆で食べようと思って多めに買ってきたので遠慮はいらないのだが。ちなみに買ったソーセージはガマグチへ入れたのだけど、取り出したときに二割ほど消えていた。食ったのか? 食品関係は入れないほうがよさそうだ。


「そもそもな、あの(むすめ)は騎士じゃねえと思うぞ」

「そうなんですか? めちゃくちゃ強かったのに」

「まぁ、確かにめちゃくちゃ(,,,,,,)だったが。聖騎士団団長『付き』だ、要は食客だよ……ローザ、酒」

「おやおや今日は野良犬がよく吠えること」

「……」


 女将に袖にされたモッドさんが、ムスッとしながらソーセージを頬張る。

 団長付きって副団長みたいなもんじゃないの? ボクが理解できないでいると、オレーグさんが解説してくれた。


「役職ではない名誉職とでもいうのでしょうか」

「今の話だと騎士ってのがもう名誉職のような……」

「あはは、確かに。そうですね……例えば入団テスト中だとか。あるいは次期団長だとか」


 メグさんには悪いが、彼女が団長になるのは……ちょっとどうだろうか。となると、まだ正式な団員ではないのかもしれない。


「若い娘だったが、ガキの遊びにゃ見えなかった。臓物を見ても顔色ひとつ変えなかったぜ、肝が座ってる。物騒な魔法も持ってたしな」

「魔法って、あのゴキッとしてドバッっとしたやつ?」

「なんだいそりゃ」


 ローザさんが首を傾げる。いささか食事中には説明しづらいですね。

 っていうかあれ魔法なのか、だいぶイメージと違うのだが。身体強化? でもなかったような。


「なら、騎士にできない何らかの理由があるのでしょうか。団長直下ですから、より身分の高いお方のご息女であるとか」

「ほへー」


 そいや騎士って最下級貴族だっけ。元からやんごとない身分だと騎士階級はあげられないのか。メグさんも只者ではなさそうだな。ビアンカと比べるまでもなく、ボクは、彼女のほうが好きだが。


「……それで、モッド。どうだった」

「なにも」

「……そうか」


 おや、なんでしょうか。警備隊長のクゾさんが不良大人っぽいモッドさんに頼むことか……なんとなく想像できそうだけど、首を突っ込むのはよそう。ボクはただでさえ目立つのだ。


「ねえミューズ」

「んぐ……なあにマリー」

「悪いんだけどさ、明日は少し用事があるんだ。つきあってくれる?」

「構わないわよ?」


 よかった、ミューズがいてくれると心強な。やりたいことがあるのだが、人見知りのボクにはハードルが高い。


「物見か?」


 モッドさんが聞く。


「ええまあ、そんなところです」

「そうか。あんまり変なとこ行くなよ? 毎度は助けてやれねぇぞ」

「大丈夫、たぶん一番安全なところだから」

「そうか? ならいいけどよ」


 安全だろう。なにせメグさんのいる大聖堂にいくつもりだ。

 ボクはどうにかして魔法を覚えたいと思っている。なにか根拠があるわけではないが、話を聞くに、騎士には魔法を使える者が多そうだと当たりをつけた。あわよくばメグさんから魔法を教われるのではなかろうか。


「魔法を使えないエルフなんて、エルフじゃないよね」

「マリー、なんか言った?」

「ふふ、なんでもないよ」


 期待感を隠せずに、ボクは笑いながらゾーセージを頬張った。


会話回。展開に設定混ぜ込む余裕なかった言い訳。

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