転生木箱の後日談36
ハンス商会の事はハンス達に任せて、俺はセレネの魔導教育の傍ら洋上に新大陸の創造を始めた。
奴はこの星を創ったのだ、奴以上の力を持つ俺に大陸を創る位造作も無い事だった。
総面積はベルトラン王国の三倍で中央に島と同じ高さの山を作ってその上を平らにならして俺とハンス達と言った身近な者が住む家を建てた。地下には大陸全ての電力を賄う事の出来る魔力発電システムも設置した。
その山を囲む様に農業、商業、工業地区等に分けて住宅や各施設を設置し、魔導列車で各地区を繋いだ。自動運転で運行される列車は大陸中に張り巡らされ、端から端まで行っても一日も掛からない。
思いつく限りの事はしたつもりだが、不都合等が有ればその都度変えて行けば良いだろう。
次は住人の募集だなとパンドラ島の住民を始め、俺に係わった者達に声を掛けて行き、その殆んどが俺に賛同し移住する意思を示してくれた。
そして一年後にハンス商会から調味料の供給が止まると同時に大陸中の食糧事情が急変。沿岸地域で塩の製造が出来る国はまだマシだったが、海の無い国、ベルトラン王国とゲオルグ王国では庶民の暮らしに大打撃を与えた。
これまで気軽に使えた物が使えなくなったのだ、それが喩え貴族であったとしてもだ。
全ての不満はライオネルへと向けられ、ゲオルグ王国に至ってはこの事態の収拾が出来なければ同盟の解消も辞さないとまで告げた。
因みに新大陸にヴォルドを誘ったら二つ返事で了承し、国王に事後承諾を取りに行ったら喜んで送り出してくれたそうだ。領主なのに良いのかよ・・・・・
ゲオルグ王国で俺に会った事の有る貴族達は、ベルトラン王国に攻め込みライオネルを引き摺り下ろしてでも俺に謝らせるべきだとか言っていて、国王がそれは俺が望んでいないと言って止めているらしいし、塩の件はゲオルグだけが反対したとも聞いた。
そんな訳でゲオルグにだけはこっそり塩や香辛料を渡して来た。こいつらなら信用しても良いだろう。
そんな最悪な状況に陥ったライオネルが如何出るかを監視していたんだが、ハンス商会に圧力を掛ける以外に特に動きの無いまま時は流れ、いよいよ進退窮まった時、斜め上の行動に出た。
王太子とセレネの婚約だ。
ガーランド家を囲い込むにしたって、先ずはマークスの昇進からだと思っていたのでちょっと驚いた。子供だから御し易いとでも思ったのかね?ライラの娘だぞ、考えが足りなさ過ぎだろ。
結局セレネに逃げられた上に、うちに来たのでガーランド家と島を繋ぐ転移陣を俺に撤去されてしまったと。これで表向きはこの島へ来る事が出来るのは転移魔法が使えるケントだけになった訳だ。
そしてその日の内に新大陸への移住を開始した。
先ずは島の住民、そしてベルトラン王国にユリシス帝国とゲオルグ王国内で移住を希望した者達全てを転移で運び、島の施設とハンス商会の転移陣の有る建物も全て撤去し更地にした。
勿論アスタル達の墓も新大陸の山の上に移設した。
その頃、マークス、ケント、ライラの三人はライオネルに呼び出されてセレネの事で詰問されていたのだが、乱心したライオネルに反逆罪を言い渡されたのだそうだ。
まぁこの三人を捕らえるとか無理なんで、普通に帰ってから使用人を含めた屋敷の住人全てを連れて島へとやって来たので俺の転移で新大陸へとご案内である。
整然と立ち並ぶビルと街中を走る魔導列車を見たケントとライラは「新婚旅行を思い出すなぁ」なんて暢気な事を言ってた。
さて、この結果如何なったのかと言うと。
ハンスの村を含めたハンス商会のベルトラン王国からの完全撤退。そして、ガーランド家と言う国の守護者を失ったのである。
ライオネルはケント達が帰った後、直ぐに兵をガーランド家に差し向けたが既に蛻の殻で、転移陣の有るであろうハンス商会を抑える為にこちらにも兵を送ったがやはり手遅れで、ハンスの村も外壁以外は更地になっていて完全に無駄足を踏んだのだった。
更にこの件で国民の怒りが爆発。謀反こそ起こらなかったが、有る程度の資金の有る商会から国を脱出して行き、ベルトラン王国は急速に衰退。ライオネルは『守護者に見放された愚王』と呼ばれた。
そして俺はと言うと、困窮している町や村を回って民達を新大陸へと連れて行ったのである。
ここまで読んで頂き有難う御座います。