転生木箱の後日談29
フォルマの攻撃は兎に角無駄が無かった。
スピードは俺の方が上だったので回避は出来るが如何せん反撃が出来そうに無い。
あ、そういや俺って格闘技の経験無かったわ。ははははは・・・・・
今まで圧倒的な魔力と身体能力差で誤魔化していたツケが回って来たなと苦笑いした。
上中下段に左右の対角線を狙う流麗な連続攻撃を速度差で補い交わし受け流していると、フォルマの動きが止まった。
「・・・・・おい・・・あんた手ぇ抜いてんな?格闘経験が少ないんだろうが、多少は反撃出来た筈だろ!!」
「そいつは買い被りって奴だな。手を抜いているってのは認めるが、俺は魔法の方が得意なんでね。だが、それで勝ってもあんたは納得しないだろ?だから近接で相手してたんだが不満か?」
「チッ!・・・仕方ないねぇ・・・・・あんたが手を抜け無い様に全力を出してやんよ!!」
「ゴウッ!」っとフォルマの身体を赤黒い炎が包み、その膨大な魔力が周囲に吹き荒れた。
「おまっ!そんなんで暴れたらこの辺一体消し飛んじまうだろうが!何考えてんだ!止めろ!!」
「だったら本気を出してあたいを止めて見せるんだなあ!!喰らえええぇぇっ!!」
フォルマの渾身の右ストレートが迫ってくる。俺は咄嗟に右手に靄を纏い受け止め魔力を吸収しようとしたが、『バチュン』と音を立てて右手ごと消し飛ばされた。
「ハハハハハ!!どうだい、あたいの拳は?咄嗟に受け止めようとしたのは良い反応だったけど悪手だった・・・・・はぁ?!」
いやぁ、ちゃんとアナライズ使っとくべきだったよ。こいつ闇と火の属性持ちだったわ。靄じゃ闇属性防げねぇんだけど、まぁダメージとか消し飛んだ右手も周囲の魔力から直ぐに治るから問題無いって事で。
「な・な・な・・・何だお前・・・気持ち悪ぃ奴だな・・・・・再生能力の高いあたい達竜人族だってそんな直ぐに治らないぞ・・・・・」
「ああ、俺は所謂『人』の類じゃないからな。解り易く言うと人格の有る魔力そのものだ。と、言う訳で俺と戦うのは無駄って解ったろ?だから話し合いの続きといこうじゃないか」
フォルマは青褪めた顔でコクコクと頷いた。いやぁ聞き訳が良くて宜しい。
話を聞くと、何でも長老達に『いい加減結婚しろ』的な事をしつこく言われて『あたいより強い男となら結婚しても良い』と言った所、連日戴して強くも無い奴が昼も夜も無く引っ切り無しに襲って来たのでブチ切れて、正気に戻った時には集落も結界も無くなっていたのだそうだ。
何それ怖い。こいつ竜人族皆殺しにして来たって事だろ?!バーサーカーじゃねぇか!
「まぁそう言う訳でさ。あんな何にも無い所に居てもしょうがないし、叔父貴達が追放されたの思い出して山を降りたらあんたに会ったって訳。いや~あたいは運が良いわ。行き成り強い奴に会えたし」
ん?何だそれ?あ、何かまた嫌な予感が・・・・・
「ねぇ、あたいの事傍に置いてくれない?あたいより強い男なんて初めてだしさ。何ならあたいの事好きにして良いから!お願い!!」
「はぁ・・・・・お前みたいに危ない奴をほっとく訳にもいかねぇし、保護はしても良いが、好き勝手するなら力を奪ってケイオスに差し出すからそれでも良ければ・・・だな」
「うわぁ・・・それ最悪だわ。あの陰険小僧に差し出されるとか何されるか解ったもんじゃないし、暴れたりしないから連れてって」
この口振りからするとケイオスの過去を詳しく知ってそうだ。あいつに対する嫌がらせのカードとして連れて行くのは有りだな。
「よし、交渉成立だ。先ずはケイオスんとこに挨拶に行くぞ。手を出せ」
「フフフ・・・手を繋ぐのって、なんだか新鮮でちょっと照れるわね」
アホな事を言うフォルマの手を握ってドラグーン城へと飛び、避難の指示を飛ばすケイオスに近づいて行くと、その顔から見る間に血の気が引いて行った。
「・・・ぁっ・・・・・・・」
何かを呟き、口をパクパクと動かすケイオスの目が泳ぎ出し、額に汗が滲んだ。
「よう、ケイオスお坊ちゃま。お・ひ・さ・し・ぶ・り~」
「・・・ヒギャアアアアァァァァアアアァァァ・・・・・!!!」
フォルマの挨拶にケイオスは未だ嘗て見た事の無い絶望を孕んだ顔をして叫びながら何処かへ走り去ってしまった。
何あれ?一体フォルマに何されたんだあいつ?・・・ケントに負けた時でさえあんな顔しなかったのに・・・・・しかもお坊ちゃまって・・・マジウケる。
俺は「どんだけトラウマだよ」と呟き、ケイオスの痴態を見て唖然とする将軍達に避難はもう良いからと告げ、フォルマを連れてパンドラ島へと帰ったのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。