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E4 ~魂の肖像~  作者: たま ささみ
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第4章  ピースエンフォースメント

W4のメンバー。

 一条芳樹いちじょうよしき三条卓さんじょうたくみ四條正宗しじょうまさむね六条詩織ろくじょうしおり九条尚志くじょうひさし


 剛田はまず、刑務所に足を運んだ。九条を除いた4人の名前は揃いも揃って無かった。WSSSにも出向いた。警察官としての身分を剥奪された証拠だけはサーバーに残っていた。

 警察府管轄のWSSSでは埒が明かないと踏んだ剛田は、その足で毛利市役所を訪れた。一条たちの戸籍を調べる。皆、特に変化はない。

 本当に生きているのかいないのか、それだけわかれば十分なのだが。

 と、市役所の中で九条を見かけた。

 おや?と首を傾げる剛田。彼は金沢市にいたはずだが。


 静かにその方向に足を向け、俯いて椅子に座っている九条に声を掛けた剛田。

「九条くん。何か調べに来たのか」

 一瞬驚いたように、九条は剛田を見つめる。

「私はE4の剛田だ。W4の他の人たちの行方を追っている」


 安心したように、それでいて哀しみを引き摺ったような九条の表情。

「何かわかったんだな」

 剛田の質問に、軽く頷いて淡々と答える九条。

「皆、命は無事でした。ただ」

 剛田が聞き返す。

「ただ?」

「陸軍に放り込まれて激しい拷問を受けたそうです」

「もしかしたら、春日井の命令で」

「そのようです。一条と三条は、四肢に異常もなく今は金沢でリハビリしています」

 あとの2人はどうしたのか。剛田は読めたような気がした。

「四條君と六条君は」

「四條は拷問の際に脊髄を痛め車椅子生活になりました。六条は辞めたいとだけ話があり、それ以上は何も告げません」

 剛田も九条も、何かを察しているようだった。

「何か相当な理由があったのだと僕は推測しています」

「そうか」

「2人からは、もうW4では活動できないと連絡がありました。WSSSからは何も指示がありません」


 剛田は、九条の肩を何度か優しく叩きながら立ち上がった。

「何かあったらE4に顔を出してくれ」

「ありがとうございます」


 

◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 西暦2122年。

 第3次世界大戦が終結し日本自治国が生まれて32年を迎えるこの年。


 今まで移民受け入れを拒否してきた日本自治国。

 永世中立国だったにも関わらず、戦争終結直前に再び核の嵐が吹き抜けたことから、日本自治国として、移民を受け入れない政策をとり続け、世界もそれを許容し続けてきた。

 

 しかし、世の中は変化していくものであると言わねばなるまい。


 八朔がバタバタと廊下を走ってE4室内に入ってきた。

「モ、モニター」

 お定まりで、何かビッグニュースがあると八朔は走る。


 西藤がモニターの電源を入れると、そこに映っていたのは槇野首相と中華国の李余暉リ・ヨギ首相。両者にこやかに握手をしていた。

 やや掠れ声の女子アナがニュースを読み上げている。

「・・・中華国の李余暉首相は、槇野首相に対し移民推進政策を速やかに実行するよう要望したということです・・・繰り返します・・・」

 槇野首相に中華国から政策強制執行の強い要望があったというダイナマイトニュース。

 それは日中首脳会談での出来事だった。

 2年前の朝鮮半島移民政策の中華国版。

 地球政府や国際協議会では日本自治国への移民を殊更推進してはいなかったが、朝鮮国と中華国の内政は衰退の一途を辿っており、両国は国民の目を誤魔化すため、外政に力を入れはじめていた。


 その一端を担ったのが、日本自治国への移民推進計画だった。


 中華国では、西~南西及び北東部では地震が相次ぎ住める状態ではない上に、ゲルマン民族やアラブ民族が大移動し中華国や朝鮮半島をほぼ占領することになった結果、現時点で中華国は国土の4分の3が多民族の棲家と化していた。


 日本自治国への移民政策を強硬に主張する中華国は、日中首脳会談という公の場で、現首相に猛烈にプッシュしてきたのである。


 日本自治国内では、当然のように反対の立場をとる政治家が演説を繰り返し、移民推進計画の阻止を訴えていた。

 そうはいっても、首相会談の決定を覆すには、それ相応の理由が必要だった。

 日本自治国が移民を拒む理由は、戦争参加していないにも関わらず、核ミサイルを何発も打ち込まれたこと。天災が重なり居住できる土地の約3分の2を失ったこと。

 十分すぎるくらい説得力のある理由ではあるのだが、中華国はそれでも日本自治国の現状を認めようとはしなかった。


 毎日のようにテレビでも活字オンラインでもこの話題が繰り返され、国民の関心を呼んでいた。

 いつもは世の中に興味を示さないE4でも、トピックとしての議論は尽きない。

 設楽はあまりニュースを信じていないようだ。

「ほんとにやらかすんですかね」

 西藤が珍しく設楽のお喋りに付き合っている。

「でも、両国首脳の会議で決まったことだろう、いつかはやるんじゃないか」

 北斗は以前中華系の学校で用務員的なことをしていたが、その時にはこういった話を一切耳にしたことはないという。

「まあ、一応学校の体裁がありますから政治的なことは話さないでしょうけど」


 杏は腰に下げた拳銃を弄りながら、2年間の逃亡生活を思い出していた。

 ホテルの窓からしか眺められなかった海。

 午前11時にチェックアウトしてから、ホテルのロビーや展望室で時間を稼ぎ、3時になると真っ先にチェックインした。ホテルのロビーから日本陸軍の制服を垣間見た時もあった。

