転生木箱の後日談37
新大陸の新しい家に住民達を送り出し、ガーランド家の家や日用品などを用意して一息付いた後にマークスとケントと話をした。
「お前等良かったのか?ベルトラン王国を護るのが役目じゃなかったのかよ。それを放り出す様な真似してさ」
「パンドラ殿、実は私達はアスタル様の亡くなる一月程前に最後の指令を受けていたのです」
「アスタル様もジェラルド様も独自に国内の情報を得ていてですね、不穏な動きを掴んでいたらしくて私達にこう言ったんですよ。『ライオネルが道を違えた時はその推移を見守り、パンドラ殿に仇成すので有れば国を捨てパンドラ殿にその身を捧げよ。それが我等に出来る最大の恩返しだ』って」
「何だそりゃ?それじゃアスタルはウェンビーの奴がやってた事知ってたのかよ。マークス、お前個人としてはそれで良かったのか?レイルの遺言守ってたんだろ?」
「正直思う所は有ります。ですが『国とは人の集まりでしかない。真に護るべきは国土では無く、親しい友人や知人ではないのか?』と、そう問われて何も言い返す事が出来ませんでしたから」
「まぁお前等がそれで良いなら良いけどさ・・・アスタルの奴最後までつまんねぇ事気にしてたんだな・・・・・」
翌日からは旧大陸中で困窮している町や村で移住者を募り、新大陸へ連れて来ては仕事を与えたり必要な物を作ったり施設の使い方なんかを教えて回った。
そんな慌しい日々も終わり、新大陸での生活に皆が慣れ始めた頃、俺は旧大陸に向けてメッセージを送る事にした。
ベルトラン王国のハンス商会は無くなったが、他の国では休業中なのだ。店員とか誰一人として居ないし。
俺は放送用の魔導具を大量に作って新旧両方の大陸に向けて飛ばし、全ての民が見られる様に為った所で放送を開始した。
「よし、こっちは準備OKだ。ディアナ、ミネルバ始めるぞ」
「「は~い・・・・・『5』『4』『3』『2』『1』ミュージック!スタート!!」」
俺はディアナとミネルバのカウントダウンに合わせてプレイヤーのスイッチを入れた。
遥か上空から流れる曲はアスタル達が好きだった『アントニン・ドヴォルザーク作曲、交響曲第九番、第四楽章』だ。副題が『新世界より』と言うこの曲なら旧大陸に向けて送るのにも相応しいだろう。
「いよう!俺の事を知って居る奴等はお久しぶり。知らない奴等には初めましてだな。俺の名はパンドラだ」
何時もの様に軽い調子で話し始めた俺の映像を全世界が注目していた。
「誰の事とは言わないが、散々世話に為った癖に恩を仇で返す奴が居たんでな、俺とその関係者及びこの件で大きな被害を被った人達を連れて俺が作った国・・・と言うか大陸へと移住させて貰った。各国の首脳陣はそいつに追従したと見做して同罪とさせて貰う。賛成したんだろ?同盟国会議で国が塩を管理する事によ」
画面から流れる俺の映像が新大陸へと切り替わる。
「如何だ、俺の創った国は?ここにはその家に生まれ付いたと言うだけで威張り散らす王侯貴族も、金持を持っているからと横暴な真似をする奴も、人種差別する奴も居ねぇ。細かい法律なんてねぇし、人として誰もが持っている常識さえ守れば後は好きな様に生活が出来る上に税も取らねぇ理想郷だ。羨ましいだろ?」
今頃世界中の人がビルの立ち並ぶ街や広大な畑が映る空を見上げて唖然としてんだろうなぁ。そんな想像をして笑みが零れた。
「まぁ今んとこ住民は少ないから土地も家も余ってるんで、十万人位は受け入れが可能だし仕事も幾らでもある。かと言って片っ端から連れて来たら人の減った国は如何なるか・・・解るよな?流石に俺もそこまで非道じゃないんで悪いが選別はさせて貰う。選定基準は『真っ当に働いているが困窮している者』だ」
これで国民が飢える様な真似をすれば俺に連れて行かれ国民が減る事になる訳だ。しかも真面目な働き者がだ。
「何処かの国じゃ平和になったと言うのに兵士を増やすって名目で税率を上げたそうじゃないか。そのせいで困窮した連中は既に連れて来たから、その国は収入が減って益々大変な事になるんだろうなぁ・・・ククククク・・・・・」
俺はここで一度台詞を切って大きく息を吸った。
「・・・・・ライオネル・ベルトラム!!アスタルに託された理想を捨て、私欲に走った貴様だけは何が有っても許さん!!良いか!俺は常に見張っていると思え!!周囲の者は奴を殺すな!死なせるな!!ハンス商会を引き上げたのは貴様に対する罰だ!!せいぜい自力で国を立て直してみるんだな!いっその事、自分の食い扶持位は自分で畑を耕してみては如何だ?国王・さ・ま!!ははははは・・・・・・・!!」
さて、曲の残り時間も少ないので、そろそろ終わりにしようか。
「さて、ベルトラン王国以外の国には救済処置としてハンス商会の使っていた建物に俺の所に繋がっている通信魔導具が置いて有る。設置場所から移動したり分解や解析しようとすると自壊する機能付だ。本当に困った時は魔力を流せば俺が対応してやる。但し!下らない内容だと判断した時は魔導具と建物を破壊し二度と設置はしない!王侯貴族を含めた全ての民が良く考えて行動する事を期待している。以上だ」
さてさて、旧大陸がこれから如何為るのか楽しみだと、曲と共に話しを終えて放送を止めて、飛ばした魔道具の回収をしたのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。