外伝 遺志を継ぐ者9
城門を破壊したパンドラは、帝都の中央付近に見える城と大聖堂を目指し大通りの真ん中を悠々と進んでいた。周囲を大勢の兵士達に囲まれながらだが。
「おうおう!お前等ぁ!そんなんで国を守れると思ってんのかぁ!?ビブリエ教国の兵士達の方がよっぽど根性あったぞ!!いいか、大聖堂と城に着くまでに俺を止められなかったら両方とも破壊するからな!!犠牲を出したくなかったら俺を止めるか避難させとけよ!!」
パンドラは兵士達を煽ったり、皇帝を馬鹿にしてみたが、腕に覚えの有る一部の者意外からは殆んど攻撃を受ける事も無く大聖堂に着いた。
「さて・・・これより宣言通り大聖堂を破壊する!己が無力と神など居ない事を知れ!!」
パンドラがパチンと指を鳴らすと上空に巨大な漆黒の渦が現れ、その渦が徐々に下がって行き大聖堂を飲み込んで行った。
大聖堂を消し去ったパンドラは泣き崩れる神官達の前に立ち、賢者の石を収納から取り出した。
「見ろ!お前達が神と崇めていた男はこの俺が封印した!取り返したければ何時でも来い!相手になってやる!!」
この件が世界中に知れ渡り、旧教派は急速に信者を減らして行った。神が人に負ける筈が無い、旧教派の言う神は偽者だ、と。
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気を失ったミゲイルを後ろ手に縛り、引き摺りながら砦内へと入った。
生き残りは居ないかとサーチ魔法を使うと、地下に五十人弱の反応が有った。おそらくは謀反に反対した者達や砦内で働いていた料理人や雑用をしていた者達が地下牢に閉じ込められて居るのだろう。
ミゲイルを引き摺ったまま地下へと降りて行き、地下牢の手前に有った鍵束を手に取り先へと進んだ。
予想通り地下牢に閉じ込められて居たのは謀反に反対した者達や使用人達だった。私は彼らを解放して、兵士達に砦の外で倒れている者達から装備や身分証等の回収をさせ、使用人達には通常業務に戻って貰ったのだが、少々困った事になった。地下牢の最奥にミゲイルの妻と娘が捕らわれて居たのだ。
陛下は言った『レンフォール一族と奴に与する者は消して構わん』と。
だが私には彼女等を殺す事は出来なかった。
女性だからでも同情したからでも無い。彼女等はミゲイルとその息子を止める事が出来なかった自分達に責任が有ると言って牢から出る事を拒否したのだ。このまま此処で朽ち果てるまで唯生き続ける事が償いなのだと言って。
私は彼女達の処遇を陛下にお任せする事にしてミゲイルを入り口近く、彼女達から一番遠い牢へと放り込み、兵士達の指揮を取るべく外へと向かった。
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ライラは門番達と守備隊の宿舎へと向かい兵士達を解放した後、城内の掃討戦を開始した。
移動しながら部隊を分けつつ城内を隈無く捜索し、城内で働く使用人や貴族達を解放して行き、アスタルを含めた王家の者達が居るであろう居住区へと進んで行った。
「・・・・・居ました・・・おそらくこの先に陛下達が居ます。敵の総数は凡そ百名。私が先行して向こう側まで一気に抜けます。皆さんは敵の混乱に乗じてこちら側から攻撃しつつ逃がさない様に立ち回って下さい。良いですか、無理に倒す必要は有りません。殲滅は私と騎士団長で行いますから・・・・・では・・・行きます!」
ライラは連れて来た兵士達に指示を出した後、隠れていた通路の角から飛び出して敵の背後から強襲した。
限界まで姿勢を低くし、気配と足音を消したライラに反乱軍が気付いたのは、最後尾に居た兵士の腕が飛び、周囲に血飛沫が舞ってからだった。
ライラは敵を殺すのでは無く、敢えて手や足を狙って斬り付けて行き、そのまま反対側へと向かった。後続の兵士達はライラが反乱軍の1/3程の所に差し掛かった時に、大盾を持った者で通路を塞ぐ様にして前進を開始し、大盾の後ろから長槍で攻撃。この作戦が見事に嵌まり、反乱軍は混乱から抜け出す暇も無く殲滅された。反乱軍の中にはミゲイルの息子が居たのだが、ライラが擦り抜けた時に斬り付けられ、何も出来ずに終わったのだった。
ここまで読んで頂き有り難う御座います。