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北砦の南門前に転移すると門番が俺の事を覚えていてくれて直に通してくれた。

マークスの執務室に通され、玄田も呼んで来る様に頼むと直にやって来たので二人を連れて北門まで行き、副隊長に暫く二人を借りるから後を頼むと言って車を出して北へ向かった。


「ちょっと飛ばすけど二人はこの先見た事無いだろ?だからしっかり見て置いて欲しいんだ。本当に魔族が人族を攻めるつもりが無いって事をさ」


そう言って二時間程走って行くと見渡す限りの草原となり、魔族所か魔物すら見なくなったので車を止める。

日が傾き茜色に染まり始めた草原を俺達は何も言わずに暫く見つめていた。


「そろそろ行こうか、夕食までには帰るって約束したんだ」


帰るのは砦じゃないけどなと思いながら車ごとガーランド家前に転移した。


「着いたぜ~二人共車を降りな~」


「うぁ・・・何だ今のは・・・・・何をしたのだ・・・・・」


「あ、あれ・・・今のは・・・・・まさか転・・・移?・・・・・」


転移酔いと急に変わった景色に困惑している二人を置いて、門番にマークスの帰宅を知らせると慌てて門を開け屋敷に知らせを走らせた。


「ここは・・・・・まさか・・・王都の我が家か・・・・・」


「え、ほ、本当ですか・・・やっぱり今のは転移魔法なんですよね!?パンドラさん!」


「ああ、最近やっと制御出来る様になってな。まだ日本には飛べないけど一度行った所なら何処へでも行けるぜ」


二人の背中を押しながら門を潜ると屋敷の扉が開いて従業員を含めた屋敷全ての人が出迎えた。

アイリスさんは涙ぐみながらマークスを迎え、ジェシカとケントはマークスに飛びついてマークスに頭を撫でられている。

ふと横を見るとライラが寂しげな顔をしていたので軽く抱き寄せ頭を撫でてやった。

ジェイムスが「お館様、夕食の支度が整っております。お客様も居りますし、お話は食堂の方でお願いします」と平常運転でつい笑ってしまった。


夕食の席でもケントとジェシカの興奮は収まらず、俺達が来てからの数日に起こった事を少し大げさに話し続け笑顔が絶えなかった。

玄田は鶏の照り焼きと茸で出汁を取った御吸い物を涙を流しながら味わい、サラダにかかったマヨネーズに歓喜した。


こんな光景がこの世界中で当たり前に為れば良いと心の底から思い、その為にも明日の会談は成功させなければと柄にも無くプレッシャーを感じていた。


夕食後、ケントとジェシカは興奮しすぎて疲れ、早々に眠ってしまったが俺達はリビングでお茶を飲みながら明日の事を話し合っていた。






「と言う感じで明日は行きたいんだが、お二人さんは質問有る?」


「僕は演技なんて出来ないんで自信ないですよ」


「私もだ。陛下に御会いするのも久しぶりで緊張しそうだ」


「大丈夫だって。とにかく基本は俺が良いと言うまで口は聞かない事と、偉そうにふんぞり返って俺の後に付いて来たらそれで良いよ。後は俺が上手い事やるからさ」


話し合いを終えて皆が寝静まった後にマークスと玄田が着る衣装の作成をしつつ相手の出方に対する行動を幾つか考えているうちに朝になった。


「それじゃ二人共、こいつを着てくれ」


「はぁ・・・・・何故この様な格好を・・・・・・・・」


「父様、凄く強そうで格好良いですよ。ねぇ兄様」


「うん、父上がお強いのは十分承知していますが。その格好だと近寄り難い凄みを感じますよ」


「ほれ、玄田君も早くしろよ。陛下達待たせる訳にはいかんだろ」


「解ってるんですけど・・・・・パンドラさんに遊ばれてる気がしてならないんですよね・・・・・」


「昨日説明したろ。頭の固い馬鹿共には視覚から入った方が良いんだよ・・・まぁ、否定はしないが」


渋る二人に衣装を着せて車の後部座席に座らせて出発した。


「パンドラさん、鎧がごつくて安全バーが下がらないから飛ばさないで下さいよ」


「解ってるって、今日は飛ばさねぇから安心しな」


「今日は、と言う事は既にこれで何かしら騒ぎを起こしたのだな」


「ああ、最初の謁見の時に門番の対応がムカついたんで押し通ったし、昨日は二人を迎えに行く前に街中を走り回って追いかけて来る兵士から逃げたり、宰相様をお城に送る時に全速力で城門を強行突破したよ。ああ、勿論宰相様の頼みでだぞ」


「・・・・・宰相様・・・あの方は時々悪い癖が出るのがなぁ・・・・・」


「ははは・・・そう言や今日の事も楽しみにしてるって言ってたぜ」


「厳格な方って聞いてたのに・・・・・意外と御茶目なんですね」


「公私の切り分けがはっきりしてんだよ。本性は酒好きのノリの良いおっさんだから俺は結構好きだぜっと、そろそろお喋りはお終いだ、二人共頼むぜ」


無言で頷く二人をミラーで確認しつつ車を走らせ、城門前に着くと門番達が槍を構えて出迎えた。


「おいおい宰相様から聞いてんだろ。とっとと門を開けろや。それともこの前みたいに通ってやろうか」


「クッ・・・命令でなければ貴様等なんぞ決して通さんのだが・・・・・」


「ハッ!お前等じゃ無理だ。出来ない事は口にすんじゃねぇよ。ほれ、仕事しろ。俺達を此処で止めるって事は陛下や宰相様達を待たせるって事だって解ってねぇだろ」


渋々開けられた門を潜ると兵士達が恐怖に顔を曇らせて出迎えてくれて思惑通りでついにやけてしまった。

入り口前に車を止めて車を降りて後部座席のドアを開けて二人を降ろすと、彼方此方から悲鳴や驚愕の声が上がったが気にせず扉を開き二人を連れて謁見の間に向かう。

途中俺達を見て腰を抜かす人や悲鳴を上げて逃げ惑う人が居て、やっぱ見た目って重要だよなと思った。


槍を構え遠巻きに付いて来る兵士達を従え謁見の間の近くまで来ると、扉の両脇に居る兵士達が目を見開いて俺達を見た後ハッと我に返り槍を構える。


「そこを退け!扉は俺が開けるからお前らは離れていろ!それとも俺達と一戦交えるつもりか?その場合はどうなるか解ってんだろうなぁ!」


兵士達が俺達から槍を構えたまま離れて行くのを確認した後、謁見の間の扉を開け放ち、扉の下に楔を打って扉が閉まらない様にした。

俺は一人で謁見の間に入ると横にずれて頭を軽く下げて二人を招き入れた。


「どうぞお入り下さい。ベルトラム国王陛下がお待ちです」


二つの影が謁見の間の入り口に立つと室内は緊張感に包まれ、短い悲鳴と息を飲む音が聞こえた。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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