 あの時ばかりは、流石に、生きた心地がしなかった。


「2年前に安室と壬生が朝鮮半島から移民を受け入れていたら、今頃どうなっていたのか知りたいものだな」

 そう杏が呟くと、設楽がもっともらしい目つきで杏を見る。

「春日井はもっと早く総理の座を追われたんじゃないすか」

「そうか?ガチンコになったらどっちが強かったんだか」

「その前に、2年前の移民イコール日本人総電脳化だったじゃないですか。今頃FL教が町中闊歩してますよ」

 

 なるほど、それはそうだと杏も気付いた。

 日本人が総電脳化されて、危ない新興宗教が街を覆い尽くす場面を思い描く。

 それを踏まえれば、中華国相手の方がまだマシかもしれない。


 2年前に安室元内閣府長官と壬生内閣府長官が日本自治国総電脳化計画と朝鮮半島移民政策を、時の春日井総理を押し切る形で進めたが、最終的にその計画は頓挫した。

 安室が自爆に等しい行動をとったからこそ、麻原や壬生は暗殺され、安室は逮捕された。あのトライアングルが正常に機能していれば、電脳汚染に始まるクーデターは見事に奏功し、春日井をこの国の頂点から引きずりおろしたことだろう。

 

 とはいえ、日本国民は電脳汚染の脅威を思い知らされたわけではなかった。警察の取り調べ段階で、FL教幹部からそのような世迷言は口を吐いて出ただろうが、警察からの発表に電脳汚染の4文字は含まれていなかった。


 国民はいつも大きな情報に蓋をされて生きている。

 

 移民推進計画の話題を皆に振るのはいつでも設楽。

「こないだ安室の計画を潰したばかりじゃないですか」

 八朔がこれに続くのもいつものシチュエーション。

「あれから2年経ちますからね、槇野総理はどっち寄りなんです?」

 設楽は本当に政治を知っているのか分らない発言をする。

「マイクロヒューマノイドの政策しか知りませんよ」

 北斗は大人しめに自分の意見を言う。

「内政が落ち着いていれば、支持率は落ちないだろうから」

 西藤が重い口を開いた。

「結構ヨワカスなのかも」

 倖田は西藤の言葉が理解できないらしい。

「ヨワカス?」

「ビビリ屋といえば早いかな」

 不破が最後に皆を脅す。

「軍に捕まるぞ」

 皆一斉に口を閉じた。

「勘弁してください」

 


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇

 

 日中首脳会談から半年を数えたある朝のこと。

 街中では、号外が溢れかえっていた。


「槇野総理、方向性を転化。移民計画推進へ」


 街角では、号外を受け取り、立ち止まって目を通す人が少なくなかった。

 杏はたまたま号外を受け取ったものの、立ち止まるまではいかない。

 E4に号外を持っていくと、剛田を除いた全員が号外を受け取っていた。


 あとから出勤してきた剛田が皆を呼び寄せる。

「電脳を使え」

 北斗を除いた各々が、耳たぶ部分についているアクセサリーを1回、強く押した。イヤホン型の線がアクセサリーから伸びる。その線を耳の鼓膜に押し当てるという、初期型の電脳線。

 最新式に取り換えている八朔や設楽は電脳線を小脳に繋ぐパターンで線が伸びてくる。それを耳に押し当てるわけだが、どちらも同じような構造なので、特に違いは見受けられない。

 剛田が皆を見回した。

(号外は見たな)

 設楽が応答する。

(はい、見ました。移民計画を推進するということは、そういうことですよね)

(そうだ。ただし、中華国に暮らすゲルマン民族だけを対象としている)

 八朔が首を捻る。

(どうしてゲルマン民族だけなんですか)

 剛田はしかめっ面になる。剛田は、もう少し勉強しろとでも言いたげに八朔を見た。

 不破はこのような時、一番冷静だ。

(移民が来るとして、どこで引き受けるんですか、まさか山の中とはいかないでしょうし)

(ここからは外部に漏らすな。毛利市近郊に居住区を設けるということだ。そして一番厄介なのが、移入民族総電脳化だ)


「えっ」


 設楽は思わず声を上げていた。

 剛田は構わず続ける。

(そうだ、日本にいるゲルマン民族は死ねば席が空くということだ。そうすれば、空いた席の分、移民を受け入れることになる)

 杏も思わず腕組みを解いていた。

(なるほど、中華国から一定数、毎年のように受け入れが可能ということね)


