転生木箱の後日談14
さて、如何した物かと頭を悩ませ、取り敢えず家事をやらせてみる事にしたんだが・・・・・生まれた時から上位貴族として生きてきた訳で・・・まぁ出来る訳も無い。
かと言って畑仕事なんて尚更無理だし、王都に遊びに行く事のある村人達に会わせるのも不味いかなと思い、あまり外に出さない様にした。
兎に角役に立たない二人を見て、これならディアナとミネルバの方が役に立つなと思って気が付いた。
ある程度の記憶を消し、別人にして他国に送っちゃえば良いんじゃね?と。
流石に肉体は戻せないが記憶操作なら問題無く出来るので即実行。
名前と貴族としての記憶は作法や教養を有る程度残して削除し、適当に辻褄を合わせて新しく名前を与えた。母親が『ジェーン』娘が『ジェシー』だ。
やっつけ感が半端ない名前だが実際そうなのだから仕方ないって事で。
二人には何処かの国に店でもやらせて、好きに生きて貰うとしよう。
そして二人に必要な教育を施している内に一月が経った。
* * * * * * * * * *
その頃ユリシス帝国皇帝オズライト・ユリシスは、帝都に残った離宮の一室で帝国の行く末に頭を悩ませていた。
ベルトラン王国と失った兵士の遺族への補償に城と城壁の修繕費は莫大な金額になった上に、国庫は城と共に失ってしまった為に支払う目処すら立たなかったのだ。
幸い地下の宝物庫は無事だったが、売れる物は既に売り払い、国に仕える者達への給金等で精一杯だった。
そもそもここ数年で帝国の経済は下降の一途を辿っていた。北西部沿岸で製造していた塩が売れなくなってしまった為だ。
以前はどの国よりも良質な塩として高値で取引されていたと言うのに、ベルトラン王国で売り出された安い塩が自国の物よりも良質だったからだ。
ミゲイルの謀に乗ったのも、他に産業の無い帝国の苦肉の策だったと言える。
三百年続いた帝国も最早これまでかと、椅子の背凭れに身体を預け目を伏せていると、何やら外が騒がしくなり衛兵が部屋へと駆け込んで来た。
「陛下!お逃げ下さい!緊急事態です!!」
「・・・・・最早わしにはその気力も無いわ・・・何が有ったかは知らんが、わしの命一つで済むなら好きにさせるが良い」
周囲を囲む様に控えていた近衛達が皇帝の言葉に驚愕していると、駆け込んで来た衛兵を押し退ける様にパンドラが室内へと入って来た。
「はい、退いた退いた。よう!久しぶりだな皇帝さん!ちょっと頼みがあんだけど良いか?」
「・・・・・なんじゃ、そなたか・・・どのみちこの国は終わりじゃ。好きにしたら良かろう・・・そなたを止められる者なんぞ何処にも居らんじゃろうしな・・・・・」
この国を追い込んだ張本人の登場で、ユリシス皇帝は全てが如何でも良くなってしまった。
「ぶははははは!随分と落ち込んでんじゃねぇか。まぁそう悲観するなって、城位なら直してやっからさ」
「城が直った所で如何にかなる状況では無いわ。この地でやりたい事が有るなら、そなたに国ごとくれてやるわい」
「ほう・・・そりゃあ面白そうな提案だが・・・俺は国政なんて面倒な事やる気は更々ねぇよ。ま、助けてやっから手ぇ貸せや。何ならあんたが退位した後の面倒も見てやるからさ。ははははは」
「解った解った。じゃが本当にこの国を助けてくれると言うのか?そなたはベルトラン王国の貴族であろう?自国を裏切る事になるではないか」
「詳しい説明は省くが、縁あって身分は貰ったが、ベルトラン王国に属してるって訳じゃねぇんだ。だからこの国を助けたとしても文句なんて言わせねぇから安心しとけ・・・ククククク・・・・・」
不敵な笑みを浮かべるパンドラに、訝しげな視線を送るユリシス皇帝だった。
ここまで読んで頂き有り難う御座います。