転生木箱の後日談32
フォルマがハンス商会で働き始めて二年が経った。
ベルトラン王国との同盟も残す所二カ国となり、周辺国最後のビブリエ教国とも近い内に友好条約を結ぶ運びとなっている。残りは大陸西部の王国だけとなる訳だが、世界的には大陸を一つに纏める事で共存共栄して行こうと言った風潮になっているので、近い内にベルトラン王国から特使が派遣される事になっている。
で、その特使に選ばれたのがアルバイン・ハーグス夫妻。アルバインはジェラルドの三男で、ジェシカの旦那だ。
そして同行者と護衛はケント・ガーランド夫妻(子連れ)と隣国のゲオルグ王国からレイナード・ゲオルグ第三王子とヴォルド・ワイズメル子爵と言った顔ぶれになっている。
当初ゲオルグからの護衛は他に二十人付ける筈だったのだが、大勢の兵士を引き連れて行っては相手を警戒させるだけだし、ケントとライラが居れば喩え子連れでも完璧に護ってくれるだろう。
そしてこの大陸統一に一役買っているのがハンス商会だ。
俺の設置した転移陣を使い、各国の情報を集めて利益を上げると共に停滞した経済を活性化させて行き、世界最大の商会として『ハンス商会の有る国に飢えは無い』とまで言われ、暴利を貪るだけの悪徳商会は次々と駆逐されて行った。
その影にフォルマの働きが有ったのは言うまでも無いだろう。
ハンスは他国に行く際、敢えてその身を晒して囮となり、敵対勢力を反社会勢力と共に潰して行く事で多くの国民達から受け入れられた。
この行動が世界中に噂となって知れ渡り、世論が大陸統一へと向かって行ったのだ。ハンス商会は平和をも運んでくれると。
フォルマは当初、護衛の立場からこの作戦に反対だったが、ハンスの『貴女には泥を被せる事になりますが、閉じ篭っていては勝利は掴めません』の一言で納得した。相変わらずの度胸と判断力である。
そして更に二年後に大陸統一が成され、翌年にはハンス商会の大陸制覇が成されると、ハンスとホレスは突然引退し、ベルトラン王国から姿を消して行方不明となった。
まぁ、パンドラ島に居るんだけどな。
ハンスとホレスは俺の家の東側に有る川を渡った所に家を建ててフォルマと三人で暮らしている。ハンスはフォルマにハンス商会の後を継いだリゲルとドランの護衛をと言ったのだが、『あたいはあんたの護衛だ。死ぬまで傍を離れる気は無ぇ』と言われ、強引に押し切られてしまった。
まぁリゲルとドランにはユリシス帝国にある『パンドラ警備保障』とベルトラン王国の『パンドラ孤児院』から腕利きを派遣したので問題ないだろう。いざとなったら俺が動くしな。
そんな訳で晴れて隠居の身となった二人の為にパーティを開く事にした。二人には色々手伝って貰ったし、大陸制覇のお祝いもしないとな。
二人・・・いや、三人を呼んで、序にジェラルドとアスタル夫妻も呼んで馬鹿騒ぎをした。元国王夫妻に元宰相と最初は萎縮していたが、直ぐに慣れたのはアスタルとジェラルドの人柄だろう。
ハンスとホレスの昔話はアスタル夫妻とジェラルドだけでなくディアナとミネルバも興奮して聞き入っていて、フォルマは聞いた事が有ったらしく、うんうんと頷いていた。こいつら結構波乱万丈な人生送って来てたんだな。冒険者十三年やってから旅商人で七年かよ。マジですげぇな。
「私達の人生最大の転機はパンドラさんとの出会いでした。引き合わせて下さったガーランド婦人には感謝の念が絶えません」
二人の昔話はそう締め括られ。ちょっと面映かった。
そして一頻り騒いで落ち着いた時、ジェラルドが窓の外を見てポツリと漏らした。
「・・・・・空を・・・空を飛ぶと言うのは如何言う気持ちなのだろうな・・・・・」
「何だ?飛びたいなら飛行船でも何でも用意してやるぞ」
ジェラルドは誰にも聞かれてなかったと思っていたのだろう、答えた俺を見て驚いた顔をしてからこう返した。
「・・・・・いや、遠慮しておこう。知らぬ方が良い事も有るのでな」
「何だそりゃ?そんな大層な事じゃねぇぞ」
俺の言葉にジェラルドは少し悲しそうな笑みを浮かべ話題を変えた。
俺にはジェラルドが何を伝えたかったのか解らなかった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。