外伝 遺志を継ぐ者10
大聖堂を破壊したパンドラが城へと向かうと、城の正面玄関前に集まった人達の中から皇帝と思しき五十代半ばの男性が前に出て来た。
ユリシス皇帝は城門と大聖堂が破壊された所を目撃しており、兵士達から『物理、魔法供に無効』と言う報告と合わせ、これ以上の戦闘は無意味と判断しパンドラとの対話を望んだ。
それに対しパンドラは宣言通り城を破壊、と言うか大聖堂と同様に消滅させて皇帝の身の安全を保障して西砦へと転移した。
城門の破壊、大聖堂と城の消滅に大勢の兵に囲まれた中での皇帝の拉致と、この件でパンドラの名は世界中に知れ渡り、周辺諸国はベルトラン王国へ同盟を打診する事となった。
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私が西砦の執務室で書類の確認をしていると、パンドラさんがユリシス皇帝を連れてやって来たので地下牢からミゲイルを出し、ミゲイルの犯した犯罪の証拠となる書類と供にパンドラさんに預けた。
ミゲイルはパンドラさんに脅え、喚き散らしたが、顔を掴まれ(アイアンクローと言うらしい)て気絶させられ、そのまま転移で皇帝と供に王都へと運ばれた。
私はそのまま西砦で国境と周辺の監視を続け、五日後に到着した先発隊百名の隊長に砦を任せて王都へと帰還した。
王都に着き騎士団長より現状報告を受けた。
パンドラさんの読み通り、城と屋敷が襲撃されたが戴した被害も無く鎮圧されたと言う。
特にライラの活躍は目覚しく、捕らえられた者達の解放と城内外の反乱軍の殲滅に奔走したと聞いて、誇らしくも頭が下がる思いだった。
陛下への報告を終え、三日後にミゲイルの公開処刑を行うのでそれまで自宅待機という名の休暇を戴いた。
自宅へと帰り、出迎えてくれたライラを抱きしめた。無事で良かったと、良くやってくれたと労いの言葉と供に。
そして公開処刑当日。
西中央広場に作られた舞台の後方に置かれた椅子に陛下が座り、その周囲にはライオネル様と宰相様に近衛達が、少し離れた左右に私と騎士団長が立ち、逆賊であるミゲイル・レンフォールが護送されて来るのを民衆と供に待っていた。
そして一台の馬車が到着し、両手を後ろ手に拘束されたミゲイルが下ろされて、舞台の中央に膝立ちにされて立ち上がれない様に舞台に鎖で繋がれた。
「これより逆賊、ミゲイル・レンフォールの処刑を行う!」
宰相様の言葉と供に陛下は立ち上がると近衛から剣を受け取り、ミゲイルに近寄り声を掛けた。
「ミゲイルよ・・・何か言い残す事は無いか?」
「・・・・・今更言う事は何も御座いません」
「・・・そうか・・・・・・・」
陛下は一言呟いた後にミゲイルに耳打ちすると、ミゲイルは涙を流し頭を下げた。
そして陛下が一度目を伏せ、大きく息を吐いた後に眼を見開いてミゲイルの首へと剣を振り降ろした。
ミゲイルの首から血飛沫が上がり、陛下を返り血で染めて行くが、陛下は避け様ともせずにミゲイルが事切れるまで目を放さなかった。
集まった民達はその姿に息を飲み静まり返った。
陛下はミゲイルを看取った後、舞台の端まで歩いて行くと民達に語り掛けた。
「聞け!我臣民よ!!この国はこの十年で大きく変わった!!今こそ忌まわしき過去を清算し、新しき時代を迎える時なのだ!!旧世代の者は新世代へと世代交代を進めよ!!さすればベルトラン王国は世界の先駆者となり、他国を導ける存在となるであろう!!・・・その為に・・・・・先ずは我が手本と為る!我、アスタル・ベルトラムは本日を持って王位を息子であるライオネル・ベルトラムへと譲り渡す!!」
陛下の突然の退位に周囲の人々は騒然となり、中には悲痛な叫びを上げ泣き出す者も居たが、私は唯呆然と成り行きに身を任せる事しか出来なかった。
「・・・・・ライオネルよ・・・これからはそなた達の時代じゃ・・・・・後は頼んだぞ。マークス・ガーランド、並びにケント・ガーランドよ!此度の件に対しガーランド家の功績は計り知れぬ!よってガーランド家を伯爵へと昇爵する!!これからも国の為、民の為に励んでくれ」
私と騎士団長・・・いや、父上は互いに顔を見合わせた後、片膝を付いて「有り難き幸せ」と言って頭を下げた。
そして私がこの件で反乱軍を殲滅した事が知れ渡ると、人々は私を『ベルトラン王国の守護者』と呼ぶ様になるのだった。
私は十年掛かって初代様、レイル・ガーランドに追い付けた気がした。
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。