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固まったまま動かなくなった玄田の目の前で手を振ってみる。
「おーい、玄田く~ん。一緒に復讐やらないか~」
「はっ!ちょ、ちょっと待って下さいよ!復讐ってそんな『一杯呑みに行かないか』みたいなノリでやるもんじゃないでしょう!?」
「ん~まぁ必要な準備は進めてるし、玄田君がやらなくても俺は構わないよ・・・・・ただ今のままだと全ての使徒は俺と敵対する事になると思うんだが・・・その時君はどうするんだ?」
「えっ?!そ、そりゃあ戦えませんよ、気が付いてしまいましたし・・・・・」
「で、仲間の使徒からは『裏切り者』と言われて自分一人だけ生き残ると・・・・・そして教会も無くなり使徒としても居られなく為る訳だ」
「そんな!・・・じゃ、じゃあ・・・僕はどうしたら・・・・・」
「だが俺の計画に君達使徒が加わると話が変わってくる。教会も無くならないし被害も最小限に抑えられる筈だ」
「・・・・・本当に・・・出来るんですか?・・・さっき自分で言ってましたよね?『旨い話には裏がある』って・・・・・」
「ああ言ったな。俺の事を信じ無くても良いともな・・・・・で、どうする?俺達の計画に参加するか。する振りをして仲間を集めて敵対するか。しないで教会が無くなるのを黙って見ているか・・・・・」
「・・・それって・・・いえ、解りました、やります。やらせて下さい」
「OK、良い返事だ。それじゃ概要とやって貰いたい事を話そう・・・っとその前にこの国の情報が欲しい。この砦の偉い人何人か連れて来て貰えるか」
「えっ!他の人にも話すんですか?!それって拙いんじゃ・・・・・」
「ん?いざと為ったら此処が更地に為るだけだ。何の心配もねぇよ」
「ちょ!だ、だめですからね!そんな事したら王国軍が動きますよ!」
「ははは!冗談だよ冗談。まぁ敵対するならやるけどな・・・・・そんな事より飯にしようぜ。旨い飯食って話し合えば何とか為るって。あ、メインとスープはこっちで用意するからパンか米が有ったら持って来てくれよ」
「はぁ・・・・・一体何処まで本気なんだか・・・・・解りましたパン持ってきますよ。米は教国の南でしか採れないんで此処には無いんです。人数は総隊長と大隊長五人の計六名で良いですか?」
「おう、解った六名で準備する。アレス、タニアを起こせ。飯の準備だ」
テーブルと椅子、食器類を人数分用意し、食材を出して調理を始める。目玉スープが温まり、ビックボアの肉が人数分焼きあがる頃に玄田が隊長達を連れて戻って来た。
「ようこそお出で下さいました。堅苦しい挨拶は抜きにして、先ずはこちらにお座り下さい」
「食材の提供感謝する。この様な場所ではなかなかまともな食事は出来ないのでね」
俺とライラと総隊長と玄田。アレスとタニアと他の隊長五人でテーブルに着き食事を始めた。
「旨っ!何ですかこのスープ!こんなの日本でも食べた事有りませんよ!」
「・・・・・ああ・・・この様な物がこの世に有るとは・・・・・妻や子供達に食べさせてやりたい・・・・・」
五人の隊長達は無言で涙を流しながら食べている。
「・・・ククク・・・大げさな奴らだ・・・もしこれが何時でも食べられる様になったらどうよ」
「・・・・・それが可能だとすれば喜ばしい限りですが・・・いえ、今はこの幸せを噛み締める事にしましょう・・・・・」
食事が終わり、お互いの紹介が終わって、お茶をしながら話をする事に。
「さて、落ち着いた所でこの国の事を聞きたいんだが。そもそも何で戦争をしているのかって事なんだが・・・国是として侵略をしているのか?」
総隊長のマークスは渋い顔をしながら玄田の様子を伺いながら話し始めた。
「少なくとも私は侵略とは聞いておりません。その・・・大変言い難いのですが、ここ数年は国王陛下も派兵より国内整備を優先しております」
「ああ、総隊長。僕の事なら気にしなくて良いですよ。パンドラさん、ぶっちゃけ教国から圧力掛けられて仕方なく派兵してるんですよ。僕ら使徒も含めて信者が大陸中で魔族排斥活動してるんで。まぁ世論には勝てないって奴です」
「なるほど、言うこと聞かなきゃ信者を王国から引かせるぞ、とかやってんのかね。王国丸ごと盾に使ってその国民は人質か」
「・・・それだけでは有りません。我が国は教国の支援無しでは立ち行かぬ状況なのです・・・・・長年に渡る徴兵で農村も働き手が減り、廃村に為った所も数え切れません」
「ん~・・・先ずは教会の是正で次は魔族との和平か・・・・・やっぱ使徒達の協力を取り付けるのが一番なんだが・・・玄田君出来そう?」
「・・・難しいですが、出来るだけ連絡を取って見るしかないですよね」
「あの・・・魔族との和平など可能なのでしょうか」
「ああ、それは心配要らないな。あいつ意外と話の解る奴だったし、利害関係が一致すれば問題なく話は進むぞ。まぁ反対する奴も居るだろうけど、俺に敵対するなら殺るだけだしな」
「はぁ?も、もしかして魔王と会って話をしたんですか?!」
「おお、魔王城に呼ばれてな、話と言うか取引もしたぞ」
「・・・・・もう、何て言ったら・・・・・それにしても良く無事でしたね」
「言ったろ魔王より強いって。そんな事より俺達の身分証なんとかなんねぇかな?王国内だけで良いんだけど」
「そんな事って・・・・・僕に出来るのは国王陛下へ謁見の推薦状位ですけど、総隊長はどうです?」
「そうですね・・・私ですと陛下宛の機密書類配達の委任状と、御連れの方達は獣魔としてなら証明書は出せます」
「おお、そいつは助かるよ。内容は任せるから好きに書いてくれ。後は使徒の説得か・・・・・何か交渉材料が有った方が良いかな・・・玄田君、味噌と醤油って有るかい?」
「有りませんよ、残念ながら・・・・・って、もしかして有るんですか?!」
「いや、材料が有れば作れるからどうかなって・・・・・ん?八十年前から召喚されてて誰も造って無いのか?米は有るんだろ?」
「ええ、米も大豆もあるんですが、僕等使徒って召喚されるのは十代半ばが殆んどで、しかも基本体育会系なんですよ・・・・・材料は知ってても詳しい作り方は誰も知らなくって・・・・・」
「・・・単純に戦力目当てで身体能力が高い奴召喚してんのか・・・・・下手に知恵のある奴だと反乱の恐れもあるし、若い方が洗脳もし易いってか」
「うっ・・・酷い言われ様だけど反論出来ない・・・・・」
「材料さえ有れば日本酒や味醂、お酢なんかも作れるから交渉材料に使ってくれ」
「解りました。それで僕からもちょっとお願いがあるんですけど・・・・・あれ・・・車乗って見たいんですけどダメですかね?」
「何だそんな事か、いいぜ好きなだけ乗って来な」
「やった!有難う御座います!早速行って来ますね!」
玄田は大喜びで車に向かって行き全体を眺めた後、乗り込んで走って行った。
ここまで読んでいただき有難う御座います。