 西藤は普段このような場面で口を出さない方だが、よほど驚いたケースのようだ。以前の日本人総電脳化計画でも驚いた態度は見せなかったというのに。

(電脳化したゲルマン民族は監視対象になるのでは?日本人の計画時もそんな話ありましたよね)

 剛田が杏を睨みながら西藤の問いに答えた。

(脳監視を実施するのは確定だろう。WSSSでやるだろうからE4には関係ないが)


 倖田は、ただ黙って聞いていた。色々と思うところはあるのだろうが、考えなしにモノをいう男ではない。


 不破も段々眉をひそめてステキ顔をパーにする。

(実際、どれだけのゲルマン民族が海を渡ってきますかね)

(それもわからん。第1次移民計画、第2次、第3次と続くらしい)

(もう居住区は建設されているんですか)

(まだだ。核の犠牲になった日本を色眼鏡で見ている外国人は多いからな)


 杏はひとり電脳を外し、号外に目を通した。

 総理が外圧に耐え切れず、移民を受け入れる方向性に転化した。いままで移民を受け入れてこなかった国民は激しいデモを繰り広げると予想される、とある。

 そして、中には移入民族を奴隷化しようという運動が起きる可能性がある、と結んでいた。


 北斗が杏に向かって電脳で何を話したかと杏に問う。

 実は、声はあげてみたものの、ほとんど話を聞いていなかった杏。

「ゲルマン民族を移民させる条件として、皆電脳化するらしい」

「自分たちの時代で血が途切れることを知って、日本に来ますかね」

「老人や、子どもが欲しくない人は来るだろうさ。割合はわからないが。あとは、放射線が怖い人はこないだろうな」

「何人くらい来るでしょう」

「わからない。条件をオールクリアするゲルマン民族がどれくらいいるのか、それはそれで楽しみじゃないか」


 翌日から、予想通り日本人の大規模なデモが金沢市、伊達市、新潟市、毛利市で起こった。日本中から人が集まっているのではないかというくらい激しいデモ。

 流石の事態にE4も出動させられ、主としてデモ隊から外れていく人間をデモ隊の中に押し戻していく。

 小さないざこざは警察府に任せるとして、今日は槇野総理が金沢市で演説を行う予定だったが、急遽キャンセルとなり、E4は仕事をキャンセルされた。総理は余りのデモ参加者の多さに、危険を感じたらしい。


 ゲルマン民族の中でも、移民として日本に渡りたい者もいれば、何が何でも大陸に残りたい、そういった者もいたらしく、中華国でも色々な運動が起きたらしい。


 だが、槇野現総理はゲルマン民族を電脳化して脳監視を続けることで事の収拾を図ったのだった。脳監視を続ける。この一言をもって、他民族までもが流入するのを少しでも抑えたかったのだろう。

 ただし、今の段階で毛利市に居住区を定めることについては箝口令が敷かれたとみえ、メディアも居住区がどこになるのか、といった論調でしか計画の詳細を語ることはできなかった。


 とはいえ、噂はどこからか漏れるものである。どこがリークしたのかは分からなかったが、活字オンラインを通し、移民計画=平和強制は国民の目に触れることとなった。

 国内で1,2位を争うほどの激辛論調を載せる週刊誌が、毛利市近郊に外国人居住区が作られていることをすっぱ抜いたのだ。

 毛利市の住民たちは激怒し、昼夜を問わずデモ行進を行った。デモは昼間限りと定められていたが、無視するものが続出。抗議の電話が鳴り響いた毛利市役所は火消しに追われたが、住民の不満は一挙に爆発した形になった。

 これにメディアも追随し、ついには日本国内全ての地域で暴動が起きたのである。

 E4も暴動を治めるために伊達市、金沢市、毛利市と国内を飛び回った。

 普段ならIT室で作業をすればよい設楽や八朔まで駆り出され、カメレオンモードのレディバグやレディビートルも出ずっぱりである。


 設楽は杏と一緒に金沢市に出向いていたが、愚痴が止らない。

「チーフ。ほとんど電脳化してない僕や八朔を引き摺りだすって、何かの罰ゲームですか」

 杏は無視したかったが、今度ばかりは設楽の気持ちが分らないでもない。

「そうだな、暴徒化する恐れもあるこの民衆を押さえるのは至難の業だ」

「暴徒化したら、真っ先に逃げますからね、僕は」

「その前にバグが拾ってくれるさ」


 当然のことながら、槇野内閣の支持率は急降下し、危機ラインと呼ばれる支持率30%前後でなんとかぶら下がっている状況だった。

 それなのに槇野総理は内閣総辞職を拒み、表面上、粛々と移民計画を実行に移していた。


 半年後。

 ゲルマン民族は厳戒態勢の中、毛利市郊外に居住区を得た。第1次の移民として日本自治国に渡ってきたのは、ゲルマン民族凡そ1000人。それですら、居住区の確保が難しく、民族内で抽選を行う失態を招いたという。

 




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