転生木箱の後日談34
最初はジェラルドだった。
その十日後にはアスタル夫妻が逝った。
俺が大陸から名を消してから半年程経った頃の事だ。
幼馴染で仲の良かった三人だ、先に逝ったジェラルドが寂しくない様に急いで逝ったかの様に思えた。
葬儀は遺言通り家族以外には知らせず、パンドラ島でひっそりと行われ、三人の墓は島の西に有る山の北側の山頂付近に俺が立てた。
全ての国が友好条約を結び、戦争の無くなった大陸の行く末を見守り続けるつもりなのだろう。
そしてその五日後に引越しの準備をしていた筈のエリクと妹のニアが家に駆け込んで来た。
「パンドラさん!急いで来て下さい!ライオネル陛下が家の中の物を運び出しているんです!僕らでは止められません!」
「はぁ!?何だそりゃ?あの野郎何考えてんだ!」
慌てて家を飛び出し主の居なくなった家へと向かうと、二十人程の兵士達が家の中から家電やら何やらを運び出して荷車に積んでいた。
「おうおう、てめえ等ぁ!何勝手な真似してんだ!今直ぐそいつを戻しやがれ!!」
「え?・・・あ・・・あの・・・我々はライオネル陛下の命令でアスタル様の遺品を運ぶ様に言われただけで・・・・・」
「ふざけんな!!おい!ライオネル!てめぇ何考えてんだ!この俺様に喧嘩売ってんのか!!」
「何を仰って居るのですか?私は王国法に則って遺品の整理をしているだけですが?ここに有る物は私の父上と母上の物ではありませんか。息子である私が相続する権利があります。違いますか?」
その時ライオネルが見せた相手を見下す様な目に俺はカチンと来た。
「面白れぇ事言うじゃねぇか・・・ここはベルトラン王国じゃねぇぞ。その家も設備も俺の力になってくれたアスタルとジェラルドの為に俺が作った物で、てめえの物じゃねぇ・・・・・遺品と言える物はあいつ等が持って来た服や装飾品と日用品だけなんだよ!今直ぐ元に戻してこの島から出て行け!そして二度と足を踏み入れるな!!」
「フッ・・・確かにここはベルトラン王国では有りませんが、貴方はベルトラン王国の貴族ではありませんか。そして私は国王だ。不敬罪で投獄されたくなければ言葉遣いには気を付けた方が良いとは思わないのですか?」
「ククククク・・・ハハハハハ!!長げぇ事大人しくしてたから俺の事を忘れちまったみたいだなぁ、てめぇは・・・・・アスタルから貰った身分は今この場で返上する!これ以上舐めた真似すんならベルトラム王家の血を引く者は皆殺しだ・・・・・良いか・・・二度と俺に係わるな・・・俺も二度とベルトラン王国には係わらねぇ・・・・・死にたくなかったら今直ぐこの島から出て行けや!!」
国内での影響力の大きいアスタル達が逝き、大陸をほぼ掌握したと言っても過言ではない状況がライオネルを変えてしまった。
俺はこの日からオーディオルームでアスタル達が好んでいた曲を流し続け、部屋から一歩も出る事無く過ごした。
食事も睡眠も風呂も・・・・・元々必要ではなかったが〝人〟で在りたかったから〝人〟として生活していただけだしな。
もう何もかも、全てが如何でも良くなっていた。
時折ライラやケント、ハンス達を含む島の住人達が会いに来ていたが、何を話していたのか覚えていない。いや、端から聞いてすらいなかった。
ディアナとミネルバとは話をしていた様な気もするが、返事は全て生返事でやはり良く覚えていない。
流していた曲でさえ聞いていなかった。
どれだけ時が流れたのだろう。
部屋の扉が開き、何と無く返事をして笑い声が聞こえた様な気がして・・・何と無く振り向いたんだ。
「何だ~・・・何笑って・・・・・・・ライ・・・ラ・・・・・いや・・・セレネ・・・か?・・・・・」
その時俺の視界に映ったのは、あの頃・・・試験場で俺が初めて作った服を着たライラそっくりの女の子だった。
ライラとアレスと三人で試験場を荒らしまわった懐かしい記憶が蘇り涙が出そうになった。
ずっと俺の傍に居ると言ってくれた、それが叶わぬ夢と知り、子を成して俺の元へと送ってくれた。
これがライラなりの遣り方なのだと気が付き、その優しさに閉じていた心が開いて行く。
俺は一体何をやっていたんだ。身近な者が亡くなり、裏切られた。だが、その一方で変わらず俺を慕ってくれる者も居るじゃないか。
ならばと立ち上がり、俺は俺らしく行動する事に決めたのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。